ハナの記録⑮ 夢と主任の名前
「つまり、名前はないってこと?」
「管理者の下で働くだけだ。必要ない」
「なるほど…でも呼ぶ時に困るね。なら、管理者よりは下ってことで、”主任”とかどう?しっかりしてそうだし。」
「この施設に主任という役職は存在しない。だが、勝手に呼ぶのは構わない」
「じゃあ、とりあえず主任で。また今度、良い名前が浮かんだら提案するね。」
……
うーん…
なんだか、朝から変な夢をみた。
主任との会話で、私はベッドで横になっていて…
でも…
あれは多分、私じゃない。
だって、主任にタメ口だったし。
そんな恐れ多い…。
所詮、夢は夢なのである。
私は思いっきり伸びをして、立ち上がる。
なんとなく床を踏みしめ、感触を確かめた——
よし、今日も頑張ろう…!
……
そんな朝の決意もどこへやら、相変わらず私の集中力は低かった。
主に、今朝の夢のことを考えている…。
主任の名前…
そう言われれば、確かに主任の名前を知らない。
私達みたいな番号も聞いたことがない。
もしかすると、本当に名前が無いのだろうか…?
……
休憩時間になると、私はロコ先輩達のところにいた。
やっぱり気になったので、主任について聞いてみることにしたのだ。
「主任って、番号も名前も無いんですか…?」
「うーん、わたしも聞いたことないかな。彼女が管理者になった時も、『主任と呼べ』としか言ってなかったから。」
「あれ?主任って管理者なんですか…?どこかで管理者の下って聞いたような。」
「多分、ハナちゃんが言ってるのは管理職じゃないかな?主任は管理職の下だけれど、管理者ではあるからね。」
なるほど…??
正直、頭がこんがらがってよく分からなかったが聞き返しはしなかった。
多分、夢の私は勘違いして命名したのだろう。
現実の私でもやりそうなことだ。
それと、やはりロコ先輩も主任の名前については知らないようだ。
「じゃあ、もし主任に名前を付けるとしたら、どんなのがいいと思います?」
「難しい質問だね…。ほら、わたし達はみんな番号からとって名前を付けているでしょう?」
確かにそうだ…
もし主任にも番号を付けるなら、何番が適切なんだろうか?
100番…だと、ククちゃんが後輩扱いしそうで怖いな。
となると、みんなを纏める立場ってことで0番とか…?
「何の話だ…?先ほど『主任』と聞こえたが」
……!
別に悪いことは言っていないのに、その場にいたみんなは無意識に姿勢を正した。
「えっと…主任には番号とか名前は無いのかなぁ…と」
「無いな。それだけか?」
「それで、名前を付けるならなにがいいかって話になってました」
この何十年間で既に知っている。
主任には隠し事をしても無駄なのだ。
なので、初手から洗いざらい話すに限る。
しかし、今日はいつもみたいにすぐに返事が返ってこなかった…。
顔を上げると、なぜか私をジッと見ている。
「そうか……なら、お前が名前を付けろ」
…予想外の返事に一瞬フリーズする。
そういうパターンもあるのか。
まだ私は主任を知り尽くしてはいなかったようだ。
「そうですね…じゃあ、みんなを纏めてる主任なので0番ということにして…ゼロ……いや、レイ…?
うん、レイさんとかどうでしょう??」
「…分かった。なら、レイ主任と呼べ」
「あ、はい。分かりました…レイ主任」
結局、『主任』は付けるのか…
と思ったが、穏便に済ませたいので口にはしなかった。
主任はぶつぶつと小声で何か言っていたが、しばらくすると改めて私を見た——
「レイ主任…良い響きだ。礼を言う」
よほど気に入ってくれたのか、珍しく礼を言われる。
(レイと礼をかけたわけじゃないよね…?)
そんなくだらないことを考えていると、主任はすでに作業場を後にしていた。
周りのみんなは口々に「すごい!」と言ってくれた。
…改めて考えると凄いことだ。
私が、あの主任に名前を付けてしまった。
これはめでたいことなのかもしれない。
図らずも、夢の私がした約束を果たすことができたのだ…!
だからなんだという話ではあるが…。
もしかすると、こういう展開になるという正夢に近いものだったのかもしれない。
「名付け親」なんて言ったら怒られるかもしれないが…
少なくとも今までよりもレイ主任を近く感じられそうだ。




