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終末工場日記  作者: 黒猫の凜


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ハナの記録㉓ 工場の流行語

私は今、非常におこている——



いや、言い間違えた訳ではない。

この、“おこている”というのは、最近、主に90番台の子達の間で流行っている言葉らしい。

誰でも察せるとは思うが「怒っている」という意味だ。

しばらく前から流行っていたそうなのだが、私もさっき、共用スペースで初めて聞いた。


“もしかして、おこているの…?”


“とってもおこている!!”


などと口々に言っていたが、正直、そこまで怒っているようには見えなかった。

あくまでただの流行りで、お互いにそこまで本気ではないのだろう。


こういう流行りがあればククちゃんが真っ先に言い出すかと思っていたけど…

なぜかこの流行りには乗っていなかったようだ。

なので、ククちゃん経由でこの流行りを知ることがなかった私はちょっと乗り遅れた。

なんだか悔しい気持ちがある…。


……


そういえば、ククちゃんは最近、あまりこっちに絡んでこなくなった。

かといって落ち込んでるわけでもなく、最近はなぜかずっと身体を小刻みに揺らしている。

作業中もノリノリで、たまに弾薬を取り落としていた。

それは危険なのでやめてほしいが、本人は至って楽しそうだ…。


……


今、共用スペースには90番台の子達が7~8体いたが、やはりここにもククちゃんはいなかった。

話題の中心にククちゃんがいないのはなんだか不思議だ…。


じゃあ、この“おこている”という流行り言葉はどこから誕生したのだろうか?

輪の中に、顔見知りのクハちゃんがいたのでちょっと聞いてみた。


「ねぇ、クハちゃん…この”おこている”は誰が言い出したの?」


「あ…ハナさん」


そう言って振り向いたクハちゃんの胸元には、”おこている!”と書いてある紙が貼られていた…

ダサいとかそういうことではなくて、どうしてこうなっているのだろうか…


「ど、どうしたの…?誰かに貼られちゃった??」


「ち、違うんです…!これはその…クク宛のメッセージというか…その…」


「えっと……なるほど?」


「あ、ごめんなさい。ちゃんと説明しますね…」


……


クハちゃんの説明によると、最近、ククちゃんが全然話を聞いてくれないらしい。

そこで、話を聞かないなら、目に入るように胸元にメッセージを貼ろうと思った。

でも、『怒っている!』だとちょっと恐いかもしれないと思って、なんとなく『おこている!』にしたらしい。

多少、捻りを入れた方がククちゃんの気を引きやすいと思ったのかもしれない…。


だが、それを他のみんなに見られて…いつの間にか”おこている”ブームになっていた。

恥ずかしかったので一度はメモを外したが、みんなから強く求められて、今こうして貼った状態で座らされているらしい…。

なんとも可哀想な話だが、ちょっと可愛い気もする。


「結局、ククちゃんにはメッセージは届いてないの?」


「ククのことはいいんです。他の手を考えますから…」


「そっか。ならいいんだけど…」


……


しかしどうしたものか…

どう見てもクハちゃんは恥ずかしがってるし、いたたまれない表情だ。

相談を受けたわけではないが、これも悩みなのではないだろうか…?

そう思って、助け舟を出すことにした。


「あ、そうだ!クハちゃんにちょっと手伝ってほしいことがあるんだ〜。忙しいのにごめんね!」


「あ…いえいえ!大丈夫ですよ。いきましょう…!」


クハちゃんはすぐに察して立ち上がった——


“離れちゃダメ!おこているよ!”

“どこ行くの?おこていたの…?”


多少みんなに引き留められたが、なんとかその場をあとにする。

こうして、クハちゃんを窮地から救うことに成功した。


……


「ハナさん、ありがとうございます…」


「いいんだよー…早く流行が過ぎるといいね」


「ええ、ほんとに…」


こころなしか、クハちゃんの笑みには疲れが滲んでいた。

流行に乗り遅れたのが残念って思ってたけど、あまり良くない流行もあるんだな…。


しかし、“怒っている”を敢えて“おこている”と書くとは…

いつもククちゃんの世話を焼いてるイメージだったけど、意外と面白いセンスをしてる子なのかも。

今度、また話してみようかな?

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