4話 三種の神器を作ります!③登山リュックとヘッドライト
「登山用の……リュック?」
リュックはもちろん、この世界で販売されている。
だがどれもごく簡易的なもので、体の負担を減らすことは考えられていない。
「エベル、リュックを背負ったとき、肩が痛くなった経験はない?」
「ああ、遠征時は重みのあるリュックを背負って移動することも多い。……そのうち肩が悲鳴をあげて、二度と背負いたくなくなる」
「それはリュックのベルトが両肩にしかないせいね。登山用リュックは、腰にも負荷を分散させるの」
「腰に……?」
「腰に巻くようにベルトを足して、腰でも荷物を背負うようにするの。そうすれば、肩の負担を減らせるでしょう?」
「腰……盲点だったな……。それなら山道でも、重い荷物を背負いやすそうだ」
彼は感心したように、ウエストベルトのあるリュックを紙に描き出した。
「胸元にも細いベルトを足して……各部の締めつけ感をベルトで調整できるようにしたいわ。それなら、体のサイズが違ってもフィットしやすくなるでしょう?」
「そうすると、リュックがベルトの紐だらけにならないか……?」
「……それは、しょうがないわ。登山中にリュックがブレて、負荷が上がるよりマシだもの」
登山用リュックができあがれば、きっとさまざまな面で普及するだろう。
前世の私は、よく旅行カバンとしても利用していた。
私が物思いにふけっていると、エベルがペンを口元に当てた。
「防水性のある袋をつけるのもどうだ? 荷物が濡れることも防げるはずだ」
「!? そう、そうよエベル! カバーも必要だったわ!」
登山用リュックとレインカバーは切り離せない存在。
彼は、それをヒントなしで思いついたのだ。
私は感動のあまり、彼の胸に迫りながら、その手をとって笑顔で見上げた。
「ありがとう、エベル! あなたのおかげで、登山装備がより完璧なものとなるわ!」
「あ、ああ……」
彼はなぜか私から、すっと目線をそらす。
その横顔は、無表情ではあるがほんの少し赤らんでいるように見えた。
「え、ええと……。その、ご、ごめんなさい……」
彼の手を開放しながら、さりげなく私は一歩ずつ後退した。
そういえば、作戦会議とはいえ、若い男性と部屋で二人きりになっている。
結婚適齢期の二人が、熱心に話し込んでいる姿は、もしかしたら恋人同士にも見えるかもしれない。
「シャイラ、俺は……」
エベルが、今までにない真剣な目で私に向き直った。
何か言いたげに口を開き、また閉じる。
静寂の中に、沈黙が降り積もった。
魔法石が埋め込まれたランタンのガラス面が、太陽を反射して煌めいている。
「あ!」
「ど、どうしたんだ?」
「ランタンを見て思い出したの。ヘッドライト! これも三種の神器なのよ!」
「……それだと四つ目にならないか?」
「ヘッドライトは新三種の神器のうちの一つで……頭に装着する明かりなの。これがないと、日が沈んだとき行動不能になるわ」
「……はは、そうだな。それも事業部に相談しておこう」
彼は面白そうに口元をほころばせ、優しげに私を見つめてくる。
まるで情愛がこもったかのような眼差し。
私はドキっとする心臓を抑えつけながら、窓の外に映る山脈へ視線を向け続けたのだった。




