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恋愛チート  作者: ぜーだい
二周目
13/17

12. 今までがプロローグみたいなもんじゃい!

 がやがや。

 掲示板の前に集まった人々のざわめき。


「う……」


 時は三月の始め。

 少年少女たちの上げる歓喜の声、流す悲哀の涙……。


「う……」


 あたしは、本命の学園の合格発表の場に来ている。

 ほんの数行で済んでしまう、合格者の受験番号の羅列。それが仰々しくも、大きな紙に載せられ豪華な縁取りで飾られる。こんな所でさえ学園の持つ力が窺える。

 そのような学園に一般人が挑もうと言うんだ、門の狭さは仕方がない。

 歴史や財力のあるお坊ちゃまやお嬢様方が通るのは、広く大きく常に開かれた門。

 あたしたちには通れない。警備の厳しい目によって、通る資格が精査されるから。ただし、試験に合格すれば、正門の横にある小さな門を通ることが許される。

 一度足を踏み入れてしまえば、そこは同じ世界。勝ち組の世界だ。

 長き戦いだった……。これからの人生をより良いものにすることを目指して始めた孤独な戦い……。えーちゃんにかなり協力してもらったけど。

 それは良いんだ、そんなことより結果だ。果たして――


「受かった~!!」


 おっしゃああああ!! どうだああああ!!

 フラグ立ったかな? ってちょっと不安だったけど、心配要らなかったぜ!! 

 こっからあたしの薔薇色の人生が始まる! 今までは序章、プロローグみたいなもんじゃい!!


「ゆゆゆん、おめでとう」

「ありがとう!! えーちゃんのおかげだよ!」


 今日の合格発表にはえーちゃんと二人で来た。試験の時に起きた事件もあって治安の悪さは理解したけど、一周目では危険は無かったし。

 彼女は微笑みを浮かべながら、素直に祝福してくれる。前回は酷かったからね……。


「あ……」


 そこまで考えた時、あることに思い至った。

 そうだ、えーちゃんは……。あたし、自分のことしか考えてなかった……。


「ごめん、えーちゃん。落ちた人の前ではしゃいじゃって……」

「何でだよ!? オレも受かったに決まってるだろ!?」


 あたしの言葉にツッコミが入る。

 あれ?


「受かったの?」

「当たり前じゃん! 誰がゆゆゆんに勉強教えたと思ってるんだよ」


 そりゃそうだ。

 あたしも最初、えーちゃんが受かると信じて疑ってなかったし。

 そもそも前回はどうして落ちたんだろ? そしてどうして今回は受かったの? ……まあ今回のあたしは前回とは違うルートを進んでるし、バタフライエフェクトとか?

 えーちゃんが前に言ってたな……ラプラスの悪魔がどうたらこうたら。決定論やら量子論やら。よく憶えてないけど、同じ人間が同じ条件で同じ行動をとっても、結果が同じになるかは分からないとか。

 つまりそこまで気にする必要は無い……あ、でも必ずしも同じ結果にならないとしたら、前回安全だったからって無警戒なのは不味いってことか。気をつけよう。


「とにかく、これでまた同じ学校に通えるな!」

「うん」


 にかっと笑うえーちゃん。


「えーちゃんのこと、消しゴムよりも頼りにしてるからね」

「……消しゴムって……それ褒めてんの?」

「あは!」

「え? 何その笑い? テンションたっかいな~。ま、気持ちは分かるけどさ」


 下らない会話をしつつ家へと向かう。

 前回とは違って気分を高揚させながら。






「ただいま!」

「お帰りなさい……おめでとう、ユミちゃん!」


 玄関の扉をくぐると、お父さんにいきなりお祝いされた。

 いや~分かっちゃう? 勝ち組のオーラ、出ちゃってる?


「ありがとう! 不肖ハユミ、無事合格しました!」


 びしっと敬礼すると、お父さんは軽く口に手を当ててお上品に笑う。


「ふふ、それじゃあもうすぐご飯の準備が済むから、呼ぶまでお部屋で待っててね」


 そう言ってお父さんは台所に戻っていく。 

 あたしは言われた通りに自分の部屋に。


「どうじゃった? じゅけんとやらは」


 ろっちーは読んでいた漫画を一旦傍らに置きながら言う。

 中に入ると、彼女は座布団を連ねたものの上に寝っ転がりながら漫画を読んでいた。くつろいでんな。


「上手くいったよ!」


 それも今は気にならない。


「ふむ。良かったの。妾には良く分からぬが」


 そっけないな~。


「ろっちーの記憶って、以前の生活に関するものは何もないの?」

「うむ。妾が人ではないことと、それに類する異能のことくらいじゃのう。どうしてあの神社にいたのか、それまではどうしていたのかについてはまだサッパリじゃ」

「その口ぶりだと、情報収集にも進展はなし?」


 以前の話し合いで、ろっちーはまずあの神社について調べることに。何と言っても怪しいし、それくらいしか手がかりもないし。

 まず、近隣の図書館では何の収穫もなし。そもそも神社の来歴どころか存在に関する記述自体、影も形もなかったとのこと。

 お父さんのパソコンを使わせてもらって、インターネットで検索もしたらしいけど、それも駄目。てかろっちー順応早いな! あたしですらパソコンとか良く分からないのに。それは置いといて。

