86、皇帝出演劇場「落城跡にて」
「皇帝が今度、演劇がやりたいっていってるんだ。どうする」
「どうするって、皇帝陛下の命令には逆らえないだろ。出演してもらえればいいさ、演劇に」
第一幕 落城する摩訶不思議城。
「おお、我が城が蹂躙されている。こんなことが許されていいのか。臣民の主たる余に何の不徳があって、神はこのような仕打ちをなさるのか」
「おい、おまえ、ひょっとして、元皇帝陛下か。それならば、奴隷にして敵国に売り飛ばしてしまうが」
「いかにも。余は皇帝陛下である。だが、そなたの申し出は断わる」
「ならば、死んでもらうぞ、皇帝。あなたの首をもっていけば、おれは次期皇帝だ」
剣劇。そのまま、幕が下りる。
幕間
「監督よ、こういう脚本は本当に困る。余は演劇をしている間にも、余の命を守らなければならない。通りすがりの男の剣が真剣に見えたぞ」
「なに、すべて剣は模造刀ですよ。それでは第二幕です。なかなか好評ですよ」
第二幕 皇帝の娘
「お父様、ジルでございます。お父様は何をなさっておいでですか」
「誰か、善人が現れるのを待っておる。余の時代が終わったのなら、皇帝位を禅譲しなければならない。どこかに優れた若者はいないだろうか」
「それなら、大地がいいよ。大地っていう名前の子供がいるの」
「これが大地か。ずいぶんと暗い性格をしているのだな。話しかけても、生返事が帰ってくるばかりだ」
「皇帝の位、おれが引き受けてもいいぞ」
「よし。ならば、皇帝の位を今日からそなたに譲り渡そう」
「帝国といっても、もう、廃墟の城がひとつあるだけだけどね」
幕間
「このような劇は本当に困る。世間が本当に余が皇帝の位を譲り渡したみたいではないか。臣民を扇動しているようなものだ」
「ははははっ、愚かな皇帝よ。あんた、まさか、この劇場がただの造りものだと思ってるんじゃないだろうね。明日になればわかるさ。皇帝の位は大地に禅譲され、帝国は大地のものになるんだ」
「計ったな、劇団ども」
第三幕
皇帝が剣を振りかざして、劇団員を斬り殺そうとする。軽くかわす劇団員。
そして、大地の渾身の突きが皇帝の腹に刺さった。
「皇帝から位を譲りうけ、皇帝を放伐したのは余である。今後、帝国はこの大地が支配する。わかるか。これが現実なんだよ。小説だ、漫画だ、映画だ、演劇だ、そんな虚構と現実の区別のわからない愚か者は、みんなこうなる運命なのさ」
「それって誰さ」
「あの愚かな皇帝だよ」
そして、劇の最後には、はっきりと死んだとわかる皇帝の姿がさらされていた。




