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恋愛チート  作者: ぜーだい
二周目
15/17

14. 新しい家族

「凄かったね……」


 春瀬院さんの代表挨拶を思い返す。

 一周目、初めてお店で会った時も無かった訳ではないけど、上に立ってスポットライトを浴びるとカリスマ姓が遺憾無く発揮されてた、とあたしは思う。


「ああ、悪い意味でな」


 でもえーちゃんはお気に召さなかったみたい。


「あたしは良かったと思うけど……」


 彼女の言葉は、入学しただけで浮かれてたあたしには突き刺さった。


「おいおい、あのいけ好かない女の支配に呑まれかけてんぞ! まあガチでそんなことにはならないだろうけど……他の特待生含めてな。器小さいし。あんなのが良いって、今までにどんな酷い演説を聞いたんだっつー話だよ」

「…………」

「まあ、そんなことより驚いたのは――」

「ああ、それは本当に驚いたね」


 まさかあんなことになってたとは……。




 えーちゃんと話し込んでたら、お父さんの待つ場へとあっという間に着いた。

 彼女は悪凌家の皆様の下へ。


「お父さ~ん」


し~ん


 ……あれ? 返事が無い。

 あらぬ方向を見ながらぼーっと立っている。……まさか!


「お父さん!! 空の声とか聴いてないよね!?」

「わ!? あ、あれ? ユミちゃん?」


 こちらに気づいたお父さんの顔は赤くなり、瞳がキラキラと潤み……これは、風邪だな!


「空の声?」

「そんなの良いから、早く帰らないと……あ、その前にお薬を買って……」

「え? え?」


 あたしはお父さんをぐいぐいと引っ張って行った。






 学園の入学式は土曜日に行われた。従って、日曜日とその次の日がお休みになる。

 今日は日曜日。

 昨日入学式から帰った後、お父さんに『大事な話がある』と言われた。今日家にお客様をお招きして、その方を交えて説明するとのことだった。

 お父さんのその真剣な表情も、家に誰かがやって来ることも珍しい。気にはなったけど、詳細について知るにはその方の訪問を待つ必要があった。


 ついさっきその客人が家に着き、居間にお通しした所だ。ここでは四人の人間が集まって対面している。

 あたしの隣にはろっちー。目の前にはそのお客であるところの女性がいた。

 美しい人ではあったけど、まず受ける印象は“かっこいい”だ。高い身長、洗練された仕草、研ぎ澄まされた刃のような鋭さ。……なんだかこの雰囲気、どこかで見たような。


「こちら、夜暮(よくらす)花厳(カゴン)さん」

「初めまして」


 隣のお父さんに紹介されたカゴンさんが、ぎこちない笑みを浮かべる。普段あまり笑うことのない人が無理矢理に笑顔を繕った感。表面的にはお父さんと対照的だけど、その奥から人の良さが滲み出ていて好印象だ。

 それにしても、夜暮? なんだが記憶の端に引っかかる……どこで聞いたんだっけ。


「あの、あまりに突然で驚くと思うんだけど……」


 お父さんがそう前置きしてから放った言葉は、あたしを驚かせるなんてものじゃなかった。


「僕達、結婚します」


 ――――。


「ハユミ、大丈夫かの?」

「はっ!」


 意識飛んでた。

 ろっちーの言葉に正気を取り戻す。


「その……やっぱり、反対だよね」

「…………」


 お父さんとカゴンさんがしゅんとした様子であたしを見る。


「ううん! 全然そんなことない! むしろ祝福するよ!」


 ただあまりにも突然過ぎたから。

 その後詳しい話を聞けば、昨日の入学式で出会った時、お互いに一目惚れ。少し話し込んだ後にお父さんがプロポーズされ、今に至るとのこと。

 いくら何でも急過ぎる。

 ただ、最近のあたしにとっては普通じゃないとか非現実とか、そういう非日常が日常になってきた感がある。つまり、心当たりがある。


『ちょっと! ろっちー!』


 あたしは声を潜めてろっちーに問いかける。


『ろっちーの力、あたしじゃなくてお父さんに作用してない?』


 あたしの了解を得るやいなや、お互いに熱い視線で見つめ合い、固有結界を張りだした二人。小声じゃなくても聞こえ無さそう。

 まさに運命の出会いって奴を果たしたんだろう。


『そんなはずはないのじゃが……』


 否定しつつもしきれないと言った様子でろっちーが呟く。

 と――


ピンポーン


 その時響いたチャイムの音にみんなの意識が向く。

 誰だろう?


「あ、ごめんなさい! 言いそびれちゃったけど、カゴンさんにもお嬢さんがいてね。少し遅れるって話だったから……」

「……!」


 お父さんが「いけない!」という感じで、目と口を開いて隠すように口の前で手を広げつつ言った。声に出しこそしなかったものの、カゴンさんからも同じような感情が伝わってくる。

 じゃあ、今来たのがそのお嬢さん……あたしの新しい姉妹か。

 ちょっとワクワクする。どんな子だろう? 姉かな、妹かな?

 みんなで玄関まで迎えに行くと、そこにいたのは――


「あ!」


 その姿を見て思い出した。母親にも通じるその怜悧な雰囲気――

 一周目で初めて春瀬院さんと出会ったあの場に彼女もいた。春瀬院さんのインパクトが強すぎて忘れてたけど、確か名前は――


「レイさん!」


 あたしのその言葉に、レイさんは眉を顰める。

 あ、しまった! そりゃそうだ、あたしにとっては二回目の出会いでも、彼女にとっては初対面なんだから。


「……自己紹介の必要は無さそうですが。夜暮(よくらす)(レイ)です」

「名前!!」


 レイさんが自己紹介を終えると、カゴンさんから叱責が飛んだ。

 無口なカゴンさんのものとは思えない、刺すような厳しい声。その鋭さは雰囲気から窺えたけど、何故それが今、娘に向けられたのかが分からない。


「失礼しました。柵菖レイです」


 自己紹介をやり直して深く頭を下げるレイさん。


(あ、そういうこと?)


