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終末工場日記  作者: 黒猫の凜


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ハナの記録㉒ お悩み相談係

今日は、お悩み相談係としての活動初日だ。


係のことが決まった後、お悩み相談BOXというものを作り、共用スペースに設置した。

何かあれば誰でもここに相談メモを入れられる。

実際の活動は週2回の休日、面談室を拠点にして行う。

BOXに相談メモを入れなくても、直接、面談室に来て相談してもらうこともできる。


修理や調整が必要なお悩みだったらコイ先輩の力を借りられることになったし、私の手に余る内容ならレイ主任に報告すればいい。

主任と決めた内容を思い出しながら、自分の緊張をほぐす…。

よし、活動開始だ——



……



まずは共用スペースでお悩み相談BOXを覗いてみる——

箱の底に、3枚ほど紙が見えた…

設置から数日しか経っていなかったが、思ったより入っていて少しほっとする。


これが係としての初めての仕事だと思うと、ただの紙も特別に感じる。

まぁ、最初だから興味本位で入れた紙も混じってるかもしれないけど…

内容も見てないのに、頼られてる感じがして既にちょっと嬉しい。

とりあえず全部抱えて面談室へと向かった——



……



ふぅ…と一息つき、座り心地のいいソファに沈む——

この面談室は昔からのお気に入りだ。

今まではレイ主任の目を盗んで、ここで休憩したりもしていたが…

これからは休日に堂々と入れるのだ。

これが”役得”というやつだろう。


テーブルに紙を並べる——

BOXの横にメモ用紙とペンを並べておいたので3枚とも紙色は同じものだ。

だが、こうして並べると、折り方に個性が見える。

ちょっと斜めに二つ折りにしてあるもの、角を揃えて丁寧に四つ折りにしたもの、手紙っぽく可愛く折ってあるもの…


とりあえず、一番下に入っていたであろうものを手に取ってみた。

可愛く折ってあるやつだ。

記念すべき一枚目を開く…ちょっとドキドキする。



『最近、ルームメイトのハナちゃんが全然構ってくれないんだよ~。どうしたらいいと思うかな、ハナちゃん♪助けて助けて~(泣)』



「………」



気付けば、私のドキドキはどこかに吹っ飛んでいた。

ついでに手に持っていた紙もどこかに吹っ飛んでいた。


はっと我に返り、紙を拾う…

こんなのでも一応、私の初仕事なのだ。

ちょっと汚された気がしたが、気を持ち直して丁寧に畳む。

だが、別に解決してやる気は無い。

どっちにしろ、この紙には相談者の名前さえ書かれていなかった。

ハクのいつものおちょくりだろう…



……



よし、今のは無かったことにして…記念すべき一枚目だ。

とても丁寧に四つ折りにした紙。

なんだかもう緊張はしなかったが、気にせず紙を手に取った——



『朝起きたら、ボクの首にかみが挟まって取れなくなってて困ってる… ハロ』



…またルームメイトだった。

”朝起きたら”っていうのは今日なのか昨日なのか…

首に髪…パーツの隙間に挟まったってことかな?


こういうのはいつも通りコイ先輩に直接言ってくれたらいいんだけど…

ハロのことだから、相談係ができたならそっちに相談しなくちゃ…って思ったのかも。

この件は、コイ先輩とハロ、先に会えた方に伝えておこう。



……



さて、最後の一枚…

もしこれがハハだったら、なんか気を使われてるのかと思ってしまうところだけど…

ちょっとだけ顔を強張らせながら、二つ折りの紙を開く——



『落とし物をしちゃって困ってます。詳しくは面談室で。 ナオ』



おぉ、ナオさんか…。

昔の作業場ではお世話になってたけど、ここ数年は話してなかったな。

”面談室で”って書いてるけど…今日訪ねてくるってこと?


