70、夢見る帝国
夢見る帝国があった。世界の中の小さな島にある帝国だが、国民は皆、他の国の誰よりも幸福だった。
夢見る帝国では、夢見る人々が見ている夢が実現し、幸せな理想郷を築いていた。夢見る帝国に逆らう国はない。夢見る帝国は世界を征服している夢を見ていた。
皇帝であるつもりのライアンはいった。
「雲の上の征服はどうなっておる、リチャード将軍」
「はっ、飛行船に乗って雲の上に攻め上がり、雲の上の果実を収穫しているところであります」
「うむ、よろしい」
ライアンは夢を見つづけた。
「大臣、魔王との戦いはどうなっている」
「はっ、勇敢な若者が次々と攻め入っています」
「よろしい」
子供がやってきて、ライアンにいった。
「ねえ、皇帝。この世界はどうなっているの? 帝国の外には、財宝もないし、帝国に従う人たちはどこにもいないよ」
「何、けしからん。余が知らぬ間に属国が反乱を企てたか。よし、竜を駆る軍隊で、もう一度、征服してくれようぞ」
「そんなことより、外の世界では、帝国の人にこれをかがせて、連れて行ってしまうよ」
「なんだ、それは」
「気付け薬だよ。これをかぐと夢から覚めるんだ」
「ふん、くだらん。貸してみろ」
ライアンは気付け薬をかいでみた。すると、自分が皇帝だったことをすっかり忘れてしまった。夢見る帝国が世界を征服していたことも忘れてしまった。ライアンは夢から覚めた。自分が平凡な若者にすぎないことを思い出したのだ。
「むむ、むむむ」
「ねえ、皇帝、帝国の外はちょっと様子がちがうでしょ」
「むむむむむ、むむ」
「外の国が攻めてきたら、帝国は負けちゃうよ」
「むう。だが、安心するがよい。世界には、夢幻のごとき怪物であふれている。それを退治するのは、確か夢見る帝国という国の兵士たちだった。おれが見ていた夢は、きっと、世界を救うための冒険だったはずだ。怪物には物理攻撃は通じない。夢見る帝国の兵士でなければ、怪物を倒すことはできないのだ」
「それって、どういうこと?」
「悪しき魔王を倒すことができるのは、夢見る帝国だけなんだよ」




