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Walking in Magic hour  作者: Alerl
間違えた温度
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7/12

間違えた温度③

 先生の挨拶の終わりとともに、みんなが話し始めた。聞こえてくる声はいつもより元気な気がする。


 あっという間に終わった一学期。

 今日は終業式だった。みんなこのあとは部活だったり、遊びに行ったりするのだろう。


「イズミーっ! 帰ろうぜ〜」

 浪漫が楽しそうにこちらに駆け寄ってきた。私は机の荷物を引き出しに入れて立ち上がる。

「あ、うん。帰ろ」

「テストどうだったよ?」

「ぼちぼちかな」

「マジか! うちは赤点ギリギリだったよ!」

「そ、そうなんだ……」

「浪漫、もう少し勉強しなさいよ。来年は受験生なのよ?」

 リュックを肩にかけた紅葉が呆れたように肩をすくめた。

「べー! うるさいやい!」

「あはは」

 ポケットのスマホが震えた。画面を開くと通知が一件。

「……あ、ごめんっ! 用事できたから、先帰るね!」

「えー! みんなでこのあとどこか行こうと思ったのにー!」

 私は慌てて荷物をまとめて教室を飛び出した。小走りで廊下を走り、昇降口を出る。そのまま校門まで向かうと入り口に彼女はいた。


「お、お待たせっ!」

「大丈夫、帰ろ」

「うんっ!!」

 私は歩き出す芽瑠の横に並んだ。

「……急に誘ったけど、大丈夫だった?」

「うん、まあ大丈夫だよ」

「そっか」

 芽瑠は口に手を当てて笑った。


 芽瑠と二人で夕食を食べた帰り、二つのお願いをされた。

 一つ目、学校ではあまり仲良くしないこと。理由は、芽瑠があまり交友関係を広げたくないから。目立つのも、邪魔されるのも嫌らしい。

 二つ目、芽瑠の二面性があることを秘密にして欲しいこと。これはきっと角が立つとかそんな理由だろう。

 私の仲良くなりたいとは少し違うけど、こういうのも悪くないなんて今は思ってる。


「芽瑠はテストどうだったの?」

「あんまりだよ。文系科目が苦手」

「そうなんだ。今度一緒に勉強とかする?」

「うん、あたしも泉と一緒に勉強したい」

「……っ」

 横で笑う芽瑠を見て、ニヤけそうになる顔を咄嗟に隠した。

「どうしたの?」

「な、なんでもないよ!?」

「そう」

 この子は無意識でやっているのだろう。私はそんな彼女に何度もドキッとさせられていた。

「今日はどこか寄って行く?」

「うん、行きたい」

「いいよっ! どこがいいかな〜?」

 テンションが上がって会話がぎこちなくなる。芽瑠はあまり気にしている様子は無さそうだ。

「カラオケは?」

「……カラオケ行きたいの?」

 つい身構えてしまう。まだ歌うことには抵抗があった。それに、芽瑠と二人なんて……。

「嫌……?」

「ううんっ! 嫌じゃない! 嫌じゃないよ!」

「無理してない?」

「……なら一時間だけ!」

「わかった、そうしよ」

 私たちは赤谷で降りてカラオケに入った。

「ちょっと混んでる」

「うん、待とうよ」

「わかった」


 椅子で待っていると名前を呼ばれた。受付をし、札を持って部屋に入った。

 芽瑠は私の向かいに座るとマイクを渡してくる。

「え、私が先に歌うの」

「そうだよ? 泉の歌が好き」

「え、ええ……」

「曲はあたしが決めていい?」

「まあ、いいけど……」

 私が頷くと、芽瑠は端末を操作して曲を入れた。有名なバラード曲なので歌うことはできそうだ。

 マイクを持つ。不思議と歌うことに恐怖はなかった。でも、歌い始めるまで緊張している自分がいた。


 後奏が終わった。

 歌い終わってマイクを置く。こちらを見る芽瑠の瞳は潤んでいた。

「ど、どうだった……?」

「……良かったっ!」

「そっか、緊張したぁ……」

 赤谷で会った時、この子はヘッドフォンをつけて泣いていた。そして、今も私の歌を聴いて目を輝かせている。

 この子は歌が好きなんだ。聴くことはもちろん、きっと歌うことも。だから、私の歌が彼女を惹きつけた。仲良くなれたのかもしれない。

「次はあたしが歌うね」

 そう言って歌う芽瑠は大人びていて、とても魅力的だった。飾っていない芽瑠を見たあとだと、ギャップが少し面白いくらいだ。

「上手いね」

「えへ、泉ほどじゃない」

 その後も二人で交互に歌った。

 あんなに悩んで、あんなに嫌になった歌なのに――、今は歌えることがとても嬉しかった。


「楽しかったね」

「うん……楽しかった」

 楽しい時間はあっという間だった。

「もう帰る?」

「はは……そうだね。この間、遊んだばかりで金欠だからさ」

「そっか……」

 まだ一緒にいたかったけど、この間の出費もあったのであまりお金がなかった。

 芽瑠の表情は名残惜しそうで、まだ帰りたくないという様子だ。

