笑顔と微笑み
和輝の心から零れた呟きは、彼が思う以上に咲希を喜ばせた。ニヤニヤとした笑顔を和輝は優しい微笑みに変え、咲希の方に顔を向ける。
「気持ち悪っ、勝手に言ってろ」
それはなんだか照れ臭くて言った言葉、咲希の照れ隠しであった。和輝の先程の笑顔と今の微笑みが違うものであるように、咲希の先程の気持ち悪いと今の気持ち悪いも違っていた。
そしてその違いが楽しくて、咲希はぷっと笑みを零した。もう梓のことは気にならないようで、咲希は和輝の方を見て花のような微笑みを浮かべる。
「笑っていてくれて、ありがとう。そこは本当にお前の長所だと思うから、大切にした方がいい」
毒を吐き疲れたというように、今度は優しい言葉を投げ掛ける咲希。本当に大切な和輝の為だから、気持ちを込めて優しく伝えた。彼が変わってしまうのだけは、避けなければいけないと思ったから。
特別な彼を、この世界の色に染めてしまわないように。
「えっ、咲希ちゃん? 俺は別に、お礼を言われるようなことはしてないと……」
そこまで言って和輝は、まあいいかと再び微笑んだ。咲希の柔らかい微笑みを見たら、何もかもどうでも良くなってしまった。だからただ微笑んだ。優しく、寂しく……。
「この部屋に入って、もう二度と出てこなくていいのにゃ。日良様はアズだけの日良様なので、調子に乗らないでいてにゃ? 容赦はしにゃいのにゃ」
二人の微笑みや雰囲気など興味ないようで、空気も読まず梓は告げる。そして部屋まで案内するという任務はもう終えたので。とも言わんばかりに、さっさと去っていってしまった。




