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翌朝、ランルーサは夜明け前に一人家をでた。
「さあ、しっかりしなさいランルーサ、私はランルーサ、どこにいっても私はかわらない」
ランルーサは昨日のジンダーヌの言葉を思い起こしていた。
「よいかランルーサ、明日の夜明けと共に、村はずれに都から向えの馬車がくることになっておる。お前はその馬車にのるんじゃ」
ランルーサはおじいの言葉通りに村はずれをめざして歩き出した。
霧の中、村はずれが近づいてくると一台の馬車が止まっているのが見えた。
ランルーサは大きく深呼吸して、もう一度村のほうに視線を移した。
その瞬間ランルーサの体が宙に浮き、馬の背に乗っていた。
「ダーイ! あんたどうしてここに」
「おじいから聞いた。水臭いじゃないか、あんなに嫌がっていた祈りの塔に何も言わずにいくなんてよ。なあルーサ、このままどこかへ行こうぜ」
ダーイは馬を走らせながら呟いた。
「ダーイ、馬を止めなさい!」
ランルーサは力いっぱい、馬の手綱を引いた。
「なんでだよ、なんで行っちまうんだよ」
「ダーイ大好きよ」
ランルーサはダーイの頬にキスをしダーイを抱きしめた。
「ダーイ、私には逃れられない定めがあるの、何をしてもどこに逃げてもそれは消えないの。私がもがけばもがくほどまわりの人達が傷ついてしまう。私が祈りの塔に身を捧げれば人々はまた平安に暮せるわ。私が今まで生きながらえて来れたのは、お母様のおかげ、だから今度は私の番なの、大丈夫よ私にはカーリの守り石があるわ、あなたと私の分身が染み付いた。だから私は大丈夫よ、たとえ私の肉体がどうなろうと私の魂はここに戻ってくるわ。ダーイ私の事は忘れてちょうだい。この谷をよろしくね。あの種子はきっとこの谷を幸せに導いてくれる。今は小さな存在だけど、いつか大きな木になって、死の砂漠にも緑が戻るわ。お願い、私の出来なかったことを私の変わりにして、こんなこと頼めるのあんたしかいないじゃない」
「嫌だよ。ランルーサが一緒じゃなきゃ…俺」
「ダーイお願い、わかって」
「嫌だ!」
「おほん! お取り込み中失礼、少し僕に時間をくれるかい」
馬を止めて馬の上で話していた二人にいつからいたのか、二人が乗っている馬がいるすぐ横の木にもられながらジルダスが立っていた。
「ジルダス王子!」
驚いた二人が同時に叫んだ。そんな二人に対してジルダスは馬に近づくと馬の頬を撫でながら言った。
「ランルーサ・イルーダ、あなたを迎えにきたよ。もう時間が迫っているのでね。僕と共に祈りの塔に来ていただけますね」
「ランルーサは渡さないぞ、何がこの民のためだ、ランルーサの犠牲のために生き永らえたって意味がないんだ」
ダーイはランルーサを自分の胸に抱きながら右手に持つ馬の手綱をギュッと握りしめた。
最悪の場合コイツを振り切ってランルーサをさらうつもりだった。
「ふっ、そういうだろうと思っていたよ。そこで僕に提案があります。僕の話を聞いてくれる気があるかいランルーサ?」
ジルダスは馬上のランルーサに向かって言った。
ランルーサはダーイから強引に離れると、ジルダスの手を借りて馬から降りた。
ダーイも今度は簡単にランルーサを離し、自分も馬から降りた。
「それは、この国の未来に影響があることですか?」
「そうだね。いい未来になるかもしれないし、最悪の事態になるかもしれない。僕にもわからない賭けの話だよ」
「私が祈りの塔に行くことで、この谷もみんなの命が明日に続いていくのならそうします。でも、もし別の方法があるのなら私はそっちにかけてみたい」
「僕も君と同じ考えだよ。ここにきてからの一年ずっと探していてある結論にたどり着いたんだよ。成功するか、しないかは僕にもわからない。結論からいうと、君はカーリの守り石を持っているね、その分身であるカーリの守り石を僕に譲ってはくれないか? 僕が代わりに祈りの塔に入るから」
「あなたが祈りの塔に入る? どうして…あそこに入れるのは巫女だけなんじゃ…それにどうして私がカーリの守り石を持っていると…」
ランルーサは馬上からジルダスを見下ろした。
「君はいずれ祈りの塔に入らなければならない身、それは君の出生に原因がある。君が王家の人間の血を受け継ぎ、伝説のカーリ生き写しだからだ。この国がこのままあり続けるためには塔に生涯を捧げるいけにえが必要なのだ。王家の血を受けついだ人間の祈りが必要になる。僕は長い間、カーリの守り石を探し続けていた。いけにえのいらない、永久持続的力のあるカーリの守り石と聖なる魂を、恐らくその石は既に人間を必要としていない、君たち二人の遺伝子を吸収して完成しているから。あの塔に入れる人間は巫女と次なる王になる資格を有するものなんだ。この国のお飾りの王子などいても未来は続いていくか分からない、だけど、君ならルーラルーラの未来を変えてくれるかもしれない。祈りの塔で祈りを捧げていても少しずつ魔の砂漠は浸食してくる。未来を変えるには君たちのような存在が必要なんだ。あの砂から種子を見つけたらしいね。僕は君たちに未来をかけることにしたんだ」
「本当にこれをあなたに渡せば私は自由になれるのですか? でも私の代わりにあなたが犠牲になるのですよね。あなたはそれでいいのですか?」
「ああ、城にいても僕は何もさせてはもらえていないからね。それなら祈りの塔に入ってカーリ神からの声を聞いている方が楽しそうだからね。1年前カーリの守り石が君たち二人の髪を吸収しているのだとジンダーヌ殿から聞き、僕なりに調べていたんですよ。そして、君の意思次第では君が来なくても何とかなるのではないかという結論に達したのです。何、祈りの塔にいても外の様子は知ることができるのですよ。母上がずっと君の身を案じ見守っていたようにね。実は、母上からメッセージを預かってきているのでそれを渡そうと待っていたのですよ。もし、君が既に運命の相手を見つけていたのであれば、このメッセージを見せるようにとね」
そう言ってジルダスはチラリとダーイの方に視線を向けてからランルーサに見えるように宝石を差し出した。
「祈りの塔にくるのか、こないのか選ぶのは僕じゃない、君だ。僕は君の選択に従うよ」




