04 診断と宣告
04 診断と宣告
その夜、南太平洋上空に停泊する巨大な宇宙船の内部は、静まり返っていた。
だが、それは沈黙ではない。
彼らにとって会話とは音ではなく、思考そのものだった。
会議で得られた情報は、一体から全個体へ瞬時に共有される。
分析。
比較。
診断。
それらは一瞬で終了した。
『診断完了』
無数の複眼が暗闇の中で静かに光る。
『対象:地球知性群体』
『判定:重度機能障害』
誰も異論を唱えない。
異論という概念が存在しないからだ。
『慢性的内部敵対を確認』
『高頻度の威嚇行動』
『自壊傾向あり』
『協調機能に重大な欠陥』
『外部感染リスク評価:高』
わずかな間を置いて、結論が共有された。
『処置を推奨』
『処置内容:浄化』
◆◇◆◇◆
翌日、異星人の代表は前日と変わらぬ様子で会議場へ現れた。
整然と並び、微動だにしない。
触角がゆっくりと揺れる。
その動きを見て、議長は胸をなで下ろした。
昨日の騒動は乗り越えられた。
そう思った。
「昨日はお見苦しいところをお見せしました」
無理に笑顔を作る。
「しかし誤解は解けたと信じています」
翻訳機が答える。
『問題ない』
議長の顔が明るくなる。
だが続く言葉は予想外だった。
『診断は終了した』
「それは結構です」
議長はうなずいた。
「互いを理解できたということですね」
『理解した』
会場の空気が少し緩む。
補佐官が小声で囁いた。
「よかった……」
昨日の怒号が嘘のようだった。
議長は資料を開く。
「では、今後の文化交流計画について――」
『不要』
言葉が会議を切り裂いた。
議長が固まる。
「不要……とは?」
『接触継続は推奨できない』
「理由をお聞かせ願えますか」
短い沈黙。
『群体衛生上の問題である』
誰も意味を理解できなかった。
「衛生?」
科学顧問が首を傾げる。
異星人は淡々と続けた。
『貴群体は重度の機能障害状態にある』
ざわり、と会場が揺れた。
『内部敵対が常態化している』
『分裂している』
『同種間で殺し合う』
『協力と敵対を同時に主張する』
『極めて危険である』
軍事顧問が立ち上がった。
「待て! それは文明の多様性だ!」
『理解不能』
即答だった。
「我々は争いながらも協力している!」
『矛盾している』
静かな声だった。
だがその一言は、人類が積み上げてきた歴史そのものを否定するように響いた。
科学顧問が食い下がる。
「人類は進歩している! 過去から学び続けている!」
『観測済み』
異星人は答えた。
『戦争』
『虐殺』
『情報操作』
『経済制裁』
『環境破壊』
『資源争奪』
『兵器による同種大量殺傷』
ひとつひとつが、まるで墓石を積み上げるようだった。
会場から声が消える。
『改善速度は極めて低い』
『自壊確率は高い』
『さらに外部への感染性は未評価』
議長の背筋を冷たいものが走った。
「感染……?」
『敵対の概念』
『論理矛盾の許容』
『非同期の意志』
『群体崩壊要因』
理解した。
ようやく理解した。
彼らは人類を文明として見ていない。
病気として見ている。
その瞬間だった。
「侮辱するな!」
誰かが机を叩いた。
「人類を何だと思っている!」
異星人は静かだった。
怒りもない。
憎しみもない。
ただ診断結果を告げる医師のように穏やかだった。
『安心せよ』
翻訳機が優しい声で言った。
『浄化は迅速に終了する』
会議室の温度が一気に下がった気がした。
「……浄化?」
議長の声が震える。
「それは、どういう意味だ」
だが異星人は答えない。
全員が同時に立ち上がった。
そして深く礼をする。
『有意義な会議に感謝する』
『診断への協力を評価する』
そのまま一糸乱れぬ動きで退室していった。
◆◇◆◇◆
その夜、世界はまだ楽観的だった。
「翻訳ミスでしょう」
ニュースキャスターは笑った。
「文化の違いですね」
専門家はそう解説した。
SNSでは、
《宇宙人に説教された》
《異星人こわい》
《群れ社会怖すぎる》
そんな投稿が流行していた。
政府も声明を出す。
『交渉は継続中であり、冷静な対応をお願いする』
彼らが下した結論を、誰も知らない。
人類は交渉相手ではない。
患者でもない。
保護対象でもない。
ただの病原体だった。
◆◇◆◇◆
異星人の言葉はAIに相談しております。
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