 行き詰ったろっちーは、最近、柵菖家について調べて始めた。何でと訊いたら、曰く『あの神社の場所とこの家の場所は近いからのう。歴史ある家柄のようじゃし、何か記録が残っておるやもしれん』。なるほど。


「残念ながらの……。父君に話を窺ったり、書斎にあった本もしっかりと検めもしたのじゃが……。父君が言うには両親、即ちハユミの祖父母であれば詳しい話も訊けたかも知れぬが、自分は元々家を出た身であるからと……」


 話を訊こうにも、もう亡くなってるしね……。


「時間遡行で生前まで戻れればいいんだけどね」

「それは無理じゃろうな」

「だよね」


 血が繋がった瞬間よりも前には戻れない。何となくだけど、あたしにも分かる。


「ということは、結局ろっちーの記憶の回復を待つしかないのか~」

「そうじゃの。まだ時間も残っておるし情報収集を続けても良いが……率直に言って、もう飽きたしの」

「率直過ぎる!」


 ま、まあいいか。続けても実りは無さそうだし。


「あ、そうだ。この時間遡行に関して、友人に助言を求めるのはどうかな?」


 友人とはえーちゃんのこと。以前彼女が話してたことを朧気ながらも思い出すと、時間に関する認識が独特だった気がする。それでなくとも、何か思いもよらない解決方法を導いてくれるかもしれない。


「それは止めておいた方が良いじゃろう」

「どうして? 信じてもらえないから?」

「むしろ信じられた方が問題じゃ。お主はどうじゃ? 自らの与り知らぬ所で時間が巻き戻り、その間の記憶を失うと知って、それ以降の時を心穏やかに過ごすことが出来るのか?」

「……やめとく」


 確かに、聞かされた方はたまったもんじゃないね。できる限りあたし達だけで取り組んだほうが良い。

 でも本題を濁せば助言くらいなら……いや、えーちゃんなら察するか。余計なことはやめとこう。


「それで、ハユミの方はどうなのじゃ?」


 今度はろっちーの方が尋ねてくる。


「どうって?」


 ただ、その質問の意図が分からない。


「何を言うておるのじゃ……運命の人に関する話に決まっておろう」

「あ、ああ!」


 そうだった。あたしは運命の人と恋仲になることを目指してるんだった。

 でもなあ……。


「あたしもサッパリ。そもそも見つけられるのかなあ」


 ろっちーが言うには、運命の人ってくらいなんだから見たら分かるだろうとのこと。根拠はなし。


「妾の力が運命の人を引き寄せて仲を取り持つものじゃからの。すぐに出会うじゃろう」


 そう言えばそうだ。時間遡行のインパクトが強すぎて忘れてたけど、ろっちーの本来の力はそれだった。

 むしろ巻き戻りはついでみたいなもので。……ついでにしちゃあ、えらいことになってますけど。


「それなら、一周目で既に運命の人に出会ってたのかな」

「その可能性は高いじゃろう。ピンと来る人はおらなんだか?」

「う~ん……」


 そう言われてもな……。

 一周目で仲良くした男子って、あの三人組くらいだし。他にピンとくるようなのはいなかったな……。

 あの男子ーズは何というか身内で、恋愛ってのは考えられないし。


「まあ、待ってればその内向こうからやって来るか。時間だけはたっぷりあるしね」

「それは“ぶらっくじょーく”という奴かの……?」

「HAHAHA!」

「いや、笑えぬぞ……」


 ろっちーは未だに悲観的だね。そもそもろっちーの悲観が移ったんだっけ? 時間遡行の際に血の繋がりを通じて。


 その後はたまに雑談を挟みつつまったりしていると、


「ご飯できたよ~」


お父さんから声がかかった。


(前回よりも時間かかったなあ)


 そう思いながら向かうと――


「合格おめでとう!」


 そこには。

 綺麗に飾り付けられた部屋。テーブルの上にこれでもかと載せられた、豪華な食事。


「こ、これ、あたしを祝うために……?」


 その料理はとても雑談の間に用意できるものじゃない。もっと前から準備してたんだ。合格できるかどうかも分からないのに。


「もちろん!」


 豪勢な料理を見れば、前回失敗を告げた日の翌日に出されたものの片鱗が見える。多分、次の日の料理にバレないように流用したんだろう。

 どうしてそんなことを? あたしに気を遣わせないためだ。

 繰り返さなければ、気づかなかった。


「あたし、お父さんみたいな人と結婚したいな」


 実の親子じゃないから気を遣って……とは思わない。素で優しい人だから。

 運命の人がお父さんみたいに優しい人なら良いな。


「え? どうしたの急に? 照れるよ~」


 微かに頬を染めるお父さん。


「妾も父君は結婚相手としてこれ以上ないと思うぞ」

「もう、ローズちゃんまで。やめてよ~」

「ちなみにろっちーはどんな所が?」

「一番は料理の腕じゃ!」


 なるほど。それも良いね。


「ハユミの理想の相手はどんな人じゃ?」

「優しい人かな~」


 それを訊いたろっちーは深く頷く。


「あと、見た目が良いに越したことはないね」

「まあ、それはそうじゃのう」

「あたしの言うこと聞いてくれて~ワガママを許してくれて~」

「…………」

「そして、お金持ち!」

「理想高すぎじゃろ! なるほど、運命を掴むのも易くはなさそうじゃのう……」


 だって、ろっちーが理想を言えって……。


 その後は歓談を楽しみつつ、素敵なお料理で夢のような一時を過ごした。


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