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映画の上映開始まで時間があるので、パンフレットを買うと言うユリを売店近くで待つ。
「今回は私が誘ったから奢るね」と言って、チケット代を支払ってくれた。
「あ、言っとくとけど、好きな子とのデートの時は、映画ぐらいは”奢るよ!”って言うのよ」と言う小言も忘れてはいけない。
「満足満足。映画館で観たなら、パンフレットは必須よねっ」
ルンルンなんていう擬音が見える錯覚が起きるほど、ユリのご機嫌は上昇中。
「良ちゃん。遠くみてるけど、何、見てるの?」
さっきのやり取りを思い返していました。
「別に」
子供の頃だったら、素直に言っていたであろう言葉は、今は、あえて言わないことも知った。
これがいわゆる”空気を読む”ってやつになるのかもしれない。
「そう?まぁ、いいわ。
さっき、開場アナウンスが流れてたから、席に向かいましょう!」
ユリは俺の腕に手を回して、跳ねるように歩きはじめた。
観れれば観るというようなスタンスの俺には映画に期待も何もないけれど、そんな様子を見てたら口元が緩むのを感じた。
「そうだな」
楽しいは伝染する。
アナウンスを聞いて集まった人が混雑しているスクリーン入り口に向かった。
*
*
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映画の内容は、ミュージカル映画だったので、歌やダンスがあったのは勿論だけど、主人公が家族の支えながら、夢に挑戦をしていく話。家族と反発し合うこともあったし、人の優しさに甘えてしまったり、そんな紆余曲折がありつつ、最終的にはーーー。映画だからご都合主義なところもあって、そんなにうまくいかないだろう、なんて思う部分もある。でも、そんな風に、人を巻き込んでまで挑戦するって単純にすごいと思った。バットエンディングではないからそう感じてしまうのかもしれないけれど、ただただ自分にはない熱量だと思った。
「んーっ! よかったぁ」
エンドロールが終わり、劇場内が明るくなるとユリは手を目の前に伸ばす。俺もつられて、なんとなく固まってしまった肩をほぐすように軽く回した。
劇場内はパタパタと座席が戻る音が続き、出入り口に向かって、人の列が出来上がっていた。その列に続くために席を立つ。
「予告CMがよくて、ハードル上げすぎてたらどうしようと思ったけど、ハードル越えてきてくれた!」
俺に続いて席を立ったユリは、よほどツボにハマったのか、興奮さめやらぬ様子で、歩きながらも言葉が止まらない。
「しかも、最初のあの音楽とか…はぁ、どうしようサントラ買うか悩むぅー」
”サントラ”と聞いて、確かに、ミュージカル映画なだけあって要所要所に使われる音楽に惹かれるものがあったことを思い出した。買うか、と言われたら、二の足を踏んでしまうところだが、ユリが買うなら、借りたいと思った。
「あ、しまった」
ぱこっと篭った音が聞こえて、音がした方を見ると、両手で口を覆って、こちらの様子を伺うようにしているユリと目があった。
「・・・」
「何が”しまった”なんだ?」
と聞くと、気まずそうに口を覆っていた両手をおろして
「まずは良ちゃんの感想を聞くところなのに、つい興奮してたくさん喋ってしまいました」
なぜに敬語なのか。ツッコミどころはあるけれど、今回はスルーして、最も理解できないことを聞くことにした。
「興奮して喋るのは当たり前じゃないか?」
「そうなんだけどーそうじゃないのよぉー」
俺の発言が不満なのか、両手を上下に振って「大人としての威厳とかとかー」と言葉をこぼすのだが、俺にはさっぱりであった。しまいには
「むぅー」
言葉が出なくなった。そして唸っている。
ーーーあの頃と一緒だな。
小さい頃から遊んでいた俺たち、その頃からユリは、俺と同い年ぐらいと錯覚するぐらい幼く純粋であったように思う。しかし、末っ子のユリは俺という弟分がいることが嬉しかったらしく、よくお姉さんぶっていて、子供のよくある「なんで?なんで?」の質問攻めに困っては唸っていた。
それがおかしくて思わず笑ってしまった。
「あー笑ったわねぇ!」
と威厳も何もない、子供の癇癪みたいに声を上げるユリ。
「ごめんごめん。あ、ユリ、腹減ってない?」
虚を突かれたように、忙しなく動きが止まり
「・・・減ってる」
少し恥ずかしそうにポツリと呟くように答えた。
「メシ食おうぜ。俺も腹減ってるんだよ」
ジェスチャーを交えつつ伝えると、ならば仕方がないわねぇ。と言わんばりに
「じゃあ、私のお気に入りのカフェに行きましょう」
提案してきた。
「よろしくー」
ユリは結構、単純である。
再び俺の腕に手を回して、ぐいぐいと進んでいくの後ろ姿を見ながらほくそ笑んでいると、急にくるっとこちらも向き直り
「い、言っとくけど、ご飯でごまかされたりしないんだからねっ」
頬を少し染めたユリが言った。
ーーー昔ほど、単純ではないらしい。
でも、一時的でも惑わされているなら、単純な領域なようにも思うが
「わかってるって」
俺も昔ほど、子供じゃないので、それを指摘することはしない。
「ならば、よろしい。さぁ行くわよっ」
再び、跳ねるように歩みをはじめたユリの後ろ姿を見ながら、苦笑するのであった。




