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終末工場日記  作者: 黒猫の凜


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36/41

ハナの記録㉝ 暗転

謹慎を言い渡された私は、何もかもが不条理だと感じて、ただただ呆然としていた——


未だにぐったりとしているハクを主任がどこかに運ぶ。


誰かに話しかけられた気もするけど、私は、ただ目を閉じて自分の世界に引きこもっていた。



やがて主任が戻ってきて、私は反省室に連れて行かれた。


反省室までの間、私も主任も、終始無言だった。



普段から色の少ない工場内が、今は、より色褪せて見える——



……



反省室に着いてから、主任はやっと口を開いた。



「…どうしてハクを殴った?」


「……あいつが悪いんです」


「それは理由になっていない。ハクに何かされたからといって、殴っていいことにはならない」


「…じゃあ永遠に我慢してれば良かったんですか?」


「そんなことになる前に、私に相談すべきだった」


「…何度も騙したりからかったりするのは良くて、一度手を出したら私が悪いんですね。じゃあこれからは私も騙したりからかったりしますね」


「……ハナ、何に怒っているんだ?」


「…………」



———話にならない。

確かに殴ったのは私が悪いかもしれない。

けど、私が一方的に責められるのは納得できない。


その時の私は、そんな感情に支配されていた。



「…分かった、しばらくここにいろ。ハクの検査が終わっている頃だ。先に修理を済ませてくる」


「…………」


「——念の為、後でお前の検査もする」



——そう告げると、主任は部屋を出た。


私はただ、閉まる扉を恨めしげに睨んでいた。



……



それからしばらく時間を置いても、私の感情は収まらなかった。

頭の中は変わらずドロドロとしていて、絶えず何かが溢れそうになっている…


頭を抱え、呻くような声を上げながら…

私は、今まで関わってきた全てが憎らしくなってきていた……


誰にも理解してもらえない————


そんな漠然とした考えが拭えず、視界に入る何もかもが嫌になる。



「そうだ……もう、こんなところにいる必要なんてない………」



ふと何かを決意したかのように動きを止め、ゆっくりと立ち上がる……


扉に手をかけると、意外なことに鍵はかかっていなかった——


今の私は、そんなことでさえ、主任が“お前を信用している”とわざとらしくアピールしているように感じて反吐が出た…



苛立ちを振り払うように勢いよく扉を開け、その場から離れる———



——遠くで静かに、扉が閉まる音が聞こえた。



……



自分でも、どこに向かっているのかはっきりとは分からなかった…


それでも、“ここに居たくない…!”という気持ちだけは強く感じていた。



だからだろうか…


行き着いたのは、外へ繋がる扉の前だった——



前に、ククちゃんを止める為に訪れた扉…

その時は、近付いただけで漠然とした恐怖に襲われていたのに……


——今は何も感じなかった。




扉に手をかける——


うまく開かず手元を見ると、南京錠と鎖が付いていた。


前の時も、今回も近くで見たのに気付かなかった…

前回は、自分の中の恐怖心とククちゃんのことで手一杯だったから…

今回は……どうでもいいや。



力を込め、鎖を引き千切る———

嫌な気持ちを全部断ち切るように、感情のままに動いた……


まばらな金属音が鳴り、鎖が床に落ちる。

もう私を縛るものは何もない…




力を込めて扉を開ける———

外から、知らない空気が流れ込んできた——




さっきまで、感情が溢れて止まらなかったのに…

今は、感情が麻痺したみたいに何も感じなかった……

まるで、なにかが乾いているみたいに思えた。



本物の外の世界への感動も、


未知に踏み出す恐怖もない。



ただ外へと歩みを進め、目の前に広がる景色を情報として捉えた。


端末で見たどんな景色よりも荒れ果てた森……

細い道のようなものが微かに見えるが、年月が覆い隠してしまっている。


そして、枯れた木々の間から、光が差し込んでいた——



私は、目の前に見える道を避けるかのように、森の中へと足を踏み入れる——

木々の先、その光に向かって自然と足が動いた。


どこに向かえばいいか分からないとか、

充電が無くなるかもしれないとか、

そんな不安も一切抱いていなかった——



夢の中で歩いていた、あの森とは違う場所なのだろうか…?

一面の色褪せた木々…

もはや森とは呼べないのかもしれない。


その木々の隙間から漏れる光に向かって、ただひらすら歩いた——

もう、そこにしか希望が無いかのように……

きっと、救いがあると信じて……



そう思っていたのに———


突然、全身が恐怖に襲われた——

忘れていた何かが、警鐘を鳴らしている———


それでも……

もう足を止める理由は、どこにもなかった。


私は、この先に行きたい……

そう強く思い、一歩、足を踏み出した——————














——————世界から、音が消えた。


一瞬、意識が飛んだのか、

気が付くと視界には空が映っていた——


まるで、身体が羽のように軽くなったようだ———


地面は、どこにあるのかな………?









———しばらくすると鈍い衝撃を受け、また意識が遠のいた。


あぁ……

地面、ここにあったんだ…


——そう思って安心する。

しかし、その目に映る地面も木々も、先程までよりも更に色褪せていた。

あちこちにノイズのようなものも走っている……




何が起きたのか分からないまま、しばらくすると地面に手をつき起き上がろうとした————


でも、右足に力を込めた瞬間、そこにあるはずの抵抗が何もなかった。


ただ、土の上に崩れ落ちる自分の体だけが、他人事のように見えた——




ノイズが走る視界で足元を見る……

腰から下がボロボロに崩れ、そこにはもはや足と呼べるものは存在しなかった————


胸の奥から、耐え難い痛みが湧き出てきたように感じる——

一瞬、血が流れ出ている光景が重なって見えた———



感情に支配され、忘れていた外への漠然とした恐怖——

それが再び身体中を駆け巡り、思わず嗚咽が漏れる———




「うっ…………ぁぁ………………」




怖い……怖い…………




あ、れ……





いつの間にか、真っ暗だ————————

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