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電車に乗って約30分。
都心にある映画館に到着した俺たち。
プランはなにも聞いていなかったが、さすがにここまでくれば分かる。
「んー」
週末とあって家族連れも多く行き交う場所で、連れてきた張本人は<上映中>と書かれたポスターを目の前に唸っていた。
「なに悩んでいるんだ? 観たい映画があったからここに来たんだろう」
と言えば
「なにを言っているのよ! デートと言えば、映画が定番じゃない!」
間を置かずして返事をするものの、ユリの視線は・・・
「ねぇ、ママっ! わたし、まほーせんしプリチアになるんだ」
「そうねぇ。そうしたら、ママのこと、助けてくれる?」
「うん。ぜったいたすけてあげるねっ」
今、幼児向けアニメとして話題になっている『魔法戦士プリチア』がある。アニメなどに興味がない俺でも分かるほど、社会的な現象になっていると言っても過言ではないと思う。
さきほどの親子の会話に反応しつつも、再び、ポスターに目を戻して、唸りが深くなるユリ。
「別に俺は”プリチア”でもいいけど」
助け舟を出したつもりだったが
「良ちゃん。違うってば。そりゃー正直…観たいけど…わたしが悩んでるのはコレとコレ」
勘違いしないでよね!と言わんばかりに、指刺されたポスターは、今話題になっている『パーフェクトショーマン』いわゆるミュージカル映画に、『キロクを止めるな!』と言う、口コミで単館から全国区に広がったギャグ映画?らしい。
あまり映画に詳しくないし興味もないので、大まかなあらすじどころかテレビや人づてで聞いたぐらいでの、薄い情報しか持っていない俺の認識がずれている可能性はあるが、そんな俺でも知っているのだから、どちらもすごい作品なんだろう。
「どっちでもいいけど?」
「でしょうねぇ。自主的に観てないっぽいもん」
ため息まじりに言われたことは当たっていた。
「よく分かったな。でも、人に誘われれば観るぞ?」
そうそう、だから、今もここにいるじゃないか。
文句っぽいこともこぼした記憶もないし、嫌な気持ちにもなっていないので、なにを観るんだろうーぐらいに思っているぐらいだ。だから、そんなことはあるはずはないが。
「むむぅ。先行きが大変そうだわ」
難しそうな顔をして言われたのが何故なのかは分からない。
先行きって、なんの先行きなのか。きっと、今、聞いたところで、教えてくれるとも思えないので、心の隅に疑問はしまった。
「とりあえず、今まで、きっと観たことがないであろうミュージカル作品にしましょう!」
頭をひとつ捻って、思案したあと、やっと作品が決まった。
ちなみに、ミュージカル作品ははじめてである。
ユリは我が道を行くようにも見えがちだけど、意外と人を見ているのかもしれない。
『お客様、学生さんですか?学生証をお願いします』
「はい」
『確認いたしました』
その場で観る映画を決めた俺たちは、窓口でチケットを購入している。
しかし、俺の学生証を確認した後も、店員さんは、何か言いたげな視線をもって、その先に進まない。そして、意を決したように口を開くと、控えめに
『・・・・あの、もうお一方の、身分証明書等は?』
あ。忘れていた。もはや俺にとっては見慣れてしまったユリの童顔。
「あっ、とー、実は…」
こう見えても大人なんですよー。と言いかけて、口をつぐんだ。
いや、待てよ。もしかしたら、この童顔を生かして観てたりするのかもしれない。
ユリの様子をみてから判断しようと思っていると
「私は一般でお願いします」
怒ることもなく、照れることもなく、歴然と答えていた。
『…かしこまりました。では、お会計はーーーー』




