ハナの記録㉙ 停電の夜に起きたこと
———ドゴォォォン………!!!
突如——
真夜中に轟音が響き、私は休眠装置の中で目が覚めた。
爆発だろうか…?
昔、隣でハロの腕が吹っ飛んだ時でもこんな音はしなかったけど…
身体を起こしてよく見ると、休眠装置の電源が切れている…
感覚では、まだ半分ほどしか充電されていないみたいだ。
一応、カチカチと操作してみたが、うんともすんとも言わない。
もしかして、これが停電というやつだろうか…?
初めての経験だ…。
ハロやハハ…ついでにハクの様子を見てみたが、何事もないかのように休眠したままだった。
みんなの充電も止まっているようだったが、特に異変には気付いていないようだ。
少し迷ったけど、わざわざ起こすのもあれなのでそのままにしておいた。
……
そっと廊下に出てみると、先輩達も様子を伺いに顔を覗かせていた。
廊下の電気も点かないようで、さすがにみんな不安げだ。
こんな時、真っ先に顔を出してきそうなククちゃんだが、今のところ見当たらなかった。
どうしたものかと思案していると、ロコ先輩がこちらに近付いてきた。
「ハナちゃんも起きちゃったんだね。大丈夫?」
「あ、はい…ハロ達は起きてないんですけど。それにしても、凄い音でしたね」
「そうだね…軽くみてきたけど、他の場所も停電してるみたい。多分、雷じゃないかな?」
なるほど…あれが雷なのか。
レイ主任が落とす雷とは違う、本物の雷だ——
「ハナちゃん以外の80番台の子と90番台の子達は起きてないみたいだね。みんな怖がっちゃうだろうし、かえって良かったかも…」
ロコ先輩の言う通り、隣の部屋も、後輩ちゃん達の部屋の方も静かだった。
誰かが顔を覗かせてる様子もない。
みんなは、あの音が聞こえなかったのだろうか…?
「——全員、無事だな?」
キリッとした声が聞こえ、すぐにレイ主任が来たことを悟った。
私は顔を向けて無言で頷き無事だとアピールする。
その後、みんなを代表してロコ先輩が状況を話した。
「60番台、70番台は皆起きていますが異常ありません。ハナちゃん以外の80番台と90番台、あと50番台もみんな休眠モードのままです。それ以外は把握していません」
「把握した。私は設備の点検をした後、必要があれば予備電源を入れる。それまではこのまま皆の様子を見ていろ」
——そう言い終わる頃には、レイ主任は背を向けて歩き出していた。
いつも行動が早い主任だが、今日はそれ以上に素早い。
私の記憶では、停電は初めての事だし、さすがの主任でも少し焦ってるのかな…?
「それにしても…」
「どうしたの?ハナちゃん」
「ロコ先輩でも、レイ主任と話す時はキリッとするんですね」
「…ハナちゃんはたまに失礼なことを言うね。」
……
しばらく待っていると、いくつもの機器の稼働音が聞こえてきた——
部屋を覗くと休眠装置の電源も入っている。
あちこちから安堵の声があがり、漂っていた緊張感もほどけてきた…。
「予備電源を入れた。各自、休眠装置で朝までしっかり充電すること。装置の異常で充電できなかった場合は明日報告しろ。その場合は休んで構わん。以上だ——」
いつの間にか戻ってきたレイ主任がそう告げると、廊下にいたみんなは各々の部屋へと戻っていった。
さすが、仕事が早い。
さて、私も部屋に戻ろう…と思ったけど、ふと頭の中で何かが引っかかって足が止まる——。
“装置の異常は明日報告しろ——”
主任なら、その場で全ての部屋の装置を確認して回りそうなものだけど…
どうしてそうしないのだろう…?
別に大したことではないけど、どうしても気になる…。
気付けば、既にこの場を離れようとしていた主任を呼び止めていた——
「レイ主任…!」
「…なんだ?」
「えっと…異常は明日報告しろっていうのは、その…主任は今からまだ忙しくするのかなって…」
「…そうか、不安にさせたならすまない。私は今から発電設備の点検をしにいく。予備電源はいつまでも保たないからな」
なるほど…
やっぱりまだやることが残ってたのか。
主任だって充電しなきゃ明日は動けないかもしれないのに。
「手伝いましょうか…?」
「………」
何気なく言ったつもりだったが、なぜか主任は少し驚いたような顔をしていた。
その後、ふっと表情を緩めると、私の頭に手を乗せた——
「…お前は優しい子だな。気持ちはありがたいが、発電設備は屋上にある。お前達は立入禁止だ」
「えっと…そうなんですね。じゃあ、頑張ってください」
「ああ。代わりに、明日は皆の様子をよく見てやってくれ」
「分かりました…!」
私の表情を確認すると、主任は足早に行ってしまった——
さっきまで手を乗せられていた頭には、まだ少し感覚が残っていて、なんだか少し気恥ずかしかった。
でも、みんなの事も託されたので少し誇らしい気持ちも混ざっている。
——振り返ると、廊下にいるのは私だけになっていた。
みんなを起こさないように、そっと扉を開けて部屋に入る——。
みんなは静かに目を閉じたままだ…
自分のスペースに戻ると、休眠装置に異常が無いことを確認した。
明日の役割の為に、今はしっかり休眠しておこう——。
……
その後、また何度か雷の音が聞こえた気がした。
けれど、また停電が起きることも、途中で目が覚めることもなかった…。
——次の日、レイ主任は姿を見せなかった。




