25、多世界宇宙征服
宇宙は無限に存在している。ありとあらゆる三次元宇宙は多世界宇宙のどこかに存在している。無限に存在するあらゆる組み合わせの宇宙を合わせて多世界宇宙と呼ぶ。
ダイクは、自分なら多世界宇宙を征服できるのではないかと思った。多世界議会をダイクの思うとおりに動かすことができた時、ダイクは自分個人の権限が宇宙の代表より大きいことを知った。ダイクは偶然にそのように生れ落ちた存在なのであって、ダイクは自分が多世界宇宙の征服者を目指すに足る存在として生まれたことを確認した。ダイクが考える限り、ダイクより強いものは多世界宇宙に存在しなかった。ダイクは多世界宇宙を征服し、多世界宇宙で最も幸せな存在になりたいと思った。
ダイクにはすでに生まれた時から一緒に育った美しき六人の妃がいたし、多世界宇宙で想像できる最も快適な宮殿に住んでいた。ダイクにあったのは、ちょっとした遊び心と野望だった。もし、多世界宇宙を自分がすべて一人で支配してしまえば、宇宙はどうなるのだろう。平気な顔をしてダイクと対等に話しかけてくる友人たちはどんな顔をして驚くのだろう。それを知りたいがために、ちょっとした悪戯心で、多世界宇宙の征服に乗り出したのだった。ダイクが多世界宇宙の征服に乗り出したということは、平行宇宙にいるダイクもまた多世界宇宙の征服に乗り出したということであった。
ダイクの母がいった。
「私はあなたが生まれる前にまだ腹の中にいるおまえをえぐり出し、ひねりつぶすことができる。宇宙一強いなどとは思わないことだ。誰でも、母より強いものなどおらぬ」
だが、ダイクは生まれる時、母親の腹をみずから引き裂き破いて、這い出て、自分の力で安全な子宮を求めて、移動し、安心できる義理の母を選んでその胎内で育ったのだった。母などに殺されるダイクではなかった。
ある戦場の闘神ゴンズヌイはいった。
「おれはダイクより強く、万物の主をも倒す力がある。ダイクなどという道化者がもっとも強い兵士だとほらを吹いたらしいが、おれは確実にダイクより強い」
そういう時、ダイクはその宇宙へ移動してビッグバンを起こしてみるのだった。ビッグバンを起こして宇宙を作り変えてもまだ死なない場合のみ、ダイクは本気で戦うことにしていた。その闘神ゴンズヌイはビッグバンに耐え、宇宙の外に身をかわし生きのびたが、ダイクの存在を反転する技法にかかって、非在と化し、存在を消されてしまった。
多世界宇宙の辺境に住む異界視の少年ターマは、自分の国に課税し富を徴税していくのが異界のダイクであることを見通すと、それを倒そうとしていった。
「異界の魔王ダイクも、無から生まれた被造物にすぎない。その創造神に頼めば、きっとこの国を救ってくれるだろう」
そして、少年ターマから異界の創造神ダイダイクへ祈りが捧げられ、ダイクの存在を消してしまった。ダイクはその存在を消された。しかし、多世界宇宙は広い。ダイクは多世界宇宙に数多く存在し、そのうちの何体かのダイクは、自由に因果を決めることのできる自律因果律を備えた存在であった。そのダイクたちは創造神に交渉術で勝ち、自分の身を守り、創造神ダイダイクの方の形を変えさせてしまうことに成功した。
生き残ったダイクは、平行宇宙に無数に存在する異界視の少年ターマをすべて倒すべく、力を及ぼせる宇宙すべてでビッグバンを起こした。ダイクは、平行宇宙それぞれでビッグバンを起こせる平行宇宙横つながり存在の共通意思のひとつにまとまった唯一人格であるがために、ダイクと似た者が存在しえるほとんどの宇宙で同時にビッグバンを起こせるのだった。ダイクのいないターマのいる宇宙には、ダイク自らが出向いてビッグバンを起こして帰っていった。創造神に頼むことしかできないターマと、自ら平行宇宙を移動しターマを殺していけるダイクとでは戦力に圧倒的な差があった。そして、ダイクは多世界宇宙から完全にターマを消し去った。そして、訪れたすべての宇宙の創造神を自分の自律因果律の支配下に置いた。
ダイクは平行宇宙を移動するうちに、自分より幸せなダイクを見つけた。ダイクは、そのダイクを殺し、取って代わった。ダイクは自分が最も幸せな平行宇宙に住んでいたかった。ダイクたちの間で、最も幸せな平行宇宙をめぐって争いが起きた。平行宇宙を移動できるようになると、人々は最も幸せな平行宇宙を目指して旅をする。ダイクも旅をして、そしてたどり着いたのだった。たった一人のダイクが、他のすべてのダイクを従えて君臨した。
何者かがやってきて、自分たちの宇宙の富を徴収するシステムをつくり出すのに気づいた少女ポーチは、相手の力を吸収し、増幅して放出することができるのだった。ポーチはいった。
「何か、とても大きな力がある。わたしの願いが届いて」
ポーチが力を使うと、多世界宇宙のすべての宇宙でビッグバンが起こった。ポーチはダイクになっていた。ポーチは多世界宇宙すべての富を凝集して試行錯誤して練り合わせて洗練させた宮殿に六人の妃とともにいた。妃ミュズスウがいった。
「ダイク、本当はあなたのことが好きだったの」
ポーチはミュズスウの導くがまま、ミュズスウを抱き、その体内に男根を挿入した。無限の宇宙を快楽神経とした快感がポーチとミュズスウを包みこんだ。ミュズスウは快楽の絶頂の中にあったが、ポーチは違和感を抱えていた。これが男の性交というものか。わたしは女なのに。
そして、自律因果律を備えたダイクはまだ生まれ故郷の宇宙に意識を維持して存在していた。そこにダイクの友人が来てみて、いった。
「よう、ダイク。しばらく、見ないうちに多世界宇宙の支配者になったんだってな。おれの家も九割が壊されてお前に持っていかれていたよ。ははははっ」
ダイクは迷った。自分ではない自分にそっくりなものが多世界宇宙を支配している。ひょっとして、おれは偽者のダイクで、ダイクの願いは叶ったのではないか。
だが、ダイクは考える。慎重になれ、ダイク。あの意識の消える一瞬前、確かに誰かがおれに触れた。あそこにいるのはおれではない誰かだ。時間を巻き戻して、もっとよかった時間に戻ろう。同じ行動をくり返せば、同じようにやられてしまう。今度は行動を変えなければ。
そして、ダイクは自分が負けたと思う宇宙の時間を巻き戻し、ポーチに会った。
「こんなちっぽけなやつにおれが負けたのか。この生まれついての王者のおれが」
「わたしは支配したんだよ、多世界宇宙を一度。その時の記憶は残ってる」
「多世界宇宙は広い。おれとおまえが同時に存在する宇宙では、おれが勝っていたんだぞ。これはどうしたことだ」
そして、ダイクの気まぐれは終わった。ポーチはやがて多世界宇宙を元に戻した。ダイクでは多世界宇宙を支配できないし、ダイクが多世界宇宙を支配しようとしなければポーチにも支配できないことがわかって終わった。




