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終末工場日記  作者: 黒猫の凜


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30/41

ハナの記録㉗ 扉を開けたり、勝手に閉まったり

この工場には“七不思議”がある——


“存在しないはずの100番目の機械ユニット”

“工場内で迷わせる白い猫の幽霊”

“稼働効率が2倍になる休眠装置”


そして、今日の話題に挙がっていたのは、

“悪霊が蔓延るトイレ”

というものだ。


3階の一番東にあるトイレ…

その奥の個室から、水音や扉の音が聞こえてきて……

近付くと、ドンドンと壁を叩くような音までするという……


ちなみに、これはロロさんが話した内容だ。

いつものことだが、ロロさんはこの手の話になると熱量が凄い。

さっきも、鬼気迫る語り口だった。


それを興味津々に聞いていたのがククちゃんだ。

今にも、“そのトイレに行こう!”と言い出しそうなくらい身体が前に傾いている。



「それで、そのトイレってなに??」



なるほど、まずそこからか。

トイレとはなにか…実に哲学的だ。

私も知ってはいるが、いざ言葉で説明しろと言われたら難しい…

そう思っていると、ロコ先輩が解説してくれた。



「トイレっていうのはね、人間が排泄物を処理する為の場所だよ。ちなみに排泄物っていうのは、食べたり飲んだりした後に出る不要なカスみたいなものだよ。だから、電力で動く私達には関係のない話になっちゃうね」



…さすがロコ先輩だ。

こういう返答がスラっと出てくる辺り、本当に賢いんだろうな。

たまに言動がおかしかったり、野次馬気質なところもあるけど。



「ふーん…じゃあ、行ってみたい!」


「だ…ダメだよ。呪われちゃうよ…?」



なにが“じゃあ”なのかさっぱり分からないが、ククちゃんは予想通り”今すぐ行こう!”と言わんばかりだ。

それをロロさんがスピリチュアルに止めている。

多分、呪われちゃうからダメっていうのは、ククちゃんには通じないだろう…


まぁ…

どっちみち、その気になったククちゃんは誰にも止められないんだけどね……




……




そんなわけで、みんなで例のトイレまで来てしまった。

ククちゃん、ロロさん、ロコ先輩、ハロ、私の5体だ。

ロロさんは、口では“ダメだよ〜…”って言いながらも、やっぱり気になるのか結局着いてきた。


私も、今のところ七不思議を本気にしているわけではない。

ちょっとだけ怖くて、脚の動きが悪くなってきてるけど。


それにしても、確かにここらへんは雰囲気がある…

さっきまでより室温が下がり、少し空気も薄く感じる。

普段、誰も近寄らない場所だからかな…?



「ねぇねぇ、扉2つあるよ…?どっちがトイレ?」


「これは、男性用トイレと女性用トイレだよ。性別で分かれてるの」


「性別…?人間の種類ってこと?人間は人間でしょ?」


「う〜ん……とりあえず、中を覗いてみる?七不思議に出てくるのは女性用トイレみたいだよ」


「うん…!」



多分、ロコ先輩なら説明できただろう…。

それでも話を変えたのは、きっとククちゃんの疑問は尽きないと思ったからだ。


ククちゃんは、人間についての疑問はもう吹き飛んだようで、既にトイレの中を覗き込んでいた。

私達も後についてぞろぞろと入っていく——


一応、退路確保の為に、扉は開けておくことにした。



……



トイレというのは思ってたよりも細長い空間で、手前には蛇口とか鏡が並んでいる。

その奥に、いくつかの扉があった。

怖いもの知らずのククちゃんは、もうその扉に手をかけている…



ギィィ……と、若干耳障りな音が響いた——

思わず背筋がゾクッとする。



「うーん…中は椅子があるだけだよー!狭い…!!」



おそるおそる覗くと、確かに白い椅子みたいなものが1つあるだけの小さい部屋だった。

真ん中が抜けていて、底に穴が見える…。

穴は奥で曲がっているようで、先が見えなかった——



「真夜中になるとね…あの穴から白い手が伸びてきて、近くの子を引きずり込むの…」


「ロロさん…それも七不思議の話ですか…?」


「ううん…今、わたしが考えたの…」


「………」



…危ない、ハクの時みたいに思わず手が出そうになった。

我慢しよう…仮にも先輩なのだ。

でも、ちょっと想像して、穴を見るのが怖くなってしまった…





ギィィ…………





また、あの耳障りな音だ…

誰かが扉を動かしたのかな…?


