102、風が荒らしを呼ぶ
世界が死んでいる。
何ひとつ価値のあるものを見出せずに、むなしく時がすぎていく。
きみはずいぶん昔に去ってしまった。
それは、おれが死んでいるからだ。おれは死んでいる。ゾンビだ。死んだまま動くゾンビだ。
「だからって、おれにはこれが限界だったんだよ」
本当の限界を知らないおれがいった。
まわりのせせらぎが嘲笑った。それはまるで、きみの声のようで。
「あなたのどこが限界を試したというの。研究もせず、鍛錬もせず、批評も受けず、何を頑張ったというの。あなたは死ぬの。死んで、塵になれ」
「待て。待ってくれ。おれだって、それなりに頑張ったんじゃないか。それを全部、見捨てるのかよ」
すると、せせらぎが答えていった。
「あなたは世界の何も見えていない。心が読めなければ、真理も知らぬ。宝の在り処も知らなければ、風も見えない」
「おれに、おれに、心を読ませてくれ。真理を教えてくれ。宝の在り処を教えてくれ。せめて、せめて、風を教えてくれ」
おれは必死に訴えた。
せせらぎは困ったようだった。それで、せせらぎはおれに風を教えてくれることになった。
「風を見よ」
「いうことはそれだけか」
そして、せせらぎは去った。それはまるできみが去った時のことのようだった。
おれは呆然として、道端に立ち尽くした。風を見るとは、どういうことだ。風とは何だ。
風とは何だろうか。風とは、きみだ。きみは空気か。いや、ちがう。空気の動きだ。風とは、空気の動きだ。
風は、空気の動きだろうか。いや、まだちがう。風は、活力をもった空気の動きだ。きみは活力をもった空気の動きだ。
そうだ。重要なのは、活力なのだ。風のもつ生命力、そして、リズム。
風は、生命力をもち、リズムを刻む空気の動きだ。
これで、正解にしよう。
風は、生命力をもち、リズムを刻む空気の動きだ。きみは、生命力をもち、リズムを刻んでいたんだ。きみは、風だったんだね。
風よ。今日も向かい風が吹いている。
そして、おれはただ、遠くへ旅に出た。
世界で、風が待っている。きみの行方が、わかるような気がした。




