107、角頭攻めの女の子
「わたし、どうしたらいいかわからないの」
風音はそういった。なにがわからないというのだろうか。
「わたし、毎日、何をしたらいいかわからないの」
ああ、彼女はたぶん、軽い鬱病なんだ。
ぼくは彼女の気晴らしになるように、彼女に将棋を教えることにした。
「将棋なんてわからないし、興味ないよ」
「いいから。これで、将棋好きのおじさんを口説き落とすんだよ。美女のたしなみだよ。銀座の女は経済ニュースを読むらしいよ。仕事好きなサラリーマンと付き合うためさ。将棋も同じだよ」
「ええ、どうすればいいの」
「まず、角の頭の歩を突くんだ。たぶん、おじさんが自分の角道を開けるから、さっきの歩をさらに突くんだ。これでもうおじさんはメロメロさ」
ぼくは、風音と将棋を指し、全部、負けてあげた。彼女は、ちょっとは上機嫌だ。
「あげるよ、将棋板」
「ええ、いらないよ。女の子がもってたら、格好悪いんじゃないかな」
それで、風音は帰っていった。
それから、ぼくは別の女の子と付き合うようになり、風音とは疎遠だった。ぼくは、その間、風音が何をしていたのか、まるで知らなかった。
風音は、ただひたすら、家で眠っていたのだという。
女の子にふられてしまい、ぼくは再び、風音に会いにいった。
「あれから、おじさんと将棋を指したよ。おじさん、すごい喜んでた」
ぼくは満足だった。
「わたしの周りに十人くらいのおじさんが集まってた。わたし、十連敗したんだよ。全部、負けたの。でも、おじさんはすごく喜んでた。ねえ、これでよかったのかなあ」
「いいんだよ。きみはとびきりの美人だと思われたさ」
そのおじさんと、きみは何の関係もなかったんだよね。そんな心配をしてしまうのが、ぼくの悪い癖だった。嫉妬しているのだ。すべての男に。




