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妹が嫌がった辺境伯に、姉の私が嫁ぐことになりました  作者: いゆ


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10/16

雪解け

 翌日、私たちは馬車に揺られて隣村へと向かっていた。

 道中、窓の外には銀世界が広がっている。時折、馬車の車輪が雪に深く沈み、ガタりと大きく揺れる。


「……すまないな。お前にわざわざ過酷な移動を強いてしまった」


アシュレイが少し申し訳なさそうに言った。彼にしては珍しい気遣いだった。私は首を振る。


「いえ、これも領地を知るための大切な経験ですから。それに、あなたと二人で出かけるなんて、結婚してから初めてのことですし……少し遠足のような気分です」


私の言葉に、彼はふっと息を抜いて笑った。

「遠足か。悪くない表現だな」


村に着くと、村長が出迎えてくれた。

 アシュレイに対する村民の態度は、敬意と、それ以上に深い畏怖が混ざっているようだった。彼が領民を守っていることは伝わっているが、彼自身が口数が少なく表情も険しいため、村人たちもどう接していいか戸惑っているのだ。


私は彼らの様子を見て、すぐにあることに気づいた。


「アシュレイ様、少しだけ私が先に話してもよろしいですか?」


アシュレイは不思議そうな顔をしたが、「ああ」と頷いて一歩下がった。


私は村長に近づき、柔らかな笑みを浮かべて挨拶をした。

 ベルノー家での苦しい社交や、家計管理で培った交渉術は、こんな場所でも役に立つ。村の長老を敬い、子供たちに声をかけ、冷え込む冬の備蓄状況を世間話の中に混ぜて聞き出した。


 村人たちの顔から、緊張が消えていく。


「奥方様は、本当に話しやすい方ですな。……辺境伯様も、あんなに柔らかい表情をされるとは驚きました」


そんな村長の声が聞こえ、振り返ると、アシュレイは少し離れた場所で、私の様子を静かに見ていた。

 私が彼と視線を合わせると、彼は軽く頷いた。その目には、「助かった」という感謝と、私の手腕に対する純粋な敬意が宿っていた。


 視察を終え、帰りの馬車の中。

 張り詰めた空気が解け、車内には静かな時間が戻った。


「……お前のやり方は、俺とは違うな」


アシュレイがぽつりと呟いた。


「俺は力で守ることはできても、心を通わせるのは苦手でな。……さっきのやり取り、見ていて勉強になった」


「そんなことありません。皆、あなたがどれほどこの領地を大切にしているか、分かっていますよ。ただ、少し不器用なだけです」


私は、彼の厚い手の甲に、そっと自分の手を重ねた。

 彼は少し驚いたように私の手を見つめ、それからゆっくりと私の手を自分の大きな掌で包み込んだ。


「……お前が隣にいると、この領地はもっと良い場所になる気がする」


彼はそう言って、視線を窓の外へ戻した。

 耳まで少し赤くなっているのを、私は見逃さなかった。


 氷の辺境伯の心に、少しずつ春が近づいている。そんな気がして、私も窓の外の雪景色を嬉しく眺めていた。

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