3話 三種の神器を作ります!②雨具
「雨具か。確かに山の天気は急変しやすいからな」
「山の上で体が濡れて冷えると、命に関わるの。だから、雨具は絶対に必要なのよ」
「雨具なら作るのは簡単そうだな。王都でも安く普及している」
エベルは紙の上にペンを走らせ、ポンチョ型の雨具を描き出した。
雨の日によく王都で見かける、ごくありふれた雨具のデザインだ。
「それじゃ駄目なの……」
「……なぜだ?」
「山は風が強いでしょう? ポンチョ型だと風で裾がめくれ上がって、雨を防いでくれない。それに機動性も落ちやすいわ」
「確かにそうだな。となると……、体に密着するデザインになるか」
「上はフード付きのジャケット、下はパンツスタイルにしましょう。登山中に雨が降っても動きやすさをキープできるわ」
「わかった」
エベルはスラスラと、雨具のデザインを描いていく。
お世辞ではなく、彼は本当に絵が上手い。
これなら、事業部への説明の際手間が減るだろう。
「しかし、これでは問題がないか?」
エベルはペンを止め、悩ましげに顔をしかめながら私を見上げた。
「以前、このような雨具を侯爵家でも開発しようと試みたのだが。雨具の中が、なぜか濡れてしまったんだ」
「それは……透湿性の問題ね。防水性が高いあまりに、汗が雨具内にとどまり続けて、結果的に濡れてしまうのよ」
前世では、耐水圧と透湿度が高い素材を使っている製品がほとんどだった。。
だが、ここは異世界。
そんな都合の良い素材はないだろう。
「汗を雨具の外に逃がしつつ、水滴は雨具の中に入れない素材。……さすがに、開発は無理かしら」
「……できるかもしれない」
「え!?」
「理屈さえ分かってしまえば、魔法道具開発部に頼めば何とかなるだろう。もちろん、時間はかかるだろうが」
「さすが王都指折りの商業を展開している侯爵家……! とりあえず、素材についてはまかせたわ」
雨具なく登山をすれば、低山であっても命がけになってしまう。
頼もしいエベルの存在に、私はほっと胸を撫で下ろした。
「この素材が実現できれば、防風性も高い雨具ができるはずよ。休憩中に羽織れば、強風による汗冷えにも効果的になるわ」
「それは……防寒対策としても使えそうだな。山の上は冷えやすい」
「ええ、雨具は寒さ対策にもなるの。一番上に着ること多いから、余裕をもったサイズ選びが重要ね」
私が笑顔で雨具の選び方を伝授すると、彼は不思議そうに首をかしげた。
「君は……登山にとても詳しいのだな。この世界の知識以上のものをもっているようにも見える」
「え、ええ!? そ、そうかしら……?」
そういえば、うっかりこの世界にはない言葉も口走っていた気がする。
私が前世の記憶もちということは、誰にも言ったことがない。
(彼になら……言ってもいいのかな。こんなに協力してくれるのだし。でも怪しいやつって思われたらどうしよう……)
私が言いよどんでいると、机に置いていた手に、彼の手が重ねられた。
「すまない、君を悩ませるつもりはなかったんだ。……だがもし、俺に力になれることがあれば言ってほしい。できる限り、君の力になると約束しよう」
「え、あ、は、はい……!?」
男性らしい大きな手の熱さが肌に浸透し、顔がどうしようもなく火照っていく。
エベルの情熱的な言葉に意識が飛びかけるが、何とか三種の神器の製作に思考を傾ける。
「それじゃ、最後は……登山用リュックについてよ!」