——そう思って振り返ると、みんなこの小さな空間を覗き込んでいた。

扉を開閉した様子はない。


あれ、気のせいかな…?

そう思って首を傾げると、一番後ろでハロも同じく首を傾げていた。



「ハロ、どしたの…?」


「んーと…一番奥の扉がね…今、勝手に開いたよ」


「………」




みんなでそろそろと確認すると、確かに一番奥の扉が開いていた。

しかも、ちょっとゆらゆらしてる気がする…




「見てくる…!!」


「待ってククちゃん!!う…力つよ…!!」




いかにも怪しげな雰囲気に突っ込んでいこうとするククちゃんの腕を必死に掴んで止める——

なんてパワーだ…さすが性能が一番良いだけはある。



「でも見ないと分かんないよ…!!」


「分かんなくていいの!!」



なんでこの子はこんなにも無敵なんだ…

いかにもヤバそうな雰囲気なのに。

そんな攻防を繰り広げていると…




“バタンッ…………!!!”




と、今度は後ろから音が聞こえた。

あまりの音に肩をビクッ…!と震わせる。


さすがのククちゃんもビックリしたようで、一緒にそーっと振り返った……





——すると、廊下に繋がる扉がなぜか閉まっていた。





「私、あの扉は開けてきたはずなんだけど……」


「あぁ…わたしたち呪われちゃった……」


「ハナ先輩、手ぇ離して…!見てくるから…!!」


「んと…ロコ先輩がいないよ」


「え…?」



ハロの指摘通り、いつの間にかロコ先輩がいなくなっている。

もしかして、悪霊に連れていかれたのだろうか……?

終わりだ、もうロコ先輩には会えないだろう……



あまりの状況に油断し、掴んでいたククちゃんの腕を離してしまった…


占めたとばかりにククちゃんは廊下へ繋がる扉に突撃していった——!




バァァァン…!!!

と凄い勢いで扉が開くと、廊下から甲高い悲鳴が聞こえてきた……




「ごめんなさいごめんなさい……!!もうここには来ません…!!!」




これは……

もしかしなくてもロコ先輩の声だ。

聞いたことがないくらい怯えた声だけど。



「ロコ先輩…!悪霊になにかされたんですか??」


「ううん…ちょっと耐えられなくて逃げちゃったの…」


「………」



この先輩、みんなを置いて逃げたのか……


なんかちょっと…

いやでも、それだけ怖かったのかな。

意外だ…一番平気そうだったのに。



「そこまで怖かったなら無理に着いて来なくてもよかったんですよ…?」


「で、でも…みんなのお姉ちゃんとして…」


「………大丈夫ですよ。私にとっては、お姉ちゃんじゃなくてただの先輩なので」


「………」


「ククちゃんも、もういいよね?戻ろう…?」


「え〜〜!!奥の扉は??」


「わがまま言わないの!ほら、ロコ先輩も限界っぽいし…」


「うー……」



渋々といった感じだったが、ククちゃんもなんとか折れてくれた。

特に大きな事は起こらなかったはずなのに、なんだかとても疲れた気がする……



最後に一度だけ振り返り、トイレの扉を見た。

すりガラスの奥、なぜか開いた個室の扉はここからでは見えない…


私は、悪い気を振り払うかのように、手で身体を払いながらその場を後にした——



……



気が付いたら、休憩時間は残りわずかだった。

みんなは慌てて持ち場に戻り、それぞれの準備を始める…


ククちゃんは隣で、”扉を調べたかった”とまだ悔いていた…

反対側ではハロがまたもや首を傾げている。



「ハロ…なにか気になるの?あの扉…?」


「んーとね…扉じゃなくて、壁がね…なんであんなに手形がいっぱいだったのかなって…」


「……………」




……





その日の午後の作業はあまり記憶にない——

記録では、弾薬を取り落としたり、箱を潰したりと、私のミスは過去一多かったらしい。




後日、“トイレで呪われた子が作業でミスを連発した”という噂が広まった。

これは、七不思議“悪霊が蔓延るトイレ”を語る際の定番の話題となったそうだ。

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