113、アローンのお守り
アローン民族は、強国トランジスタに攻められて、民族絶滅の危機にあった。この窮地を脱するために、アローン民族は、勇敢なる戦士を募った。
アローン民族で最も誠実な戦士として選ばれたのは、トネトという若者だった。
「トネトや。おまえに、アローン民族のすべての命を貸し与えよう。これが、おまえの命をアローン民族の全員の命と対等に交換するアローンの守りだ。何度、負けてもかまわぬ。トネト、おまえはまず死ぬことがない。決して、挫けることなく、宿敵トランジスタを倒してくれ」
トネトはうやうやしくアローンのお守りを受けとった。アローンのお守りは、首にかける首飾りだった。ただの装飾品にすぎないが、アローンの戦士としての名誉として、とても大切に身につけることにした。
そして、仲間とともに、トンラジスタの王の首を狙い旅に出たトネトの前に、トランジスタの国境警備兵がいた。さっそく戦いになる。
トネトは剣を抜き、国境警備兵の腹を狙った。だが、惜しい。トネトの太刀はかわされ、逆にトネトの心臓に剣が突きたてられたのだった。国境警備兵は強かった。トネトの負けだ。トネトは仲間とともに、この時点で皆殺しになった。
気がつくと、トネトは生きていた。心臓の傷が治っている。いったい、どんな魔法がトネトを救ったのだろうか。
「何だ? 死んだやつが立ち上がったぞ」
トネトは動揺する国境警備兵の意表を突き、剣で斬り殺した。
「はあはあ、なぜ、おれは生き返ったんだ? アローンのお守りのおかげか」
小さく振動するアローンのお守りをトネトは、握り締めた。
「まだ、敵が追ってくる。油断はできない。おれ一人で、トランジスタ王国を滅ぼせというのか。まったく荷が思い」
トネトは疲れ果てて放心状態のまま、敵兵から逃げた。
トネトはアローン民族を攻撃しようとしているトランジスタ軍に一人で攻めこんだ。
「どこのアホだ。とっとと捨て置け」
「それが、あの剣士は殺しても生き返るのです」
トネトは何度も殺された。しかし、その度に、アローンのお守りで生き返った。いったい、アローンのお守りとは何なのだろう。
「この者はなぜ生き返るのです」
トランジスタの兵士が叫んだ。
そこに、一人の賢者あり。トネトが生き返るからくりを見事に解いて見せた。
「彼が身につけているアローンのお守りは、持ち主の命が途絶えた時、アローン民族の誰かの命を犠牲にして、命をもらいうけ、蘇生する道具なのです。彼が死んだ数だけ、アローン民族が死んでいるはずだ」
それを聞いて、トネトは激しい憂欝に悩まされた。おれの代わりにアローン民族が死んでいるだって? おれなんかの弱小兵のために、アローン民族の命を犠牲にしていいわけがない。おれは、なんて簡単なからくりに気づかなかったんだ。おれのようなダメ戦士のために、みんなが命を捨てていたなんて。
「もう、一度も負けられない」
トネトは、憤怒して起き上がった。
それから、さらに、何度も、トネトとトランジスタ軍の間で戦闘があった。トネトは何度も死んだし、その度に、アローン民族は死んでいった。
トネトは戦いながら、涙を流した。勝てない。勝てないんだよ、みんな。おれなんかのために命を預けた者は大馬鹿ものだ。
生と死をくり返し、三千回は死んだと思われるトネトは、ついに、トランジスタ軍司令官の首を切り落とした。
戦争が終わって、トランジスタの城下町でトネトが休憩していた。彼に通りすがりの少年が話しかけた。
「お兄さんは何をしているの? 何かを待っているかのようだね」
「おれのために犠牲になった大馬鹿野郎たちのために黙祷しているのさ」
「人が、死んだの?」
「ああ、大勢死んだ」
「お兄ちゃんは、生き残ったんだ?」
「いや、おれも死んだんだ。今の命は、他人の借り物だよ」
「ふうん。お兄さん、戦士なの?」
「そうだ。戦士だ」
「誰を倒すつもり?」
「トランジスタ王さ。さあ、これを聞いたきみも生かしてはおけないよ」
「ひい。テロリストだ」
「行け。おれのことは誰にも話すな」
少年は走って逃げていった。
トネトは、トランジスタ城への侵入をその日のうちに試みている。
トネトは、アローン民族の服従の使者という名目で、トランジスタ王に謁見した。その計略は見事に成功した。謁見の間で、トランジスタ王の十五メートルの距離まで近づけたのだ。
「それで、アローン民族が服従するというが、我が王国へ納税してもらうことは当然、承知してもらえるのだろうな」
「ふん、誰が、トランジスタなどに服従するか」
届け。あと、十五メートルで王を倒せる。トネトは近衛兵に殺された。そして、生き返る。アローン民族が全滅するまで、トネトの命は保障されている。
おれは一回たりとも死んではいけない。おれが死ぬことは、アローン民族の誰かが代わりに死んでいることを意味する。
生き返ったトネトは、鋭く接近し、トランジスタ王の首を切り落とした。
大革命だった。
故郷へ帰ったトネトは、地平線の果てまでつづくかと思われるアローン民族の墓地を見たのだった。
「おまえさんはよくやった。結果、勝ったではないか。もう、アローン民族など、絶滅するほどしか数少なく残っていないにしろ、わしらは勝利を歴史に刻むのだ。トネトよ、よくやってくれた」
「この大量の墓が、すべておれの身代わりに死んだ者なのか」
おお、おお、とトネトは泣き崩れた。
民族の興亡とはかくも凄惨なものであり。




