04.一次試験開始-4
挑発的な声色が、クレヴァーの逆鱗を刺激する。抑えきれない憤懣の情が、白い肌を燃えるように火照らせる。自制が利かなくなったかのように唸る魔力は体中から放出され、憎悪に染まった蒼い瞳はシノを捉えて離さなかった。
「……っ」
ジリ……と後ろに後退しながらも、シノは構える。
「勝負は、冷静でいられた方が勝つのだよ!」
「打ち砕けーっ、鎧の騎士!!」
具現武器から手を離し、モーニングスターが霧と消えたその瞬間。クレヴァーを守るように現れた、全長3メートルの鎧の騎士に、シノは困ったような笑みを浮かべた。右手に剣、左手に盾を持ち、見た目に反する俊敏さで襲い掛かってくる。
「……なるほど。……強そうだ」
自分が持ちうる力の全てを出し切るように、クレヴァーは中級攻撃術を操った。注ぎ込んだ魔力量から、おそらくは最大攻撃術。威力だけなら上級魔術に匹敵し、舐めてかかれば怪我だけでは済まないだろうと、シノは思っていた。
剣を振りかぶる騎士を見据え、早めに両手を突き出したのもその為である。
「聖盾!」
「なっ……!?」
斜め上に繰り出された、オーロラ色に包まれし円盤の盾。鎧の騎士を真っ向から受け止めたそれは、強い光で中級魔術を飲み込もうとしていた。両者の術は次第に激しくぶつかり合い、そして永遠に続くかのような接戦が繰り広げられていく。
しかし、魔力は便利な魔法でない。体内の魔力には絶対量というものが存在し、使えば使う程疲労が溜まるのだ。初っ端から全力を出していたクレヴァーと、魔力消費量が少ない術しか使わなかったシノとでは、どちらに分があるか日を見るより明らかだった。
「勝負あったな」と、場内で呟いたのは誰だったか。シノの視線がふと上に反れ、無機質な瞳が僅かに揺らめいた。
「諦めろ、お前に勝ち目はない」
「――っ!」
「防御術は攻撃術に比べて魔力消費量が少ない上に、盾系は初級魔術だぞ」
「くっ」
余裕すら感じられる彼の声色は、クレヴァーを正気に戻すと同時に、戦意というものを少しずつ削いでいった。次第に、鎧の騎士はひび割れ、体の一部が盾の力で溶かされていく。ここまで来れば、勝負は決まったも同然で、素直に負けを認めた方が良いという野次が飛び交い始めた。
チャンスは2回与えられているのだから、ここで無理をする必要はない。意地を張って、次の試合に支障を来たすなら、ここは素直に負けを認めた方が合理的だ。けど、理性で抑えきれないほどの激情が、クレヴァーの判断力を鈍らせていた。
両者の術が消え、シノが三棍棒を拾い上げようとしたその時――微量の魔力を身に纏ったクレヴァーが勢いよく突っ込んでくる。
「危ないっ!」
リオが叫び、キルトは乗り出すように鉄格子に身体を預けた。シノの大きな瞳が、零れ落ちそうなほどに見開かれる。
「……くっ」
なりふり構わないクレヴァーの突進を、辛うじて飛び退いたシノは、反射的に左手を上へと掲げた。ここで攻撃術を使えば、今までの苦労が水の泡になってしまう。それでも背に腹は変えられず、シノは仕方無しに魔術を使うタイミングを見計らった。
しかし、勢いよく突っ込んできたクレヴァーの動きは、急にピタリと停止する。
「やめた」
「は?」
「合理的に、考えただけだ。悔しいけど」
訝しげに眉をひそめるシノを見て、クレヴァーは忌々しげに舌打ちを鳴らした。
「2次試験では真っ先に潰してやるから、覚悟しとけ!」
「……。それは――随分と恐ろしい宣戦布告だ」
ふ、と小さな笑みが溢したシノは、クレヴァーと同時にグレインが映るモニターに視線を向ける。すると、グレインは勝利者――“シノ=クラウン”の名を口にし、シノの1次試験通過は確定されたのだった。




