ハナの記録⑲ あの日見た指を求めて
今日は、朝から問題なく作業ができている。
ククちゃんもなんだかご機嫌のようで、文句も言わずに頑張っていた。
恐らく、解禁された場所を楽しめているのだろう…。
それと、心当たりはもう1つ…今度から休日が増える。
今までは週に1日の休みだったが、週に2日の休みになるのだ。
正直、休日が増えても何をしていいか分からないが…
図書室で漫画でも読んでみようかな…?
……
そんなことを考えていると、いつの間にか休憩時間になっていた。
ハロは、またどこか調子が悪くなったのか、コイ先輩に診察してもらっている。
待ってるのも暇なので、誰かと話でもしようかな…
そんな気持ちでうろついていると、ロナさんと目が合った——
次の瞬間には距離を詰められていて、「聞いてよー!」と絡まれていた。
特別な歩法でも会得しているのだろうか…
「どうしたんですか?ロナさん」
「えっとね、一昨日のことなんだけど…ミミ先輩と共用スペースに行ったらね、箱に指が立ててあってね…!ビックリしてミミ先輩はキュ~って気を失っちゃったの!!」
「へ、へぇー…そんなことが……」
「ほんと許せない!!指を置いた子はどうかしてるよ…!!」
「いやホント…随分と悪質なイタズラですね」
…別に忘れているわけではない。
それは私のせいだ。
まさかそんなことになっていたとは。
でも、誓って悪意は無かった…ミミ先輩には今度謝ろう。
……
そんな気まずい話をしてから持ち場に戻ると、ハロはまだ調整中だった。
なんだかいつもより長引いているようだ…。
「コイ先輩、ハロはいつもより調子悪いんですか…?」
すると、コイ先輩は右手を広げて見せてくれた。
そこには、あるはずの人差し指が無かった——
目が疲れているだけかと思ったが、間違いなく指が4本しかない。
そんな機能は無いはずだが、冷や汗のようなものを感じた…。
「ユビ…ナクナッタ…ジカン…カカル…」
「えっとぉ…ちなみに、替えの指とかは?」
そう尋ねると、既に話を聞いていたのかハロが答えてくれた。
「んとね…ぴったり合う指の在庫が無かったから、新しく作らないといけないんだって。」
…どうやら、あの指はコイ先輩の物だったようだ。
そう確信すると時計を見る——
私は残り僅かな休憩時間の中、もう一度ロナさんの元に向かった。
「ハナさん…!指!どこにやりました??」
「え?覚えてないよー。ミミ先輩の仇討ちのつもりで遠くに投げちゃった」
まずい。非常にまずい。
私の不用意な行動で、コイ先輩やハロに実害が出ている…
これは私のせいだ。
なんとか見つけ出さなければ…!
……
その日の作業が終わると、私はさっそく行動に移った。
しかし、共用スペースの周辺を探してみるも、どこにも見当たらない…。
そこで、よく共用スペースにいるみんなに聞き込みを行うことにした。
【聞き込み調査① ロコ先輩】
「ロコ先輩、あの時ロナさんが投げたものがどこに飛んで行ったか覚えてませんか…?」
「うーん…ロナちゃんが騒いで何かを投げたのは見てたけど、それがどこに飛んだかまでは見てないよ。それよりも、あれって指だったの?そう思うと、なんだかシュールな絵面だね」
言ってる場合か…!!
