04.一次試験開始-5
グランドの4隅に設置された、視聴席へと続く螺旋階段。シノはクレヴァーとは反対側にある階段を上りながら、知ってる顔を無意識の内に探した。
満面の笑みを浮かべるリオ。呆れたように腕組みをしているキルト。そして、怒りを含んだ表情の蓮――。
「……うわ」
一体、何に対する怒りなのか。初めこそ理解出来ないシノだったが、蓮の性格を考え、そこから答えを導き出した瞬間。シノは、はたと立ち止まり、さも面倒臭そうなため息をもらした。
螺旋階段を上りきった自分を待ち構えているのは、おそらく彼の怒鳴り声だろうから。
「シノ! 君は、なんって無茶な戦い方をしてるんだよ!?」
(やはり、か)
出会って間もない。しかも、仲間ですらない人間の心配をするとは――なんてお節介。お人好しなのだろうか。シノは、蒸気させている蓮から視線を反らすと、ポーカーフェイスを崩す事なく淡々と話し始めた。
「楽しかっただろう?」
訝しげに眉をひそめる蓮に、シノはズイと顔を近づける。
「私の試合。ハラハラして楽しめただろう?」
「ばっ……エンターテイメントじゃないんだよ!? もし一歩間違えてたらどうなってたと思うの!」
「いやいや、私の計算に狂いはない」
「はぁー?! 反省の色皆無なんだけど! 見てるこっちの神経が磨り減ったっつーの! 少しは、気をつけて!」
「……。ああ。今度からは気をつけよう」
気をつける気など更々無いシノに、蓮は呆れ眼でため息をもらした。
「嘘つくの下手くそすぎるー。今の間何だよー」
「まあ、隠す気もないからな」
「おい」
「というか、そんな心配されるような間柄でもないだろう? 私達はライバル、蹴落とすべき相手」
「ぐっ……。いや、まあ、それはそうなんだけど」
気まずそうに片目を右往左往させ、蓮は続ける。
「……ほら、シノって、チビで小柄じゃん?」
「あ"?」
「だから、故郷にいる弟を思い出すっつーか……」
「あ。ああ……なるほど」
「すぐ死にそうで心配」
「おぉい! 物凄く失礼だなお前は!」
「キルトなら殺しても死ななさそうだけど」
「え。俺、化物……? そんな不細工?」
聞き捨てならない蓮の言い分に、今まで黙って聞いていたキルトが口を挟む。少しズレた反論に、蓮は慌てて否定した。
「何その解釈。天然かよ。違う違う」
「香住さん、ブスだなんて酷いですよ~」
面白がって追い打ちをかけるリオに、蓮の表情がピシッと固まる。第三者から見れば、冗談である事はすぐわかるが、彼の瞳にはそう映らないようだった。
生粋の女好きである蓮は、女性に嫌われる事を恐れている。違うってぇー!、と慌てて弁解を始めるその姿は、なんとも惨めで情けない。先程までの“頼れる兄”はどこへいってしまったのか。キルトは抑えきれない笑声を喉の奥で鳴らしながら、電子手帳を開くシノの元へと歩み寄った。
「俺、わかっちゃったかも」
「……え?」
「アンタの魔術属性は聖だろ? 自己再生系の術、使ったんじゃない?」
遠慮がちに喋りながらも、自信をのぞかせるキルトの瞳に、シノは2度3度瞬きを繰り返した。
自己再生は、聖の属性を持つ術者なら、誰もが会得したがる技の1つ。キルトが察したようにシノの魔術属性は聖、会得していてもおかしくはない。
(着目点は悪くないが……)
ふっ、と鼻で笑いながらシノは手すりに寄りかかった 。
「自己再生は一寸の狂いがないコントロールが必要とされる。戦闘中に使える人間はほぼ玄人って事を知った上での発言か?」
「え、うそ。マジ? で、でも、魔術は使ったんだよな!?」
「正確には魔術、ではないが。技は使った。当たり前だろ? 見せない努力をしただけだ。……そんな事より、私も、聞きたかった事があるんだが」
シノはキルトの肩に手を置くと、誰にも聞かれないよう更に顔を近づけた。耳に生温かい息がかかり、キルトの表情は一瞬にして青ざめる。
“アイズ”
シノが、彼の名前を口にしてしまったから……。
#04.一次試験開始・完