「夏休み、また遊ぼ? 声かけるからさ」

「……ん」

「あはは、こないだまでとは別人だね」

「むぅ……」

 芽瑠にとっては久しぶりの友達。今まで距離を置いていた反動が来ているのだろうか。

「そうだ! 今日の夜、電話しようよ。それでどうかな」

「……うん、約束」

「わかった! 約束ね!」

 芽瑠と別れて電車に乗り、家に帰った。移動中、芽瑠から「夜の九時なら大丈夫」と連絡が来ていたのでスタンプを返した。


 家に帰ったあと入浴と食事を済ませて、自室のベッドに横になった。時間は八時半。芽瑠との約束の時間まであと三十分ほどあった。

 スマホを弄っていると、浪漫と紅葉との三人グループに「夏休み、どこか行こうぜ」と、メッセージが入った。すぐに「いいわね! 海なんてどうかしら?」と返信が続いた。そのまま、グループ通話が始まったので、私も参加した。

「もしもし〜」

「おっ! イズミ来たね!」

「海行きたいんだけど、泉の都合は合いそう?」

「うん、多分大丈夫。でもお金が厳しいかも〜」

「あー、泉はバイトしてないもんね」

「そ〜、私もしたほうがいいのかなぁ」

 浪漫は何個もバイトを掛け持ちしていて、紅葉も喫茶店でバイトをしている。

「それなら、私のところで面接受けてみたら? 今、人募集してたと思うけど」

「いいかも! お母さんに聞いてみるね」

 それから三人でどこの海にする、水着はどうするなど話していた。そんなことを話しているとバナー通知が入った。

「……あっ! そろそろ切るね!」

「あら、そう?」

「え〜?」

「また明日、続き話そっ! バイトの件も聞いておくから!」

「うん、わかったわ」

「おーっ、おやすみ」

 私はグループ通話を切って、芽瑠に発信した。


「もしもしっ? ごめんっ、遅くなった!」

「……もしもし」

「芽瑠、怒ってる?」

「別に」

 時刻は九時十五分。十五分遅れだ。

「浪漫たちと話してたら時間過ぎててさ」

「ふーん、まあいいよ」

「あはは……」

 電話越しに聞こえる声は、ご機嫌斜めだ。

「芽瑠って何かバイトしてるの?」

「バイト? なんで?」

「いや、出かけるのにもお金がかかるから。夏休みにバイトとか探してみようかなって」

「……バイトはしてない」

「そっか、なら無駄遣いしないようにだね」

「でも、お仕事はしてるよ」

「お仕事? ……何してるの?」

「……作曲家」

「へ?」

「案件受けて曲を作ってる」

 高校生で作曲家。何それ、すごい。

「いくらくらい稼いでるとかって聞いても……?」

「◯万円」

「月?」

「うん」

 私にはあまり相場が分からないが、週二バイトと変わらないくらいだろうか。

「すごいね……」

「そんなことない、泉でもできる」

「ええっ! 出来ないよ!」

「そう?」


 芽瑠は私を買い被りすぎだ。

 そんなこと、私にできるわけがない。


「今度さ、浪漫たちと海に行くんだけど」

「……そうなんだ」

「芽瑠も来る? もし来れそうなら、浪漫と紅葉に聞いてみるけど」

「いや、大丈夫」

「あ……そっか」

 思っていたより、あっさり断られた。

 私が誘っても来ないんだ――なんて思ったら、めんどくさい女なのかな。

 浪漫が誘ったら来るのかな、とか。

 そんな考えまで浮かんでくる。

(ダメダメっ! そういうのはよくないからっ!)

 私はぶんぶんと頭を振って、浮かんだ考えを追い払った。

 でも、少しだけ名残惜しい。


「……なら、さ」

 自分でも何を言おうとしているのか分かっていた。少しだけ声が小さくなる。

「ふ、二人で行っちゃう!?」

 電話の向こうが、一瞬静かになった。


「……それなら行く」

「え?」

「……行きたいっ!」


 思わず口元が緩んだ。

 ああ……ダメ。

 こんなの、もっと好きになるって。


「……わかった。なら、今度予定決めよ」

「うんっ」

「今日はもう寝よっか」

「……おやすみ、泉」

「うん。おやすみ、芽瑠」


 電話を切った。

 数秒、ベッドの上でスマホを握ったまま固まる。

 それから私は勢いよく起き上がり、リビングへ駆け降りた。

「おかあさーん! バイトしていい!?」

 ふとしたきっかけで、夏休みに二回も海へ行く予定ができてしまった。


 一回目は友達と。

 もう一回も――友達、なのかな?

 考えるだけで頬が緩む。

 こんなに浮かれた気持ちになるのは、初めてかもしれない。

 明日からの夏休みが、楽しみでしかたなかった。


2026/10/07

軽微加筆。

読みやすいように段落調整。

最後の間の取り方、バランス調整


――――――

都度訂正が入るかもです。

誤字脱字あればご報告ください。


何かあればこちらまで

info.alerlsoft@gmail.com

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