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62、鏡の向こう側
鏡を通ると、もうひとつの世界に行けるのだという。
思い切って、鏡を通ってたどりついた向こう側の世界には、人をとって食う怪物が住んでいた。
やばい。
早く、鏡を探して元の世界に戻らないとたいへんだ。
逃げろ。怪物から逃げろ。
「どこへ行く。そうやって、現実から目を背けて生きていくのか。なぜ、わしに立ち向かわない。そうやって、一生、鏡を探して逃げるのか。臆病者め」
「うるさい。だいたい、鏡の向こうに怪物がいるなら、誰もそんな世界へ行きやしない」
「忘れたのか。こちらが本物の世界で、鏡の向こうに逃げこんだおまえたちが偽物の世界に住んでいることを」
「なんだって?」
「あれは何年前のことだったか。鏡の中に逃げこんだ臆病者たちがいたのを、わしはちゃんと覚えている。おまえたちが住んでいるのは、偽者の世界だ」
「うそだあ!」
その者は正気を失いそうになった。
だが、かすかに覚えている。本当の世界には、怪物が住んでいたことを。幼い頃、怪物のいない鏡の中に逃げこんだことを。
「うおおお!」
その者は怪物に立ち向かった。そして、哀れにもボリボリと食べられてしまった。
「これでいいのだ。あと何人の者が、鏡の中に逃げこんだまま、帰って来るのを忘れているだろうか」
怪物はボキボキと骨を折って、鏡の向こうを眺めた。




