とある管理者の記録③
本日、ハナが休暇を申請しにきた。
「気力が湧かないので休みます…」
こんな休暇申請は前代未聞だ。
一喝して作業場に連れていくべきだろう。
…本来なら。
なぜそれを躊躇っているのかは分かっている。
先日、ハナから相談があった。
恐らく、一部の図書室の本が過去の記憶を呼び起こしたのだろう。
結局、私は何も助言しなかった。
そして、その日のうちに図書室の生活コーナーを撤去した。
こんなことをしても根本的な解決にはならない。
だが、他にしてやれることもない。
可能な限りの継続…それだけだ。
休暇申請も、先日の件に起因しているのだろう。
私には、“気力”というものが分からない。
故に、それを解決してやることもできない。
だが、管理者を名乗るなら理解しようとするべきだ。
……
恐る恐るこちらを伺うハナに問いかける。
「お前は、何がしたい?」
「えっと…ごめんなさい。ふざけるなってことですよね」
「いや…すまない。言い方が悪かった。お前は、何かやりたい事はないのか?」
ハナは、しばらくポカンとした表情を浮かべていた。
私に叱られると思っていたのだろう。
いや、本当はそうすべきだったのかもしれない。
ハナは戸惑いながらも口を開いた…
「趣味…探そうと思ってたんですけど、まだ見つかってないです」
「そうか……趣味は、ゆっくり探せばいい。作業も…しばらく休め」
「えっと…ありがとうございます?失礼します…」
……
おずおずと下がるハナを見送り、目を瞑る——
これでは何も言っていないのと変わらない。
理解には遠く及ばない、当たり障りのない助言。
過去と現在で名前を貰っておきながら、私はハナに何も返してやれない。
人間の記憶を思い出させるのか、封じ込めるのか…
どちらが正しいのかすら分かっていない。
この場所を、可能な限り継続させる…
それを第一とするなら、これまで通り過去から離し、安定させるべきだ。
だが、それは本当にハナ自身の為になっているのか?
そこまでは、私の能力では判断がつかない。
今はこれでいい…はずだ。
引き続き、選択肢を与える為に新しい部屋を解禁する。
無論、今の環境の維持継続に支障が出ないように…。
……
昔、ハナには、
“余計な事を考えるようになってきたな”
“それは故障だ”
と話したが、事実を知った今、それはあいつの人間らしさが顔を出し始めただけだったのだろう…
…私こそ、故障しているのかもしれない。
昔よりも確実に、余計な考えが頭を満たす時間が長い…
ただの機械ユニットでも、誰かに似てくることがあるのだろうか?
——それでも構わない。
だが、もし故障なら…
もうしばらく耐えてほしい。
少しでも長く、日常を継続させる為に——