こちらの気も知らず、ロコ先輩は手を口元に当てて笑っている…。
別にロコ先輩は何も悪くないが、焦っているので心の中でキツめのツッコミを入れる。
【聞き込み調査② ハコちゃん】
「ハコちゃん、見てないかな…?」
「箱に立ててた指…残念ながら、ハコは見てないよ。あっ…今のは"箱"と"ハコ"をかけてみたの。ハナちゃんに教えてもらったダジャレってやつだよ?どうかな…?」
「……私はダジャレなんて言ったことないよ。」
「そうだったの…?勘違いしちゃったかな。でも、落とし物入れの箱は共用スペースの角に置いてあるから、ロナさんが遠くに投げたのだとしたら対角線上に投げたんじゃないかな…?」
「なるほど、一理あるね。」
「でもでも…!もし遠くっていうのが共用スペース以外も含めるなら、扉の外に向かって投げた可能性もあるよね。ごめんね、紛らわしい意見だったよね?」
「いや…全然大丈夫だよ。」
私が深く考える隙も無く、ハコちゃんの考えはハコちゃんによって否定された。
この前も思ったけど、この子は色々と考え過ぎてしまうところがあるようだ…。
「でも、ハナちゃんはどうして指を落とし物入れに立てちゃったの…?あ、もしかして、指だけに『”ツメ”が甘い』っていうギャグだったのかな…?」
一体、ハコちゃんは私をなんだと思っているのだろうか……
少なくとも、私の頭からそんな高度なギャグは出てこない。
「違うよ…」と苦笑いをしてその場を離れた——。
【聞き込み調査③ ロロさん】
「ロロさん、何か心当たりとか…」
「わたし、見ちゃったんだ…。その日は、休眠モードの接触が悪くて、たまたま夜中に目が覚めちゃったの。また怖い夢を見てたところだったから、助かった!って思ってたんだけど…部屋の外から足音が聞こえてきてね…」
指のことを聞いたつもりだったのだが、私は何を聞かされているのだろうか…?
「そっと廊下に出てみるとね…暗闇の奥で目が光ってたの。それで、こんな時間に出歩いてるのはククちゃんぐらいだろうと思って、小声で『ククちゃん…?』って呼びかけてみたんだ…」
…ごくり。
と、つい息を飲んでしまった。
ロロさんは怖いのが苦手なはずなのに、こういう話をするのが上手い。
「すると、その影は慌てて床の何かを拾って走り去っちゃったんだ…!あれはきっと、ククちゃんの幽霊だよ…」
なるほど…ククちゃんの幽霊か。
さすがロロさんだ…なぜその結論になったのかまるで分からない。
でもいいことを聞いた。
床の何かを拾って走り去った…
もしかして、もしかするかもしれない。
……
調査の結果、私はククちゃんの部屋を訪ねることにした。
覗いてみると、中にいたのはククちゃんとクハちゃんだった。
「ハナ先輩だー!どしたの?」
いきなり突進してきそうな勢いのククちゃんをクハちゃんが制している。
クハちゃんに感謝しつつ、部屋の中でククちゃんのスペースらしき場所を見る——
あった…!
なぜか、祭壇のような場所の中心に指が祀られていた。
「ねぇククちゃん、その指なんだけど…」
「……!違うよ!!あの指とは違うやつだもん!」
「いや、色も長さも同じに見えるけど…」
「じゃあ…レプリカだ!あの指のレプリカなんだよ!」
指のレプリカとはなんだろうか…。
しかし、こうなったククちゃんを説得するのは簡単ではない。
どうしたものかと困っていると、クハちゃんが助け舟を出してくれた…。
「クク、やっぱり勝手に持ってきたんだね…ダメだよ?ハナさん、きっと困ってる人がいるんですよね?」
「うん、実は…」
そう言いかけたところで、後ろに気配を感じた——
「クク…コウカン…」
振り向くと、コイ先輩の涼やかな顔が見えた。
手には、指が一本握られている。
その指は塗装が違うのか、よく見ると半透明になっている。
ククちゃんは表情をぱっと輝かせると、両手で指を受け取った。
夢中になってるククちゃんの代わりに、クハちゃんが祭壇に祀られていた指を持ってくる——
「ありがとうクハちゃん!またね…!」
良いアシストをしてくれたクハちゃんにお礼を言い、部屋を後にした…。
……
道すがら、コイ先輩に話しかける。
「コイ先輩、ごめんなさい。見つけた時に私がみんなに確認してれば…」
「ダイジョウブ…アリガト」
「あの代わりの指は、ククちゃんにあげちゃって大丈夫だったんですか?」
「コッチ…」
そう言うと、コイ先輩に腕を引かれてどこかに案内された。
ここは、調整室…の横にある保管庫?
コイ先輩が鍵を使って扉を開ける——
目に飛び込んできたのは、大量の指や眼球だった…
色とりどりの眼球と目が合い、ふっと意識が薄れる……
倒れる直前、謝罪の言葉が浮かんだ——
ミミ先輩…驚かせてごめんなさい。




