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十三幕

ピータ・ロビンソ隊士はその光景に、呆然としていた。


(…うちの閣下も化け物だが、奥方も負けてねーし!何あれ!何なのあれ!?)


クレイモアを軽々と扱うアルファンと、見た目とはうらはらに剛健なユーリット。


どちらも本気ではない、打ち馴らす程度の攻防は、剣舞のように美しい。無駄がなく、余計な動きがないせいか、その動きひとつひとつが素人目でも明らかに違う。


鋭いユーリットの突きに、アルファンは大剣のクレイモアを軽々と振るい、ユーリットの攻撃を防ぐと、その勢いのままユーリットを弾き飛ばす。


しかし、ユーリットも負けておらずアルファンの力を剣で受け流し、バックステップすると足を休めず、そのまま素早く懐に入り込み、下から斜め上に剣を振り上げる。


アルファンは、クレイモアの柄頭(ポメル)で刃を反らし、体を半身後方に下がりユーリットの攻撃を受け流す。


息つく暇がない攻防に、誰もが目が離せない。




「…ほう、アルベール流か。」


「甲冑殺しの剣とはまた剛毅な。若の盾要らずのモルトー流と良い勝負ですな。」



古参の小隊長達が声を唸らせ、剣を打ち合う夫婦を分析していた。


アルベール流は骨を断ち、肉を斬る甲冑殺しの異名をとる剛剣。


モルトー流は、盾要らずと呼ばれる大剣をもって盾とする攻防一対の重剣


どちらも、修得するには難しいとされる流派だ。



天賦の剣才をもつアルファンはまだわかるが、その妻たるユーリットがまさかここまで強いとは予想外だったピータは認識を変えた。


──…彼女はお飾りの騎士ではない。


正直、結婚式でユーリットを初めて見ただけで侮っていた。


「噂ばかりで、本当はか弱いお姫様じゃないか」と「剣の訓練の相手をしてやろう」とか上から目線で思っていた自分の方が遥かに格下だと言うことを知り、ピータは恥ずかしさで顔を真っ赤にさせた。



普段、冷静沈着で剣の腕も一流の小隊長達も認識を改めたのか、やや痛感するようにユーリットを見つめている。



「竜殺し…は伊達じゃないようですな。」


「うむ。」


「あの二人から生まれる御子が楽しみだ。」



アルファンの結婚に

慎重論をとなえていた家臣達や、親戚たちがいつの間にか鍛練所に集まり二人の様子を見物していたが、ユーリットとアルファンはその視線を気にせず、楽しそうに鍔迫り合いをしている。


そんな二人に周囲は花嫁への認識を改めはじめた。


***




ユーリットは、心踊っていた。


(こんなに、楽しい鍛練は久しぶり…。)


打ち合いをしてかれこれ二時間ぐらいだろうか、結婚式の疲れも何のその、互いに手加減しているが、剣の鍛練がこれほど楽しいのは、死んだ祖父以来だ。


ユーリットの攻撃を瞬時に防ぎ、攻撃に転じるアルファンの動きは無駄がなく、ユーリットはその剣さばきに感嘆した。


(敵に回したくないレベルの剣の使い手だな…)


「ユーリッ、そろそろ終わりにしよう。」


「はい、アルファン様。」


アルファンの提案にユーリットは素直に頷くと、ヴァルフリートを腰に戻し、アルファンに騎士の礼をとる。


アルファンも騎士の礼をとると、ユーリットに微笑みかけた。


「良い腕だな、師はやはり故エドワード将軍かい?」


「はい。祖父から、でも我流のところが少しありまして…。」


「いいや、君の動きはしっかり型が叩きこまれていた。師の教えをきちんと守っている証拠だ。でも、基礎を保ったままの臨機応変の攻撃パターンには驚いたよ。」



「アルファン様の盾要らずも、凄く勉強になりました。」


ユーリットは無表情なのが嘘のように、夢見る乙女のように目をきらめかせ、頬を紅く染めて話す姿は実に可愛らしい。


内容が実に脳筋の脳筋による脳筋のための会話なのが残念だが、アルファンとユーリットは気にせず真面目に自分の剣と相手の剣の考察と、改善すべき点を検討しあっている。


生真面目な内容に聞きあきたのか、ヴァルフリートは、大きな欠伸をするような声をあげた。


『仲良くなったのはいいけどさ…お前らもうちょっと色気のある会話しない?聞いてて、欠伸がでるぜ。』


「ヴァル。」


『あー、はいはい。それよかアル坊、さっきからお前さんに訊きたい事があるんだけどさ、いいか?』


「(あ、アル坊?)なんだろうか?」


アルファンはいまだにヴァルフリートが苦手なのか、若干顔をひきつらせたが、さっきの打ち合いでだいぶ馴れたようで、ヴァルフリートに耳を傾ける。


『お前から、良く見知った契約の波動を感じるんだけど、もしかしてトルギストフの聖魔十剣と契約してるだろ?』


「え。あ、ああ。」


思いもよらない質問に、アルファンは目をまたたかせたが、直ぐに得心したのか、自分の書斎の方を見上げた。



「オフィーリア!」


『うげ!』


ヴァルフリートは思わず、嫌そうな声をあげたがもう遅い。


アルファンの手には既に光り輝く白いサーベルが収まっていた。



『…あら、やだ。ヴァルフリート・ダンタリオンじゃない。お久し振りね。』


『オフィリエル・イエル…!!どうりで天使くせぇと思った!!』


おっとりとしたオフィーリアの声に反応するかのように、紫電の魔力をバチバチと震わせるヴァルフリートに、ユーリットとアルファンは顔を見合わせる。


どうやら、この二つの剣は浅からぬ縁があるようだ。



『もう、ヴァルフリートったら。私、今は天使ではなくてよ?あなたの妻剣(つま)なのに酷い言い様だこと。』


『好きで夫婦剣になったわけじゃねー!』


「えと、ヴァル?」


『ユーリット!コイツは悪魔以上の腹黒女だ!惑わされんなよ!真っ白な元天使だが、お前とちがって、性格が捻れてるんだ気をつけろ』


こんなに余裕がないヴァルフリートは初めてだ。


息巻くヴァルフリートに、ユーリットは困惑する。



『はあ、アルファン。あちらのヴァルフリートの主が貴方のお嫁さんなのね?』


「そうだが…。」


『素敵!可愛らしい奥さんですこと!紹介してちょうだい。』


あくまでマイペースな聖剣に、アルファンもまた困った様子だったが諦めたのか、ユーリットにオフィーリアを突きだした。



『ごきげんよう、私の名前は抑止のオフィーリア。アルファンと契約したトルギストフの聖剣よ。貴女の腰のヴァルフリートとは夫婦剣として同時期に作られたの。貴女とヴァルフリートとは長い付き合いになりそうだから仲良くしてくれると嬉しいわ。』


「こ、光栄です、レディ・オフィーリア。私はユーリット・ヴィ・ギャレットです…よろしくお願いいたします。」


礼儀正しく受け答えするユーリットに、聖剣はにっこりと応えるように、柔らかな白い光を放った。



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