㉖
「おーい二人とも、交代の時間だぜ、早く下りて来い」
見張りの塔の下から番人のバドスの怒鳴り声が聞こえてきた。
「はーい今おりまーす」
ランルーサは見張りの真ん中の螺旋階段になっている階段の手すりから顔をのぞかせて下にいるバドスに向って返事をした。
「ダーイ、行くわよ。さあ、今日も一日頑張りましょう。あんた今日は東の畑なんでしょ」
「そうだよ、ランルーサは確か明日はおじいと一緒に町まで買出しに行くんだろう? いいよなあ・・・ランルーサ例のやつ忘れないで買ってきてくれよ」
「えっ? 何だったかしら?」
「なんだよ、もう忘れたのか? ビーダの短剣を買ってきてくれって頼んでただろう。めったにでない短剣が売りにだされるっていうのに、こんな時に限って親父の奴足を折るなんてな。町には二日がかりだからな、幸いここの仕事は三日間交代でないしな、親父さえなんでもなかったら俺もついていくんだけどな」
「そうだったわね。親父様の足が治るまで仕方ないわよ、バーダの短剣は買ってきてあげるわよ、あなたの長年の夢だものね」
「バーダじゃねえよビーダだぜ、間違わないでくれよ」
「わかってるわよ、金物屋のベルダンタの店に行けばいいんでしょ」
「たのむぜ、今回を逃したら今度いつ手に入るかわかんねえからな。あれがあるのとないんとじゃ作業が全然違うんだぜ」
「ただの短剣じゃない、別に変わんないと思うんだけどな」
「わかってねえのはお前だぜ、ビーダの短剣は人は切れねえのに、雑草や固い木も切れるっていううわさなんだぜ、俺前に見せてもらったんだ、長年金を貯めてたんだからよう」
「わかったわよ、任せなさい。必ず持って帰ってあげるわよ。今年から育てているグリの実はもうすぐ収穫だものね。約束よ、バーダの短剣を手に入れたら生の実を一番に食べさせてちょうだいね」
「わかってるよ、グリの実はランルーサが砂の中から見つけた神の贈り物から見つけて奇跡的に育った伝説の実だからな。あんなに早く育つとは思っていなかったけど、この間実った奴はまだ熟しきれていなかったから硬すぎて結局むけなかったしな。次の収穫では絶対生で食べてえからな。グリの実が増えたら俺も独り立ちできるかもしれねえもんな。ランルーサ間違わねえでくれよな。ビーダだ、バーダはまがい物だぜ、たのむぜ」
「まかせなさい、私達の夢だものね。グリがこの村で育てば、砂の中でも育つグリの実を増やして砂漠を緑に変えられるかもしれないもの。生の実の種さえ取り出せれば」
ランルーサはダーイを両手で抱きしめながらダーイの頬にキスした。
ダーイは真っ赤になりながら言った。
「ラッランルーサ、おっ俺、まっまだ一人前じゃねえけどいつか、俺が誰にも負けねえものを作れるようになったらおっ俺と一緒になってくれないか? あっいっいやあの…つまりその」
「ダーイ…あんたの気持ちはうれしいけど、今は…いつか、もし私達の運命が変えられる時がきたら」
「運命ってなんだよ、おっ俺頼りないし、今は何も持ってねえし…駄目ならそうとはっきり言えばいいじゃねえか!駄目でも諦めるつもりはねえけど」
「ダーイ」
ランルーサはそっととダーイを抱きしめた。
そしてダーイの耳元にささやいた。
「ダーイ忘れないで、私の心はいつもあんたと一緒よ、この先何があっても。私の夢はこの場所で新しい命をはぐくんで、あの砂の土地でも育つ植物を育てることなの、私の夢にはあんたが必要だわ。でも、先のことはわからないでしょ」
「ルーサ…先の事はわからねえけど、俺も同じだ、この先もここで生きて生きたい。だけど、何かなんてどうして思うんだい? 俺達緑の民はこれから先もたいしてかわらねえんじゃあねえのか?」
「そうね、もしもよ、人生なんて明日何が起きるかわからないでしょ、でもこれだけはわかるわ。私はダーイが大好きよ、これは何があってもかわらないわ」
「俺、俺もっと頑張るからよ。ランルーサ!」
ダーイはランルーサを抱きしめ返した。
ランルーサは何かを決意したかのように遠くを見つめていた。




