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終末工場日記  作者: 黒猫の凜


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ハナの記録⑬ 不具合と外への扉

久しぶりに良い目覚めを迎えられた——

機械ユニットでもそういう感覚があるのかは分からないけれど。

ここ数日の心配事が解決したからかな…?


今日からククちゃんも戻ってくるし、あの元気を受け止める準備もこれで万全だ…

そんなことを思いながら朝の準備をしていると、いつも通りハロの声が聞こえた。



「ん…おはよう、ハナ」


「うん、おはよ……ハロ?」



思わず疑問形になってしまったのは、なぜかハロの頭が傾いていたからである…。

一応、私自身が傾いてるわけじゃないことを確認しながら話を続ける。



「ねぇハロ、なんで首を傾げてるの?」


「…傾げてないよ?」



…いや、はっきり分かるほどに首を傾げている。

正確には、傾げているのは頭だけど…こういう時も”首を傾げる”と言うらしい。

それにしても自覚なしか…また動作不良かな?



「ハロ、残念ながら傾げちゃってるから、後でコイ先輩に診てもらおうね。」


「うん…わかった」



……



作業場に着くと、コイ先輩を呼びに行った——

もう慣れたもので、私が駆け寄っただけでコイ先輩はハロのことだと分かったようだ。

コクリと頷いて、すぐに診察に来てくれた。



「僕、治るかな…?」


「ナナメ…モドル」



ハロは週に1回は不具合が出る。

なので、コイ先輩にはお世話になりまくりだ…

この診察の様子も見慣れた光景になった。

コイ先輩の手つきはとても丁寧で、ハロも安心して身を任せている——


……


そんな様子を眺めていると、いつの間にか作業の時間になっていた。

そういえば、ハロのことがあって忘れていたけど、今日はククちゃんが戻ってくるんだった。

まだ隣が静かだから遅れているのかもしれない——


そう思って振り向くと、ククちゃんはそこにいた。


いつ来たのだろう…?

なんだかあまり表情が無く、淡々と作業を始めている。

てっきり、朝から有り余った元気をぶつけられるものだと思ってたけど…


気にはなったが、私も作業があるので手を動かし始めた——



……



その日はククちゃんが気になって、あまり作業は捗らなかった。

休憩時間に声をかけるつもりだったが、再び首を傾げだしたハロをコイ先輩に預けにいってる間にいなくなっていた——



結局、ククちゃんと話せたのは作業が終わった後だった。

それも、足早に去ろうとするククちゃんを呼び止めた形だ…

朝と変わらず、あまり表情の無いククちゃんの様子を探ってみる——



「ねぇ、おかえりククちゃん。大丈夫…?」



「はい、大丈夫です…」



「えっと、今日、元気なかったように見えたから…どうしたのかなって」



「ごめんなさい。私、行くところあるから…」



そう言うと、ククちゃんは早足で離れていってしまった——

どう考えてもククちゃんらしくない…

さすがに放っておけなくて、見失わないように後を追うことにした。



……



ククちゃんは、この広い工場内を迷いなく歩き続けている——

私がついてきてるのは足音で分かっているはずだが、それでも振り向くことはない。


そのうち、不安になってきた…

ここはもう、私達が普段行き交うエリアではない。



「ねぇククちゃん、どこ行くの…?」



「………」



——返事はない。


この先には、もう私達が利用できる施設はなかったはず…

あるのは古い会議室と食堂、大きな車庫。



それと、外に続く大きな扉——


もしかすると、ククちゃんは…




「ククちゃん……外に出たいの?」



「……うん」




…今度は、小さな返事が聞けた。


ククちゃんは足を止め、ゆっくりと振り返る——

静かで、見たこともないほどに虚ろな目…

そこにいつものククちゃんはいないように思えた。


工場の外……私は、考えたこともなかった。



“外はとても危険、ここを離れてはいけない——”



これは私達の常識だ。

ククちゃんだって分かってるはずなのに…



「外は危ないんだよ…?それに、外に休眠装置があるか分からないし…また充電切れになって倒れちゃうかもしれないよ…?」



「昨日、また2倍稼働できる休眠装置で充電したからしばらく大丈夫…。もし外で充電できなかったら戻ってくるから…」



「でも…!何かあって戻ってこれなくなったら——」




「それでも………出たい」




そう言うと、ククちゃんは再び前を向き歩き出した——




「待って…!ククちゃん!!!」




ククちゃんは、もう振り返ってはくれなかった…


私の声を振り払うように、どんどん早足になる——




どうしよう…?

今から主任に伝えにいったら、きっと見失ってしまう…!


でも、私まで外に行くわけにはいかない…

抵抗されても止めないと———!




外に続く扉が視界に入った…

ククちゃんはなにかに急かされるように駆け出し———






”バタンッ”……!!!と、派手にコケた………






一瞬、呆気にとられたがすぐに駆け寄る——

コイ先輩が介抱する時のように、ククちゃんの身体を横に向けて様子をみた。


よほど衝撃が大きかったのか、ククちゃんは目をクルクルさせている…

しばらく肩を叩きながら、繰り返し何度か呼びかけると、ククちゃんはパッ…と目を覚ました。




「…あ!ハナさんだ!!久しぶりー!」




「………?え、と……?久しぶり?」




「…ん?ハナさん、ここどこー?」




「えっと、ここは——」




——外への扉の前。

そう言いかけて、口をつぐんだ。

なぜか、言わない方がいい気がした……


ククちゃんは、さっきまでのことを覚えていないのだろうか…?



「そういえば聞いたよ!なんだっけ……?そうそう、ホログラム!それ、見れるようになったんでしょ??」



「あー、うん…共用スペースだね」



「見に行きたい…!まだ時間あるかなー?!ん~、ここから共用スペースに行くには……」



そう言うと、こめかみに指を当てて辺りのスキャンを始める——


脳内でルート検索を終えると、ククちゃんは共用スペースめがけて駆けていってしまった——。



……



いったい、なんだったんだろう…?

今日、いつもと様子が違った時は、謹慎中に新しい個性が増えたのかなと思った。

静かで真面目なククちゃんに変わったのかもしれないと…


でも、さっきのククちゃんは前までのククちゃんと同じように見えた——

”いつも通りのククちゃん”だった。


いつもと違うククちゃんは”不具合”…だったのかな?

今度、コイ先輩か主任に聞いてみてもいいかもしれない…


……


私は、ククちゃんが去った方向とは逆側に視線を向けた——


”外に続く扉”


もし、ククちゃんが外に出ていたら、どうなっていたんだろう…?

もしも私が外まで追いかけていたら、なにがあったんだろう…?




ふぅ…とため息をつく——


どちらにせよ、私にそんな勇気はない。

それに、外は怖い…

どこからくる恐怖なのかは分からないが、それが私の素直な気持ちだった。

なぜか、脚のパーツが少し震えた——




——しばらくして、思考が安定しだしたのを確認する。

扉に背を向け、共用スペースを目指してゆっくりと歩きだした…



ククちゃんに投影機の使い方、教えてあげないとね——。

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