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終末工場日記  作者: 黒猫の凜


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とある管理者の記録④

ハナが姿を消したことに気付いたのは、反省室の扉が開いているのを見た時だった。

部屋には誰もいないと主張するかのように、扉は中途半端な位置で止まっている——


部屋を離れる時、より束縛感を与えてしまうと思い、鍵を閉めなかった。

あくまで一時的な気の高ぶりで、すぐに落ち着くだろうという油断もあった。


自身の判断ミスを悔やみながらも、すぐに捜索に移った。

道中、ハナと鉢合わせなかった事を踏まえ、廊下の反対方向へと向かう——


こちら側は、作業場や各自の部屋とは逆方向……

最悪のケースを想定し、真っ直ぐに工場の出口を目指した。


外にさえ出ていなければ、探す手はある——

そんな淡い希望は、千切られたような鎖が視界に入ると同時に消え失せた———


開いたままの扉から差し込む自然光が、足元に伸びる——

覚悟を決めて、数年ぶりに外へ踏み出した———



……



工場から細く伸びる道は、流れる月日によって、かなり見えにくくなっていた。

ハナが道に沿って移動しているなら苦労はしないが——

もはや、そんな楽観視はできなかった。


辺りをスキャンすると、案の定、森へと続く形跡があった。

それを確認すると同時に、嫌な予感に襲われる……


——昔、私が本部まで向かう前に地雷除去を行った。

だが、除去したのは道沿いに近い場所のみ……

森の奥までは確認できていない。



……



地雷の有無を確認しながら、わずかな痕跡を辿る——

当然ながら、思うようなスピードで追うことはできていない。


焦りを鎮めながら、進むべき方向を探る———



その時——

遠くで、乾いた破裂音がした。

少し遅れて、地面を叩くような鈍い衝撃が届いた———



数秒の間、脳内と機体が動きを止める———

その音と衝撃が意味する事は、嫌でも理解した。

目を凝らし、音の方向を計算し、可能な限り最速で歩を進める——


内から湧いてくる悪い想像を全てシャットアウトし、ハナの姿を探すことに集中した。





そして…


———そこに、ハナは倒れていた。


あるいは、ハナだったものが。

身体は大きく損傷し、ピクリとも動いていなかった。


得体の知れない感覚が込み上げるのを抑え、慎重に状態を確認する——

下半身の損傷は見るに堪えないが、上半身に集中して配置されている大事なパーツに欠けは無いように見える。


無論、検査をしなければはっきりとしたことは言えないが、少なくとも、希望はまだあると判断できた。



そっと…ハナを抱き上げる。

腕にかかる負荷の軽さが、身体の損傷の激しさを感じさせた。


何が彼女をここまで連れてきたのだろうか…?

どんな思いでここまで来たのだろうか…?


何も分からない、分かってやれない自分が情けなかった——



気を取り直し、脳内で検査と修理の段取りを組む。

足取りは重く、だが確実に、ハナを工場へと連れて帰った。




……




検査の結果は、自身の見立て通りだった。

幸い、重要な箇所の損傷は少なく、交換の必要もなかった。


下半身は、半端に残っていた部分を取り外しておいた。

交換用のパーツをハナに合わせて調整する必要がある為、しばらくはベッド上で生活してもらうことになる。


ベッドにハナを寝かせた時、嫌でも過去の光景と重なって見えた——

だが、ここにいるハナは、あの少女ではない。


たとえ意識を転移したのだとしても、何をもって本人とするのかは不明だ。

よって、これまでずっと別人として扱ってきた。


もしハナに、人間の記憶について聞かれたら、私はどう答えるべきなのだろうか…?

真実を教えることが、正しいのだろうか…?



……



その他に、気になる点が1つ。

ハナの脳内回路に、かなりの負荷がかかった形跡があった。


——前にククが暴走した時にも、その後の検査で似たような形跡を見た。

あの時は、謹慎などのストレスが負荷に繋がったと考えていた。


あくまで推測の域を出ないが———

もしかしたら機械ユニットの脳内回路は、人間的な負の感情に耐え切れなくなる場合があるのかもしれない。


ククは、純粋な機械ユニットの中ではもっとも人間的な考え方をするように作られた。

そして、ハナには人間の意識が入っている。


ハナは近頃、自身の役目に張り切っていたが、もしかするとどこか無理をしていたのかもしれない。


そうしたストレスや負の感情が積もり、高まった時——

機械ユニットに搭載された脳内回路では、処理しきれなくなるのではないだろうか…?


元々、人間の複雑な思考を受け入れる容器として作られたわけではない。

その可能性は充分にある———




……




———あれから、目を覚ましたハナと会話を交わした。

心配していたが、ハクとは和解できたように思う。


そして、やはりハナは精神的に無理をしていたようだ。

だが、彼女なりに考え方の変化もあった。

しばらく見守るべきだろう——


その後、過去の話をした。

これは自分でも驚いている。

もしかしたら、言うべきではなかったのかもしれない——


だが、ハナと目が合った時——

不思議と、伝えるべきだと思った。


もしかすると、真実を知れば、工場を離れたがるかもしれない……

そんな考えもよぎったが、ハナから返ってきたのは真逆の言葉だった。



「ありがとうございます……ちゃんと話してくれて。


——私、もっと生きてみます。


この工場で……

今の私を受け入れてくれた、みんながいるこの場所で。」



その言葉を聞いて、私は救われた気がした——


私は、独断で機械ユニットの処分を中止し、工場を存続させる道を選んだ。

ずっと、それが正しかったのか、みんなはそれを望んでいるのかと考えてきた。


この答えの1つが、そこに詰まっていたからだ。



「ああ…分かった。」



——言葉少なに返事をする。


いつものことだ。



しかし、心の中では感謝と決意を滲ませていた。



問題は山積みだ——

だが、少なくとも、

このまま進んでもいいと、そう思えた——

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