44、信仰心の熱い者の正義
聞き手「正義って何なの?」
信者「勝つことは悪いことなんだよ。勝つってことは、誰かを負けさせることで、それは正しい行いじゃないんだ。この地上に正義があるとしたら、その正義は一度も勝つことなく、ただ負けていくものなんだ。絶対に勝っちゃいけないんだ。地上の正義に勝ちはない。負けて負けて負けつづけることこそ、神が望みたもうた生き方であり、あるゆる勝利を捨て、あらゆる繁栄を捨て、あらゆる快楽を捨てて、そして、たどりつくものこそが正義なんだ。地上で正義を行ったものは、死後、天上で祝福されるであろう。地上で勝利をつかみ繁栄することの醜いさまを見よ。地上で勝つものは地上の快楽に溺れたもの。悪しき者なんだ。正義とは、一度も勝つことなく常に負けることだよ」
聞き手「勝つことが悪いことなの? すると、お姉さんは地上で負け、天上で勝つために生きているの? 他人をさしおいて天上で勝とうなんて、図々しい強欲なことではないの?」
信者「そんなことはないよ。わたしは地上で負けて、天上で祝福される生き方をしたいのだからね。さあ、わたしの邪魔はしないで、わたしを倒してお行きなさい。わたしは負けるたびに神に近づくのだから」
聞き手「あなたのいう正義というものがわからない。地上で首を吊り、生きとし生けるものがみな自殺するのが理想的な地上のあり方であろうか。地上で自らに刃を立て、生きとし生ける騎士がみな自決するのが正義の進軍であろうか。それはなんと静かな地獄であることよ。おお、あなたは狂いたもうた狂信者ではないのか」
信者「心を開きなさい。心を開けば、それこそが神の望む理想的な地上のあり方だと気づくでしょう。人は地上ではもがき苦しみ、天上でのみ祝福されるべきものであるがゆえに」
聞き手いわく。結局、わたしには彼女の正義を理解することができなかった。へげぞ記す。




