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終末工場日記  作者: 黒猫の凜


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33/41

ハナの記録㉚ そして雷は鳴りやみ…

その日、私はレイ主任に言われた通り、朝からみんなの様子を確認していた——



具体的には、身体の異常や充電不足が無いかの確認。

あとは、一応初めてのことだったので、不安や怖さが残ってないかも聞いてまわった。


結果として、夜に起きていた先輩達は特に異常なし。

ロロさんが、”昨日の停電は幽霊の仕業”なんて話を吹聴していたが、それ以外は特に何もなかった。


夜に休眠していたみんなは、やはり誰も雷の音や停電に気付いてなかったようだ。

特に異常も無いようで、私が事情を説明するまでキョトンとしていた。

ククちゃんは、まるで一大イベントを逃したかのように目覚めなかったことを悔いていた…。



……



一通り聞き終わる頃には、かなりの時間が経っていた。

それぞれの世代の代表者に確認してもらった方が良かったかもしれない…

時計を見ると、もう作業が始まる時間になっている。


…ちょっと迷ったけど、先にレイ主任に結果を報告した方がいいだろう。

作業が始まる寸前でロコ先輩に少し遅れると伝えると、私は主任を探しに向かった——



……



普段、レイ主任は弾薬の製造を担当している作業場にいることが多い。

恐らく、一番危険で事故も多いからだろう。


その作業場をそっと覗いてみるが、いつもの場所に主任はいなかった。

一応、作業中のハハに小声で聞いてみたが、今日は一度も見かけていないそうだ…。



その後、他の作業場や整備室、主任の部屋など、いそうな場所はあらかた見て回ったが、どこにも姿は見当たらなかった。

もしかして、まだ発電設備の調整をしているのだろうか…?

でも、それだと充電が保たないかな?


いや、待てよ…?

確か、主任は昔、かなり長いこと工場を離れていた気がする。

もしかしたら、主任は私達よりも長い間、充電無しで動けるのかもしれない。



……でも、発電設備の点検って、こんなに時間がかかるものなのかな?

昨日の停電は23時頃だったし、もう10時以上経ってることになる。

もし修理が必要な状況だったとしても、とっくに終わっているだろう…。



「発電設備は屋上…って言ってたよね」



——屋上への行き方は分かる。

行ったことはないけれど、案内板で見たことがある。

一番遠いエレベーターで上の階までいって、そこから更に階段を昇る…



レイ主任のことだ。

大丈夫に違いない。



そう思いながらも、自然と足が向かっていた——

誰にだって、“もしも”がある。


昨日の夜、あの後も雷の音が聞こえていた——

もしも、主任が点検してる時に雷が落ちてきたら…?

そう思うと、突然、脳内が心配で溢れていった——



“お前は優しい子だな——”



あの時、頭に乗せられた手の感触が蘇ってくる。

あれが最後だなんて嫌だ…


エレベーターを降りる頃には、最悪な想像しかできなくなっていた。

急くように階段を駆け上がる——




“お前達は立入禁止だ——”




そんなの知るか…!

もし早とちりでも、私が謹慎になるだけだ!!



…そう思ったけど。

いざ扉を前にすると、やっぱり少し怖かった。




この先には、外がある——

厳密には屋上なので敷地から出るわけではない。




それでも、外を見たことがない私にとって、この先は未知だ——




正直、怖い……

けど、自分の中ではやっぱり心配が勝つ。






覚悟を決めて、

銀色の、少し重たい扉を開けた———






身体に、湿度の高い空気がまとわりつく。


目に映ったのは、一面の灰色。


多分、これが空なんだろう。





でも、そんなことよりも…と、主任の姿を探す——




大きな機械——

工場の中のどんな機械よりも大きい、その機械の前に…





——主任は横たわっていた。





急に周りの音が静かになり、やけに身体の稼働音が聞こえる——





「主任!レイ主任…!」



「………」



「やだ……死なないで………」



「……勝手に殺すな」



「主任…よかった!!でも、雷に打たれて…」



「……雷に打たれてはいない」



良かった…!

主任は雷に打たれてなくて、ただ倒れてたんだ…!



ん…?

それは良かったのか?


いや、今はどっちでもいいや…!!




「……すまない…部屋まで運んでくれ」




ちょっと慌てていたので気付かなかったが、レイ主任は、いつもより弱々しい声になっていた。



悩んだ結果、両腕に抱えるようにして主任を持ち上げた。

できるだけ衝撃を与えないようにしながら工場内に戻り、主任の部屋を目指す——


……


そういえば、前に端末で見たことがある。

こういうのを“お姫様抱っこ”と呼ぶらしい…。


つまり、今、レイ主任はお姫様になっているということだ。

お姫様なら、丁重に扱わないといけないよね…。




色んなことがあり過ぎたせいか、そんな訳の分からないことを考えているうちに部屋に辿り着いた。




主任の指示通りに充電の線を繋ぐ——

どうやら、主任は私達みたいな休眠装置で充電しているわけじゃないみたいだ。

その証拠に、充電中も休眠状態にならず、ゆっくりと話し始めた……



「ハナ、すまなかった…助けられたな」


「えっと…レイ主任はどうして倒れてたんですか?」


「…単純に私のミスだ。私は一度充電すれば数日間動ける。だから毎日充電する癖がついていない」


「つまり…?」


「つまりなんだ……昨日は充電しなければならない日だったが停電のこともあって失念していた。発電設備の点検が終わる頃には動けなくなっていた」



そう語るレイ主任の声は、なんだか少し恥ずかしそうだった。

もちろん、顔には出ていなかったが…



「…レイ主任でも、忘れたり失敗したりするんですね」


「当たり前だ。誰にでもある。だが、私には立場というものがある…誰にも言うなよ?」


「了解です…」



さっきまでは少し弱々しい感じだったのに…

“誰にも言うなよ?”のトーンはいつもの鋭い主任そのものだったので、私は頷くしかなかった。


もうこのまま自白してしまおう…



「あの…私、立入禁止の屋上に行っちゃって…」


「………怖かっただろう?」


「えと……はい、少し。でも、それよりも心配だったので…」


「お前を責めはしない。これは私の責任だ」



よかった…

私のやったことは、間違ってなかったってことだよね?



「……私も、初めて外に出た時は怖かった」


「主任が外に出た時…ですか?」


「あぁ…工場の為に、どうしても外に出る必要があったんだ。だから、お前が覚悟を決めて屋上に出たことは分かる」


「はい……」


「一度だけ言う…ハナ、ありがとう。以上だ…今日は休め」



“ありがとう”か…

今まで言われたことあったかな…?

つまり、それくらい珍しいことだ。

主任の声も、さっきみたいに少し恥ずかしそうに聞こえた。



「じゃあ…今日は休むので、よかったらこのまま話でもしませんか?」


「ダメだ、退出しろ——私は充電中でも端末でこなせる仕事がある」


「……はい」



さすがレイ主任…

すでに雰囲気は仕事モードに切り替わっていた。

有無を言わせぬ物言いに、私はすごすごと退散した……



……



部屋に戻る途中、ふと足が汚れていることに気が付いた。

膝のあたりが湿って、黒っぽくなっている。


砂?小石?のような小さな粒も付いていた…


それを見て、今更ながら“本当に外に出たんだな”と実感した——



…これ、ちゃんと綺麗になるかな?

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