表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/131

103、千年戦争

 宇宙人が月を盗んでいった頃、おれは風音と一緒に近所の滝にいた。風音は、とても、感度の敏感な子で、世界の異変が起こるたびに苦悶の表情を見せた。

「ねえ、風音、これはいってはいけないことなのかもしれないけど、もう人類は滅亡するんじゃないかな」

 ぼくの重いひとことに対して、風音はやはり苦痛を受けた顔をして答えた。

「ゲババは、宇宙人に殺されるつもりなの? あのひよわな宇宙人と戦っても勝てない?」

 風音のことばに、ぼくは大きく尊厳を傷つけられて答えた。

「宇宙人にだって、負けはしないさ。ぼくをあまくみるなよ」

 そして、二人は黙って滝の音を聞いた。どどどどどど、と心地よい音がする。

 次に、声を出したのは、ぼくの方だった。

「もし、本当に宇宙人がいるのならね。存在するものに弱点のないものは存在しないよ」

「でも、月は持ち去られたのよ。あれから、毒素の入った雨が降るでしょ。あなた、それなのに、まだ宇宙人の存在を疑ってるの?」

「だって、見たことないもの」

「そう。そうなんだ」

 風音は、とても悲しい顔をしていた。ぼくは風音のために何かをしてあげたくて、しかたない気持ちになった。風音が愛おしい。

「ねえ、もし、わたしが実は宇宙人と戦ってる志願兵の一人で、いつ死ぬかもわからないのだとしたらどうする?」

 ぼくは、緊張して、呼吸ができなくなった。

「もし、わたしがもうすぐ、月を盗んだ宇宙人を追いかける遠征に出るのだとしたら、どうする?」

 嘘だろ。それとも、本当か? 風音が世界の異変を苦痛として感じるのは、志願兵として情報を集める手術を受けたからなのだろうか。

 ぼくに、そんなぼくに彼女に何をしてあげられるだろう。

 何も知らない男女の時間がむなしくすぎた。

 ぼくは、風音に、地球での思い出に、一晩、抱いてあげることにした。

「ねえ、これって恋愛?」

 風音は行為の最中に聞いてきたけれど、

「宇宙的な恋愛さ」

 などと、嘘をぼくはついた。

 空には月はない。傷だらけの彼女が帰ってきたのは、それから七百十七年も後のことだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