04.一次試験開始-2
受験者の反応を待たずに、試験内容の説明を機械的に行ったマルコは、「健闘を祈ります」という言葉を残し、モニターから姿を消した。 静まり返っていた場内は徐々に騒がしくなり、照明も光を取り戻していく。
それに合わせるかのように、モニターには6人の受験者名が表示され、第一次試験は静かに幕を開ける事となった。
今回の試験内容は、機械が選出した受験者同士で闘うというものだ。チャンスは2回与えられており、1度でも勝てば通過。3/4の受験者が第二次試験を受けられるという、実に簡単な試験である。
対戦相手や試合時間が直前までわからないという難しさはあるが、余程の相手と当たらない限りは大丈夫だろう。キルトは、異端者に当たらない事を祈りながら、視線を上へと上げた。
「え?」
瞬きを1つ、2つと繰り返す。僅かに開いた口から、小さな声が漏れ出る。幸いな事に、自分の名はなかったが、モニターの中には、彼が知る人物の名前が表示されていた。
「まじかよ」と、まるで自分の事のように、キルトは慌てながら後ろを振り向く。次の瞬間、彼の目に飛び込んできたものは、カバンから取り出したクラッカーを頬張るシノの姿だった。
腹が空いては戦は出来ぬというが、それを実行してしまうなんて、本当いい性格をしていると思う。
「アンタ、ほんっと冷静だよな! トップバッターなのにさ」
「……冷静、か。これでも焦ってるのだよ、キルト。まさかトップバッターで、この会場とは思わなかったからな」
シノは、心底嫌そうにため息をもらすと、食べかけのクラッカーを口に放り投げた。
第一次試験は、1度に3試合行われる。
この会場の他にBブロックとCブロックが存在し、シノはこの会場・Aブロックを指定されていた。
BブロックとCブロックは渡り廊下の向こう側にあり、造りは全く同じだと言う。注目されている受験者が戦いでもしないかぎり、わざわざ行こうとはしないだろう。
後半はバラける可能性はあるが、前半はほぼAブロックに集中するはずだ。と言う事は、多くの人に自分の属性を、会得した魔術を、必殺技を見せる事になる。
自分の事を語りたがらない秘密主義な性格は、おそらく戦いの場でも同じ。シノは自分の能力を公の場で晒す事を危惧していたのだ。
「最悪だ。リタイアしたい」
「何言っちゃってるの!?」
気だるげなシノを諭すように、蓮は彼の肩を揺さぶった。
「対戦者は、やる気満々だよ!」
「ええ……」
怪訝そうに眉をひそめるシノと一緒に、キルトも蓮が示す方向へ顔を向ける。……確かに、やる気に満ち溢れているように見えた。顔も知らない対戦相手に喧嘩を売り、自分の存在をこれでもかとアピールしている。
シノの性格上、こんな安い挑発に乗る事はないが、揺らがないポーカーフェイスが、ほんの一瞬歪んだような気がした。キルトは驚いたように目を見開く。
「わかりにくいけど、苛ついてるの?」
キルトが聞くと、シノは首を横に振った。
「そんな事はない。ただ、金髪モヒカン野郎とは思うな」
(苛ついてるじゃん……)
手すりに足をかけ、シノが視聴席からグランドへ飛び降りた――その時。メガネをかけた男がモニター越しに姿を現した。
『こんにちは。Aブロックの進行役を努めさせていただく、トーマス=グレインです。シノ=クラウンとクレヴァー=アレンはグランドに……ああ、もう準備してますね』
気の早い2人の受験者に苦笑をもらしながら、グレインはただ一言『開始!』と告げた。
甲高い声が会場内に響き渡ったその瞬間。クレヴァーは両手を前に突き出し、シノは三棍棒を構えながら相手の出方を伺った。掌に集まるクレヴァーの魔力は「鋼砲」の一言で鋼の弾丸に変わり、複数の鋼がシノを襲う。
傍聴席にいても感じる、中々に強い魔力。しかし、シノはそれを必要最低限の動きで交わすと、挑発するような嫌味な笑みを浮かべた。
そんなシノを見て、蓮は思わず首を傾げる。
「あのさ、キルト?」
「なに?」
「余裕ぶっこいてるけど、シノって強いの?」
蓮がキルトに聞いた質問の答えは、後ろから返ってきた。とっさに身構える蓮の姿を見て、その人はケタケタと笑っている。
「強いっていうよりはぁ……力の使い方が上手? みたいな? 一度守られたからわかるんですよね……えへへ」
「アンタ……」
神出鬼没なリオに、呆れたようにため息をもらすと、キルトは再度グランドへと視線を向けた。




