平和へと
しかし彼女は、それが不可能であることも分かっている。自分の非力さが嫌で、咲希はもう泣きそうになっていた。そしてそんな顔を、絶対に和輝に見られたくなんかなかった。和輝を信頼しているから、和輝にだけは見られたくなかった。
彼の前では強い自分でありたいと思う。それでも仲間を想ったら、涙は自然と溢れてくる。だから壁に顔を押し付けて、プルプルと震えていた。溢れる涙を必死に堪え、震えていた。
「私は一葉が心配なんだよ。本当に皆を守りたいんだ、そうは思ってる。無理だって分かってるけど、分かってるんだけどっ! でもね、戦争を無くせば少しは平和になると思うんだ」
そう言うと、一度は堪えられた涙が再び溢れてくる。今度は止めることなど出来なかった。床を水浸しにするのではないか、というほどに涙を溢れさせていた。それほどまでに、咲希の気持ちは溢れていたのだ。
「だから私は……、豚みたいな奴が許せない。私みたいな奴も許せない。でもお前も悪いよ、バカ」
自らの欲の為、人々を犠牲にする林太が咲希は嫌いだった。平和を掲げながらも、人々を守れない自分が咲希は嫌いだった。平等を目指そうとする咲希の、特別になろうとする和輝が咲希は大好きだった。
そして、和輝のことが大好きな自分が大好きで。けれど、和輝のことを特別に思う自分は嫌いだった。
泣き声で話す咲希を、和輝はどうにか励まそうとした。平和を愛する二人の下へ、異様な笑顔で日良はやって来た。




