03.忍者、香住蓮-2
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「ロイド=パトリック、A級の賞金首だねぇ。ん、確認完了しました。……それでは、改めまして。キルト=アルジェント様、魔術師試験予選通過おめでとうございます」
パソコンに向けられていた顔を上げ、年配の警察官は愛想良く笑う。力で国を統治したクロノスを、そこに属する魔術師を、快く思わない警察らしからぬ対応に、キルトは驚きを隠す事が出来なかった。
キルトは、魔術師一門の出であり、クロノスの元将官を父を持つサラブレッドだ。軍の犬と蔑まれてる事や、嫌煙されてる事はよくよく知っていたし、冷たい視線と刺々しい言葉を受ける覚悟はしていた。
好意的な態度など、予想の範疇にない。逆にどう反応すればいいのかわからずに、キルトは「はあ……」と頷く事しか出来なかった。
「はい、これ証明書ね。頑張ってください」
警察官は、預かっていた受験票を返すタイミングで、“A級捕獲証明書”と書かれたブラックカードをキルトに渡した。アリガトウゴザイマス、と片言のような敬語を口にしたキルトは、にこやかに笑う警察官に会釈しながら出入り口に足を向ける。
ウィーン、という機械音と共に自動ドアが開き、4月を超えたばかりの冷たい風が体の温度を下げた。凝り固まった筋肉が少しずつほぐれていくような感覚に、キルトは思わず空を仰ぐ。
「邪険にされた方がいいとか、俺ってどーなの……」
「……あっ。キルトさーん」
出てきた途端駆け寄ってくる茶髪の女の子に、キルトは、はた……と動きを止めた。我感せずを貫くシノとは対照的に、彼女はグイグイ他人のパーソナルスペースを踏み荒らしていくタイプらしい。突っ立ったままのキルトの手を引き、リオは半ば強引にシノの元へ引っ張っていった。
「さ、行きましょう! 道案内なら私に任せてくださいね!」
「は?」
「……うむ」
戸惑うキルトを差し置いて、シノは自分の荷物を手に、いつもの仏頂面をリオに向ける。
「そうだな、任せよう」
「え、ちょ、待てって。……てか、大丈夫なのか? 任せて」
勝手に歩き出すリオの背中を追いながら、つぶやくキルトにシノは不敵に笑った。
「来た事はないが、この街の地理は頭に叩き込んでいる。彼女が嘘の道を教えても私は正しい道がわかるから安心しろ」
緊張感の欠片もないくせに警戒心は人一倍強く、寄ってきたかと思えばさらりと交わす。変わり者で底が見えない、扱い辛い事この上ない同行者に、キルトは思わず苦笑いを浮かべた。
「早くついてきてくださいよー! すぐ着きますからぁ」
「ああ、わかった」
早く早くと飛び跳ねるリオに、シノは駆け寄り、キルトはその背中を無意識に目で追った。その後、キルトの視線に気づいたシノから、また失礼極まりない発言を受ける事になるのだが、それはまた別の話。
*
サンディゴシティのゼウスタワーは、大きく小奇麗な建物だった。中は軍基地にすぎないのだが、外観はまるで一流企業。ここで魔術師試験が行われると思うと、キルトは緊張を隠しきれず生唾を飲み込む。
隣を見ると、行き慣れているであろうリオでさえ顔を強ばらせている。シノは相変わらず無表情で何を考えているかわからなかったが、若干漂う空気が固いような気がした。
キルトが一歩踏み出すと、それに続いてシノとリオも歩き出した。入り口に立つ警備員に受験票を見せ、中に通される。
「初めて入ったけど……すげ」
「はしたないぞ、キルト」
思わず周りを見渡してしまうキルトに、シノはため息をもらす。そして、失礼な奴と口を尖らせているキルトを素通りし、リオと一緒に受付へ向かった。
受験票と証明書の提示を求められ、シノとリオ、少し遅れてキルトが受付の男性に渡す。男性は受験者名簿を取り出し、受験者番号と名前の確認をしていた。
「リオ=クルスクさんはこちらを……」
「はい」
そう言って差し出された星形のピンバッチ。続いて、シノとキルトにも渡された。形、大きさ共に同じだが、3人とも色が違う。
不思議そうに互いのピンバッチを見比べていると、男性は補足するかのように話し出した。
「捕まえた犯罪者のランク、数によって星の色が違います。それ、試験終了後回収するので無くさないで下さいね。無くした場合、失格です」
「これからの試験に響くんですか!?」
不安げに尋ねるリオに、男性は静かに首を振った。
「いえ、途中評価も変わりますから。
リオさんはB級の賞金首を1人なので青い星を。キルトくんはA級の賞金首を1人なので赤い星を。
シノくんはB級の賞金首でしたが、あの短時間で複数の賞金首を探し確保するのは困難だと見なし、2ランク上の黄色をお渡ししました」
「そうか……1人だけにしとくんだったな」
ぼそぼそと呟くシノに、キルトは不思議そうに首を傾げた。高い評価が不服だなんて、全く理解が出来ない。
「他に何か質問はありませんか?」
「いえ、特には……」
「それでは、会場へ向かっていただきましょう」
男性はカウンターを飛び越えると、3人を誘導するかのように歩き始めた。