そう思って面談室の扉を振り返ると、小窓から中を覗き込む不審者がいた——

思わず身体がビクッとした……ぞわっともしてる。

不審者の正体は、もしかしなくてもナオさんだった。

ほとんど扉にへばりついていたナオさんを中に招き入れる——


……


「いやぁ~、ごめんね!直接来るなら紙は入れなくてもいいかなって思ったんだけどさ、まぁ予約的な?」


「いえ、大丈夫ですよ。ちょっとビックリしたけど…。お久しぶりです、ナオさん」


「うんうん久しぶりー。それでね、落とし物なんだけど、私ってよく漫画とかイラストとか描いてたでしょ?」


「4コマ漫画とか見せてくれましたね。じゃあ落としたのはペンとか…?」


「ううん、絵を落としちゃって。できるだけ早く探したいんだ~」


「えっと…つまり描いた絵を落としたんですか。いつ頃とか場所の心当たりは…?」


「んー、ハナちゃんには話しといた方がいいかな…?この前、図書室の漫画コーナーに行ったのね?そしたら、思ってたような漫画が1つも無くてさ。私、つい落書きしちゃったんだよね」


「…そ、そうなんですか。確かに私も思ってた漫画とは違いましたけど」


「でしょー?でもそれがすぐ見つかっちゃって、レイ主任にそれはもう怒られたのね?罰として図書室で本の整理をしろー!って。でもつまんなくてさ、置いてあったメモ用紙に鬼の角生やして怒ってる主任のイラストを描いてたんだー」


「……」


…昔話した時は、ナオさんはもっとまともだと思っていたんだけど、どうやら記憶違いだったらしい。

それか、ここ数年で変わったのだろうか…?


「でさ、誰かの足音がしたから、描いた絵をとっさに小さく折りたたんで、手に持って図書室から退散したんだけど…その時に誰かにぶつかっちゃって。後で気が付いたら主任の絵がなくなっちゃっててさ。図書室まで戻ってみても見つかんないんだよー」


「それはなんというか…大変ですね。じゃあ、探しに行ってみますか」


「うん、すぐ行こう!よろしくー」


…レイ主任に提出する活動報告には、”落とし物を探した”くらいぼかして書いておこう。

そう思いながら、ナオさんと共に出発した。



……



とりあえず、もう一度図書室の周りを一緒に探してみよう——

ということになり向かっていたのだが、途中でハロの件を思い出した。


「あの、ちょっとだけ部屋に寄っていいですか?ハロに伝えたいことがあって…」


「うんうん、いいよー。ハロっちにも久々に会うな~」



……



了承を得て部屋に向かうと、ハロとコイ先輩がいた。



「あれ?もうコイ先輩に診てもらってたんだ…?」


「んーと…廊下を歩いてる時にね、気付いてくれて…あ、取れた。」



見てみると、コイ先輩の手に小さな紙が握られていた。

”かみ”って”紙”だったのか…髪の毛かと思ってたよ。

まぁなんにせよ解決したなら良かった…。

そう思っていると、ナオさんが隣で声を上げた——



「あった…!それ…その紙!私が折ったやつだよー、よかった~!」



そう言うと、紙を受け取って広げはじめる…

そこに描かれていたのは、聞いていた通り”鬼のレイ主任”というタイトルがつきそうな絵だった。

絵の中の主任は、思ってたより邪悪な顔つきをしている。


なるほど、ナオさんがぶつかったのはハロだったのか。

それにしても、この紙がちょうど首の隙間に挟まるものかね…?

…さすがハロだ。

なんだかあっけなかったけど、これで無事に解決か…。



みんなで「良かったね」と言いながら絵を覗き込んでいると、いつの間にか部屋の入口に誰かが立っていた——

現実の…鬼の角が無い方の主任だった。

レイ主任の視線は、ナオさんの絵にまっすぐ注がれている…



「面談室に置いてあった相談用紙にハロの名前があったので様子を見にきたが…解決したようだな?」


「あー、この絵は別に誰とかではなくて~……ごめんなさーい!!」


「…別に絵の事をとやかく言うつもりは無い。だがな、お前はこの前、図書室の整理を途中で投げ出したな…?今すぐ来い——」



ナオさんは、あっという間に連れていかれてしまった…。

途中、何かを叫んでいた気がするが、よく聞き取れなかった。

レイ主任とナオさんが曲がり角に消えるのを見届け、面談室に戻ることにする——



えっと…

お悩み相談係としての初仕事は、成功…でいいのかな?

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