92、深海からの手紙
アゴタは海のどこかに住んでいるのだという。そんなアゴタから毎年、手紙が届く。
「ご機嫌いかがですか。最近は、海の水に打たれて修行をしています。ご機嫌よう」
僕らはアゴタに返事を出す。
「アゴタさんの住んでいる海はきれいですか。そこは暖かなところですか。僕たちは一度、アゴタさんの住んでいる海に行ってみたいです」
すると返事が届く。
「お手紙ありがとう御座います。海の水は最近は、少し冷たいでしょうか。冷たくても気持ちいいです。私は人魚ですから。海で泳ぐのが好きなのです。隠された財宝と一緒に住んでいます」
僕らはまたアゴタさんに手紙を出す。
「今度、アゴタさんの住んでいる海にみんなで出かけることにしました。迷惑かもしれませんが、大勢で遊びに行きます」
返事が届く。
「まあ、素敵なことです。ぜひいらしてください。私の住んでいる海は狭いところですけど、みなさんが泳げるぐらいの広さはあります」
そして、僕らはアゴタさんの手紙を頼りに、郵便配達人を尾行して、アゴタさんの海へと遊びに出かけた。
僕らは世界中の海を探して、アゴタさんが世界の海のどこにもいないことを確認していた。居場所を知っているのは、郵便配達人だけだ。
郵便配達人は僕らの手紙を、海へ持って行こうとはしない。海岸の洞窟に侵入して、どんどん地下道を降りていった。それは長い長い地下への旅だった。いったい、どれだけの距離を歩いたのかもわからない。途中で、あんまり深い地下へもぐるので、この道は地獄へ通じているのではないかといい出す者も現れた。それでも、引き返すことなく、僕らは郵便配達人を追いかけていった。
海のどこかにいるというアゴタに会いに。隠された財宝と一緒に住んでいる人魚だというアゴタさんに会いに。
郵便配達人は、一万メートルは地下に向かって歩いたと思う。辿りついた地下洞には、百メートルぐらいの広さの空洞があった。そこに、天井の岩から、ぽたん、ぽたん、と水滴が一滴ずつ落ちてきていた。
落ちてきた水滴が溜まって、大きな水溜りをつくっている。ここは海の下の海底のさらに下の地下。上の海から、一滴ずつ海の水が滴り落ちてくる地下にできた小さな海なのだ。ここも海なのだ。
水溜りの水をなめると、塩辛かった。そこに、人魚のアゴタさんがいた。海底の地下に隠された財宝と一緒に。
「ようこそ、地獄の海へ」
アゴタさんはそういった。
「ここは地獄で唯一、聖なる力を持った海水の溜まる海よ。好きなだけ泳いでいくといいわ」
そして、僕らは遊んで、財宝をもらって、帰っていった。