 カゴンさんに視線を向ければ、「娘の許可も得たし、すぐに籍をいれないとね」などと話すお父さんとともに、目にハートを浮かべながらイチャラブ空間を形成していた。

 …………。


『どうやら答えがやって来たようじゃのう』


 あたしがややゲンナリした気分でいると、それまで沈黙を保っていたろっちーが口を開いた。ただし、あたしにだけ聞こえるように。


『答え?』

『うむ』


 あたしも小声で返すと、彼女は一つ頷いてから続けた。


『レイと言ったか。あの(むすめ)が、ハユミの運命の人じゃ』




 場所は変わってあたしの自室。

 あの後のお話で、お父さんとカゴンさん……新しいお母さんはこの家で暮らすことに。

 レイさん……いや、レイちゃんか。彼女は妹になることが判明したから。今は同じ歳だけど、あたしは4月生まれで彼女は1月生まれ。ほぼ一個下だ。

 そのレイちゃんとあたしとろっちーのお邪魔虫は、これからは夜暮家に住むことに。もちろん理由は邪魔だからって訳じゃなく――ろっちーはそう考えて提案したんだろうけど――夜暮家はあの学園に近い場所にあるから。

 引っ越しは業者さんがやってくれるらしい。今はそれに向けての準備中。


「色々訊きたいことはあるけど、まず確認したいのは――」


 荷物をまとめる手を一旦休めてろっちーに尋ねた。


「レイちゃんがあたしの運命の人ってのは本当? 勘違いとかじゃなくて?」

「間違いない」


 彼女は力強く頷いた。よほどの自信があるのだろう。


「あたしはピンとは来なかったけど――」


(印象的ではあったけどね)


 初めての出会いを思い出す。他にも女の子はたくさんいたけど、彼女はその中でも浮き出て見えていた。

 でも、それを言うなら春瀬院さんの方がよほど印象的だったし。


「レイを見た時、本能的に分かったのじゃ。どうも妾は、比喩的に言うなら血族の小指に結ばれた赤い糸が見えるらしい。その相手をこの目に写せばの」


 それが先に分かってたら運命の人も見つけやすかったんだろうけど……。まあ力のことだって、それが発揮されて初めて記憶が少し戻ったんだから、そういうもんなのかな。

 でも、もう見つけたんだから関係ないか。

 それにしても――


「あたしの運命の人って女の子だったんだ……」


 あたしも女の子なんだけど……。


「なんでだろ?」

「なんでも何も……お主は女子(おなご)を好む(たち)では無いのか?」


 言われてみれば……。

 ソウジは論外としても、リヒトに対して意識すらしなかったのは変だったかも。それどころか、なんかライバル視してたし。

 マコトは……というかあたしが気づかなかったのって、周りにマコトやお父さんみたいな男性がいたからかな。いや、あたしの利己性が、茨の道を歩むことになりそうな事実から目を逸らさせてたのかも。

 そんなことより――


「あたしって、女の子が好きだったんだ……」


 口に出すと、より一層自覚が深まる。

 なんだか……なんだか、恥ずかしい!


「でも、タチというよりネコだと思う」

「そういう意味で言ったのでは……まあそういう意味かの」

「意味は分かるんだ」

「少女漫画や少女小説を読み漁ったからの」

「恋愛モノが好きなんだね」

「当然じゃろう。妾が司るものが何なのか忘れたか?」


 ろっちーと軽口を叩きながらも、こっ恥ずかしさは拭えない。むしろどんどん心の奥から溢れてくる。

 恋愛。

 なんと甘く切なく、そして恥ずかしい単語だろう。

 なんか、中二設定を書き込んだ黒歴史ノートを誰にも見られないように自室の奥深くに隠して、いつしか自分でも忘れてたのに、姉に発掘されて目の前に広げられたような感覚だ。


コンコン


 誰かが扉を叩く音に会話を中断する。

 扉を開けると――


「レレレレイちゃん!?」


 うわ、まずい。

 みるみる顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。

 どうしちゃったんだ、あたし! いや、むしろ本来のあたしはこうだったのか?


「……? ハユミさん、準備はお済みですか?」

「う、うん……いや、ごめん! もうちょっとかかりそう!」


 彼女はあたしの答えを訊くと、そのまま踵を返そうとする。


「待って!」

「はい?」


 思わず呼び止めてしまった。

 うわわ、何やってんだ! 


「あ、あの……」


 どくんどくん。心臓の音。

 滲む汗。

 言葉が何も浮かんでこない……。

 彼女は静かにあたしの言葉を待っている。


「お姉ちゃんって呼んでもいいよ!」


 え、何言ってんの。

 混乱と空白から思わぬ言葉が飛び出した。


「遠慮しておきます」


 すげなく返される。

 だ、だよね。

 彼女は今度こそここから離れようと――


「……私は、あなたの妹になんてなりたくはありませんでした」


――する前に、背を向けたまま呟いてから去って行った。


「…………ろっちー」

「な、なんじゃ?」

「なんかあたしの運命の人、あたしへの好感度が低いんだけど……」

「そ、そういうこともあるじゃろう」

「是非、恋愛を司るローズ様にアドバイスをお願いしたいのですが」

「あ、あどばいす? う、うむ……そうじゃのう。今回の一年で得た経験を活かして次回の一年に繋げるのが良いじゃろう」


 早くも諦めてる!


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