間違えた温度⑤
盛り上がってきました!!
って感じの話ですね〜。
素足に少し大きめのサンダル。
外に出るにはあまりにもラフな格好。
湯上がりの髪の毛はまだ少し湿っていた。
「うん、聞こえてるよ〜」
昼間の熱を溜め込んだ街は、夜になってもまだ暑い。
それでも時々吹く風が心地よかった。
「泉、今何してるの?」
「外散歩してる〜」
遠くで聞こえる破裂音は花火だろうか。ドンッ、ドンッと空気の振動みたいなものが体に響いた。
「いいな……うちも行こうかな!」
「いや、海の日程を決めるんでしょ?」
「外で話せばいいじゃん。イズミ今どこ?」
「南赤谷の駅前! コンビニのところだよ」
「よっしゃ、うちも自転車で行くわ!」
「うん、待ってるね」
コンビニの明かりには虫がたくさん集まっていた。
浪漫がグループ通話から抜けると、紅葉のため息が聞こえてくる。
「勝手なんだから……」
「あはは、さすが浪漫だ」
「浪漫がついたら連絡頂戴。今のうちにお風呂入ってくるわ」
「了解〜!」
ポヨンっ、という気の抜けた切断音と共に通話が切れた。スマホを耳から離すと、より鮮明に周りの音を感じた。
何気なくコンビニに入り、飲料コーナーの前に来た。
「ラムネコーヒー?」
あまり見ない組み合わせだ。面白半分で手に取ったあと、そのままレジに並んだ。
会計を済ませて外に出るとちょうど浪漫が自転車のスタンドを立てているところだった。
「おっすー!」
「えへへ、一週間ぶりだね」
ショートパンツに髪を頭の上で結った浪漫は、夏の夜がとても良く似合っていた。
「はい、これあげるよ」
「え、ありがと! 喉乾いてたんだよね」
浪漫は渡した飲み物を豪快に飲んだ。
「……っ! 何これ!」
「不味い?」
「……あんま美味しくない」
「あはははっ」
顔を歪ませる浪漫がとても面白くて思わず吹き出してしまう。
「イズミ飲んでみたのかよ」
「ううん。一口ちょうだいよ」
「いや、全部飲んでよ」
ペットボトルの中身を口に含んだ。苦さと清涼感が口の中に広がる。
「ゔぇ……あんまりかも」
「だろ!」
「でも勿体無いから全部飲む」
駅から少し歩いて近くのベンチに腰掛けた。時刻は午後八時半だ。
「あ、紅葉に連絡しないと」
「予定決めるの?」
「そうだよ?」
浪漫が嫌そうな顔をした。
「……めんどくさい〜」
「ええっ! そんなこと言ったら紅葉怒るよ?」
「いやー、予定とか決めるの苦手でさぁ。何やっても楽しいんだし、適当で良くない?」
「んー、でもせっかくの海だし、ちゃんと予定立てようよ」
「まあ、イズミがそう言うなら」
面倒くさがる浪漫を宥めて、紅葉に電話をかけた。
「はーい」
「浪漫来たよ」
「わかったわ」
それから私たちは三十分くらい通話をした。予定を決め始めると浪漫も乗り気になり、すぐに場所と日程も決まった。
「じゃあ、行きは夜行バス。帰りは電車で決定ね」
「うん、お財布的にも助かるよ」
「じゃあ、それぞれ親の許可は取っておいてね」
「はーい」
画面を閉じて通話を終了した。
「そーえば水着買ったの?」
「ううん、まだだよ」
「じゃあとびきりセクシーなのでよろしくね」
「やだよー!」
浪漫とふざけて話していると時間はあっという間に過ぎていった。
「じゃあ、私そろそろ帰るよ」
「おう、気をつけてな」
「うん、またね」
こんな風に自然に話せる距離感は私にとって特別な時間だ。
帰り道。
川沿いの土手道に出ると空が広がった。向かうときはまだ明るかった空も、すっかり夜の帳が下りていて、広がる星空は遠くに見える街の明かりに負けないくらい輝いていた。
カバンの中を漁るとしばらく使っていないイヤホンを見つける。
「使えるかな」
数年前の有線イヤホン。変換プラグを介してスマホに繋いだ。
画面に映る動画サイトの人気曲を上からスクロールしていく。
「フルトラ……」
目に留まったフルトラの曲。映画の主題歌だったあの曲だ。
――どうして、カノンじゃなくて私をセンターにしたの。
――そうしたら、私も辞めないで続けていられたかもしれないのに。
やっぱり思い出してしまうのは嫌な記憶。
歌うことが嫌なんだと理解したあの日の思い出。
また、気持ち悪くなるかもしれない。
結局、何も聴かずにイヤホンを外して前を向いた。まだ、あの時に囚われたままの自分に悔しさを覚えながら家への道を歩いた。
日が変わって、今日は芽瑠と出かける日だ。あいにくの曇り空なので、傘を持って向かった。
駅前に着くとすでに芽瑠がいた。
「おーい」
小走りで芽瑠の元まで駆け寄った。
「待った?」
「ううん、今来たよ」
「そう、じゃあ行こっか」
芽瑠は薄手のワンピースを着ていた。つば広の帽子はやや大きめで、芽瑠の顔の小ささを際立たせていた。
「ねえねえ、泉」
「何?」
「服、かわいいね」
「……なっ!?」
芽瑠は口元に手を当てて、いたずらっぽく笑った。
「……はあ。芽瑠そういう不意打ちはやめてよ、心臓に悪いって」
「褒めただけだよ」
「というか、今さらだけど名前で呼んでくれるんだね」
「だって、泉が言ったんでしょ? 良ければ名前で呼んでって」
「そうなんだけどさぁ」
普段とは全然違うので調子が狂う。学校の芽瑠が高嶺の花なら、こっちはさながら小悪魔系女子だ。
「少し元気ない?」
芽瑠が心配そうに顔を覗き込んだ。
「ううん、どうして?」
「なんか遠くを見てる気がする」
「大丈夫だよ」
「そ?」
芽瑠が手を差し出した。
その姿は、東京で初めて名前を呼んでくれた時みたいだった。
「誘ってくれてありがと、嬉しかった」
その手を掴むと、そのまま芽瑠は駆け出した。
「危ないよ、芽瑠っ!」
「あははっ」
芽瑠の笑い声が聞こえた。
――可愛い声。
その時、ドクンッと心臓が大きく跳ねた。
あれ、手を繋ぐのってこんなに落ち着かないんだっけ。
ドキドキするし、手の位置、握る強さがわからなくて不安だ。
それなのに、触れているうちに二人の手の温度の境目が曖昧になって、さっきまでの違和感も少しずつ溶けていく。
耳が熱い。お腹の奥からじわじわと熱が広がって、体温が上がっていく。
このままじゃ、私の熱が手を伝って芽瑠に届いてしまう。
これは今までの、仲良くなりたいとかそういうのじゃない。
もっと芽瑠に触れたい。
もっと芽瑠と一緒にいたい。
もっと芽瑠を――
(なにこれなにこれ!)
自分の中に芽生えた知らない感情。
貪欲な気持ちが、ぐるぐると渦を巻いていた。
「ちょっ……! 芽瑠!」
「なーに?」
「あっ……いや……」
立ち止まって振り返った芽瑠。
その表情も、青い瞳も、やっぱり綺麗で――
「えへへ、今日は楽しもうね!」
気持ちが溢れてしまいそうだ。
都度訂正が入るかもです。
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