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キルト  作者: カシミア
前編
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15/20

03.忍者、香住蓮-5

*




「あははは、そうなんですかー」


「うん、それでね」




 3人、主に蓮とリオが談笑している間。シノは1人、電子手帳を開いていた。肌見離さず持ち歩いている彼の1番の武器“情報”が、そこには詰まっている。


 ハッキング、という方法で盗み出した受験者情報。そして、クロノスからはわかり得ない、魔術属性等の個人情報。リオ=クルスク、香住蓮、そしてキルト=アルジェント。彼らの情報も無論調査済みだが、それは完全ではない。


 性格からわかる行動パターンは、戦闘においても癖が出る。シノは3人の、主に会ったばかりの蓮を観察しながら、新たに得た情報のデータ入力を始めていた。


 キルトは、シノがよく電子手帳を広げる理由を知っている。だが、彼は嫌がる素振りも見せず、大人しく黒い窓ガラスを眺めていた。勿論、警戒しないわけではないが、よほど腕に自信がないと出来ない事だろう。


 シノは電子手帳越しにキルトを盗み見た。


 すると、黒い窓ガラスを眺めていたキルトが、シノと目線を絡めてきた。気配を絶ってないとは言え、この一瞬の変化に気づくとは。


 シノは電子手帳を閉じながら、いや……と首を横に振った。




「え……マジで何? 気になるんだけど」


「流石だな、と思っただけだ。気にするな」


「はあ?」




 素っ頓狂な声をあげるキルトに、シノはフンと鼻で笑った。そんな彼らのやり取りを見て、今までリオと話していた蓮は、初めて男組に興味を向ける。


 気ままな奴だと内心思いながら、シノは蓮を見返した。




「そういえばさ、シノも民族衣装だよね? その、変な格好」


「……気づいていたが、失礼だな。君は」


「それよりさっきの何だよ、シノ」




 侵害だなと言いたげに腕を組むシノに、追求をするキルト。だが、シノはキルトに目も合わせず、再び電子手帳を開いた。




「そういうお前こそ民族衣装じゃないか……しかもそれ、和国のだろ?」


「へー。詳しいね。うん、そうだよ」




 感情が読みとれない無機質な表情のまま、シノは淡々と続ける。




「……おかしいな。和国はクロノスの支配下にない国。魔術に否定的だし、そもそも存在しないはずだが……」


「え、和国生まれだったんですかぁ? あの東の?」


「たしか、小さな列島で……隣国の領土じゃ?」




 シノに続き、リオ、キルトとそれぞれの意見を述べる。解せないとでも言いたげな3人の瞳は、蓮から気まずそうな表情を引き出していた。シノは首をひねる。


 今から75年前。

魔力を主軸に置く我が国・西は、昔、魔力を毛嫌いする隣国・東と6年に渡る戦を起こした。所謂、第二次世界大戦の勃発である。


終結した後も両者の間には緊張状態が続き、互いに干渉しなくなったのは、両国を隔てる巨大な海・オセアンに突如境界線が生まれてからなのだ。


 未だに遺恨は消えず、戦の痕跡は今も色濃く残ってる。

だから、オセアン海の中央にある列島で、東国の領土にある和国の人間が、西国に足を踏み入れるとは考えにくかった。それに、魔力を忌み、魔力という物の存在否定した国の者が、魔術師試験に参加出来るはずがない。


 シノは滅多に動かない眉を中央に寄せながら、まるで犯罪者に向けるような眼差しで蓮を見上げていた。




「お前、嘘をついてるのではないか? どう考えてもおかしいではないか。東国に魔力はないのだろう?」


「あー……まあ、そうね。東国は東国でも、和国は特別っていうか……聞いた事ないかな? 忍者、って」


「……。忍者……ふむ、聞いた事はあるな。確か――」

バッグの中から取り出した苦内を、シノは顔の前でかざす。

「苦内や手裏剣を使う、暗殺者」


「暗殺しゃ……っ、いや、そうとも言えるか。実を言うとね、忍者は異能力者の集まりなんだよ。和国は、クロノスの支配下になりたくないからって、東国に属しながら鎖国を続けてるんだ」


「っ! な……魔術が、あるのか?」


「根本的には同じだからそうなるけど、和国では忍術だと言われてるね。去年魔術師試験の事を知ってさ、面白そうだからこっちに移住してきたんだ。こっそり」




 そうか、と呟きシノは得た情報の入力を始める。キルトの呆れたような眼差しが突き刺さった。




「で、シノはどこ出身?」


「私は……」




 興味本位で問いかけてくる蓮に、シノは口に人差し指を当て言葉を発する。しかし、「企業秘密だ」と言いかけた言葉は、キルトによって遮られる事になった。


 まさか同じ台詞を、それも先に使われるとは思わずに、シノは驚いたようにキルトを振り向く。すると、“イタズラ成功”と言わんばかりの笑顔を浮かべる彼がこちらを見ており、シノはムッとしながらも文句の言葉を口した。


 だが、



「キル――」




それを言い終わるより先に電車が急停止し、シノはガラス窓に頭を打ち付ける事となった。下車して下さいというアナウンスが、まるで冷やかしのように聞こえ、紫色の瞳には怒りの色が浮かぶ。




「着いたみたいですね! 皆さん、行きましょう!」


「あ、待ってリオちゃん! キルト、シノ、先行ってるから!」




 元気よく飛び出すリオを筆頭に、蓮、他の受験者と降りていく。キルトは吹き出しそうなのをこらえながら、微動だにしないシノに声をかけた。




「ガラス窓にヒビ入ってるけど、ちゃんと弁償しなよ」


「言いたい事はそれだけか」




#03.忍者、香住蓮・完

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