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Walking in Magic hour  作者: Alerl
間違えた温度
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8/12

間違えた温度④


「ありがとうございました〜!」

 出ていくお客さんに頭を下げた。

 対応を終えた店長がこちらを向いた。

「浅倉さん、初出勤お疲れさま。もう、あがって大丈夫よ」

「はい、ありがとうございます」


 控え室に入ると、中には紅葉がいた。

「お! お疲れさま」

「うん、お疲れさま」

「どう? 仕事できそう?」

「うん、みんないい人でよかった」

「ふふっ、そうでしょ」

 夏休みを迎えて、私は紅葉が働いている喫茶店でバイトを始めた。個人経営のとても良い雰囲気の場所だ。最寄り駅は赤谷なので、家から歩くと遠い。でも自転車ならすぐに着く距離なので丁度いいと思っていた。

 制服のエプロンを外しながら、紅葉が話しかけてきた。

「もう大丈夫なの?」

「ん? 何が?」

「先週の都内に行った時よ」

「あぁ〜……」

 浪漫からはただの体調不良と思われていたが、紅葉は私の違和感に気がついていたようだ。

「とりあえず大丈夫だよ」

「そう? 映画館でも様子がおかしいから、結構心配してたのよ」

「ありがとね」

「なら良かったわ」

 紅葉は少年みたいに歯を見せて笑った。上品な口調なのに、こういうところはちょっとがさつだ。

「それで、照井さんとはどうなの?」

「……え?」


 紅葉の言葉の意図を考えた。

「だって、あの子一人で待ってたんでしょ?」 

「ああ。って……知ってるの?」

「ええ、本人がそう言ってたのよ? 私はここで浅倉さんを待つ、ってね」

 芽瑠。そういうことは隠さないんだ。嬉しさと同時に恥ずかしさが込み上げてきた。

「何かあったんでしょ?」

「なっ、何もないよ!」

「えぇ〜?」

 芽瑠との関係は二人だけの秘密だ。これは紅葉にも教えるわけにはいかない。

「ほんとに何もないよ?」

「……まあいいわ。進展があったら教えてね」

「そういうのじゃないってば!」

 今日のバイトはオリエンテーションなので、お店が忙しくなる前に早上がりだ。紅葉の休憩を邪魔しないように準備をして控え室から出た。

「じゃあまたね!」

「うん、お疲れ〜」

 店を出ると強い日差しが照りつけてきた。

「うわ! あっついなぁ……」

 日傘を差す。それでも、噴き出る汗は抑えられなくて、皮膚に服が張り付いた。


 なるべく日陰を歩きながら赤谷駅まで来た。駅構内の通路にまで飛び出している水着コーナーを横目で見ながら歩く。

 海に行くなら水着が必要だ。でも、高校生ってどんな水着を着るんだろうか。

「うーん」

 学校の行事以外で海とかプールへ行ったことがない。並んでいるものを見てもどれを選んでいいのか分からなかった。

 こういう時は浪漫に聞こう。

 浪漫に水着について相談したいと、メッセージを送ってみる。すぐに返信が来た。


『どんなの着たいの?』

『子供っぽくないのが良いかな?』

『ならビキニだ!』

『露出多くない?』

『上からTシャツ着ればいいんだよ!』

『あー、なるほどね』


 メッセージを閉じて、店内へと入った。

 下着とさほど変わらないほどの布面積。思わず目を逸らした。

「何かお探しですか?」

「あっ、水着を見てて」

「いいですね! ご旅行ですか?」

「そんな感じです、はは……」

 どういうのを着たいとか伝えればいいのだろうか。

「ご希望とかあればご案内しますよ」

「……高校生なんですけど、おすすめとかありますか?」

「あー! 学生さんなら〜」

 そう言って案内されたのはやはりビキニが並ぶコーナー。高校生なら当然なのだろうか。

「このあたりは彼氏さんとプールデートとかで人気なんですよ! 気合が入るらしいです!」

「へ、へぇ〜」

 並んでいるものは花柄にフリルが付いていたり、肩掛けがないタイプだったり、やっぱり派手に思えてしまった。

「ありがとうございます……ちょっと色々見てみますね」

「はい! 何かあれば声かけてください」

 そう言って店員さんは奥に消えていった。


 デートか。高校生になったら当たり前のことになるのかな。

 今まで、恋愛経験がない。気になった人がいたことはあったけど、別に付き合いたいとかそういうことは思わなかった。ただ、彼氏を作るくらいなら友情関係を大事にしたい。そんな考え方だ。


「芽瑠……」

 ふと浮かんだ彼女の名前。

 先日の一件以来、私は芽瑠に特別な感情を抱いている。好きが溢れて、特別になりたい。側にいて私を一番に思っていて欲しい。

 この感情が恋なんだと思っていた。

 でも、想いが届いて芽瑠が私に振り向いてくれるたび、少しだけ違和感を感じた。


 ――あれ、もう満足しちゃってる。


 私の思っていた恋愛とは少し違った。好きになって恋人になったなら、その先をもっと求めるものだと思ったから。

 手をつないだり、キスしたり、その先も――。

 恋ってそういう貪欲なものだと思った。


 でも、今は芽瑠とのそういうことは考えられない。だったら、これは恋と呼べるのだろうか。

 人生経験の浅い私には分からないけど、この気持ちは友達に向ける気持ちとは違う気がする。


 この胸に秘めた想いが、間違った温度で伝わらないで欲しい。


 芽瑠にメッセージを送る。

『明日、時間ある? よかったら水着選ぶの手伝ってくれない?』


 すぐに返答が来た。

『いいよ、楽しみにしてる』


 そのメッセージは、嬉しかった。

 でも、不思議と浮かれることはなかった。


都度訂正が入るかもです。

誤字脱字あればご報告ください。


何かあればこちらまで

info.alerlsoft@gmail.com

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