56、太陽潜行船
人類は太陽の中に、特別観測所を投下した。太陽特別観測所は、太陽の中にあって、日々、太陽の観測状態を報告してくるのだった。地球の磁気嵐の調節も、太陽特別観測所で行えた。
そして、ロシア宇宙開発航団が太陽特別観測所を占領して、地球征服のきっかけにするという情報が入った。日本自衛隊は、太陽潜行船を用意して、ロシアの宇宙船団に先んじて、太陽特別観測所を防衛する作戦に出た。
これが有名な、第一次太陽戦争である。
日本自衛隊の太陽潜行船は、最初から困難に直面していた。太陽に近づくにつれ、船内の坊膜壁が壊れていったのだ。太陽に接触するまでに、十二枚あった防膜壁のうち、四枚が破損して、放棄された。
そして、ついに太陽への潜行開始である。まだ常温を保っている船内は、まだ暴動は起こらずに、自衛隊員は粛々としていた。太陽の中は甘くはなかった。超高温の爆発が太陽内で起こり、防膜壁を疲労していった。船内の乗組員の顔には冷や汗が流れていた。
「いったい、特別観測所にはいつになったら着くのだ。太陽なんかに飛びこんで、おれたちは大バカ野郎ではないのか。人類が太陽の中を自由に行き来できるなんていう司令官の話は嘘だったんだ。おれたちはここで一人残らず、死ぬだろうよ」
すると、観測機が敵影を発見した。ロシア宇宙船団も、同じように、あまりにも熱くて、瀕死でいるようだった。日本自衛隊はロシアに通信を送った。
「我々、いつ死ぬかも知れず。ここまでたどり着いた宇宙船なら、同志も同然。交戦するを望まず」
ロシア宇宙船団から返信があった。
「了解である。太陽観測所を占領する作戦は放棄したり。同志よ、ともに太陽特別観測所で会おう」
第一次太陽戦争に戦闘はなかった。ただ、太陽の中を進行する二つの命知らずな軍があっただけである
太陽内嵐が吹き荒れ、両軍とも、まともに呑みこまれた。八万度を超える爆風を受けたのである。自衛隊の太陽潜行船は、残り一枚の防膜壁を残すのみとなった。
「艦長、この一枚の防膜壁が失われたら、我々は何千度の熱で瞬間的に焼き焦げてしまうでしょう。ロシア宇宙船団だって、同じですよ。ああ、見てください。ロシア宇宙船団が爆風に当てられて、消えていく。ここまで来たら、敵も味方もありません。救助しましょう。ロシア宇宙船団を。彼らより、我々の方が、ほんの少しだけ高性能な防膜壁をもっていたようです」
「いいや、救助はならん。その余裕は我が船にはない。見ろ、太陽特別観測所に着くぞ」
見ると、ロシア宇宙船団が焼き焦げて行くところだった。自衛隊の太陽潜行船も、最後の一枚の防膜壁が破れて、数万度の熱に乗組員が溶けていったところだった。ただ、太陽潜行船の艦長室周辺だけが残った。
太陽特別観測所。情報では存在するが、なぜ、燃えつきずに存在できるのか謎の人工物だった。太陽特別観測所から通信が入った。
「我々はいかなる国家の介入も許さない無国籍施設である。両軍どちらの船も入港を拒否する」
そして、ロシア宇宙船団は最後の一隻までも太陽熱に燃やされて死んでしまった。自衛隊の太陽潜行船とて、例外ではなかった。
「我々に起きたできごとの情報だけでも、攻めて本国へ通信するのだ」
そして、太陽潜行船は焼き焦げて溶けてしまった。




