表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/40

その4 対峙、そして

 視界と意識が元いた部屋に戻る。


「君はベータにおける僕の複製、いや臨模(りんも)と言った方がよいかな」


ゼーガミキトは言葉を失っている俺たちに構わず、言葉を続けた。


「ベータを創った時に、勿論僕の臨模も創られたんだけどね。君はもし僕が、人として生をなし子をなし死を遂げた場合の形だ。ああ、悲観しないでほしいけど、君は別に僕の複製って訳ではないから。あくまでも存在の原点が僕だっていうだけだよ」

「……勝手に決めんな。別に悲観なんざしてねえよ。お前みたいな自己中と一緒だって分って不快なのは事実だけどな」


 最初に会った時からあった不快感の正体がわかった。コイツの声がやけに耳障りに感じたのも。それもそのはず。自分と相対していればそうもなる。


「そう言うなよ。僕だって不快なんだからさ。まさかベータからアルファに転移してくる人間がいるなんて想定外だったしね。君がこの世界にいるのは、君を誰かが召喚したわけでも、トラックにはねられて死んで転生したわけでもない。世界を創った精霊王の一人である僕の臨模(りんも)だからだろう。どこからしら普通ではない特異点を持っている。並行世界の特異点が近づきすぎると時空に歪みが出て今回の様な転移が行われるようだ。ま、この辺りはもう少し詳しく調べてみたいね」


「おいおい。いいのか? 敵にそんなペラペラ喋って。今の話を大陸中に広めちゃうぜ?」


 湧き出る不快感に疑惑、それに僅かな恐怖心を押し隠すように軽口を叩いた。


「どうせ信じる人もいないし、実践することもできない。さて、随分長居したようだ。そろそろ僕がここに来た理由を話そうか」


 ヤツはそう言って、少し前のめりになり、両手を顎につける。


「さてここで問題だ。魔法が一番使われる場所何処かわかるかい?」

「……」

「戦場だよ、マリナリーゼ嬢。そう、君の嫌いな戦争こそが、最も魔法が使われ聖杯へプールさせられる出来事なんだ。ところが何処かの誰かが身代わり人形何て魔法を創ったものだから、最近は戦争が起きにくくなってね。マナのプールが著しく悪くなっていた」

「そのために君にちょっかいを掛けたり、トーナメントに出場して戦争のきっかけを作ろうとしていたんだけど……。ミキト、今日の戦いを見てその必要がなくなった」

「……どういう意味だ?」


 大量のマナに関連するといえば、俺の言霊だ。こいつなら、言葉の意味を理解して使う事も出来るだろう(男が恥ずかしい言葉を使っても何にも面白い事はないけどな)。

 だが次に発した言葉は、俺の想定していたものではなかった。


始まりの平地(エデン)の触媒が見つかったからだ。今まで聖杯にプールした膨大なマナ、それに伝説の触媒、これらで第六属性真光を放てば、始まりの平地(エデン)への扉を開くことができる。だから戦争を誘発させるなんて余計な事をする必要もなくなったんだよ。これも第六属性を見つけてくれた君のお蔭だ、ミキト」

始まりの平地(エデン)の触媒……が見つかっただと?」

「何だ。もしかして分からずに使っていたのか? ほら、そこにあるのが触媒だよ」

 そういって指さしたのは……ベッドに座る少女だった。

「エステヴァン=フォン=マリナリーゼ。彼女こそが失われし伝説の触媒そのものだ」




   ******




「わたくしが……触媒……?」


 突然の事実を突き付けられ、驚愕の表情を隠しきれないマリナ。それでも冷静さを保とうと、小さく拳をつくり自分の胸に当てる。


「そう。僕も信じられなかったよ。第六属性を使うために必要な始まりの平地(エデン)の触媒が、まさか人間、いや精霊堕ちした存在だったとはね」


 確かに何度か第六属性を使ったがその時にマリナが必ずいた。それは確かなのだが。


「その理屈はおかしい。過去に精霊堕ちしたという人間は他にもいたと聞いた。精霊堕ちした人間が触媒になるなら、もっと例が出ているはずだ」


 俺はゼーガミキトの推論に反論した。


「その通り。だから他の例にはなかった条件が組み合わさったと考えている。そう、彼女が持っている未来視の瞳(フューチャーサイト)。それがもう一つの条件だったのだよ。元々未来視の瞳(フューチャーサイト)はエデンに住む神々の能力だったと言われている。彼女の祖先がいつ手に入れたかは知る由もないが……ともかく条件を満たした彼女の血、今ではその全てが高密度の触媒になっているのだ」


 マリナの血……。そう言われて俺は第六属性を使った場面を思い出していた。

 森で邂逅したとき、彼女は瓦礫で怪我をしていた。

 先日の戦いでは、マリナの血が染みた布があった。

 彼女の血が関与していた時だけ、確かに第六属性である真光が生み出されていた。

 ゼーガミキトはふっと軽く笑うと、人差し指を立てる。


「第六属性真光、か。二千年前に見つかっていれば、世界を創るなどとという面倒なこともしなくて済んだのになぁ」


 その笑いは決して人の好感度を上げるような笑いではなかったが、だが何処かで無邪気にも感じられるものだった。


「さて、これで僕が話せることは終わった。あとは僕がここへ来た目的を達成するだけだ」


 ゼーガミキトは椅子から立つと、マリナに向けて手を差し伸べる。


「さあマリナリーゼ嬢。僕と一緒に来て新しい世界、始まりの平地(エデン)へ行こうじゃないか」


 それを見たマリナは素早くベッドから離れ、入り口近くに立っていた俺の脇に走り寄る。


「ゼーガミキト、ご高説はありがたく賜ったがな。マリナはお前についていく気はさらさらないようだぜ。あと女の子へのアピールはもっと上手くやるもんだ。最も俺のコピーだからそんな上手い手法が使える訳ないだろうがな」


 灰色のローブを纏ったヤツは意にも解せず、俺たちの方へ歩み寄ろうとする。


「おっと、それ以上近づくな! 真光で吹き飛ばされたくなかったらな」


 だが奴が歩みを止めることはない。どうやらおとなしく引き下がりそうにもない。明日の対決を待たずここで決着をつけるしかないようだ!


「マリナ!」「はい!」


 先手必勝。俺はショートカットした詠唱をマリナへ送る。第六属性を用いた発火する炎(ピットファイア)を全力で放つ。

 この距離だ。回避することはできない。仮に防がれたとしても、初級魔法であれば第二派、第三派を連続で放てばいい。先日の戦いでそれを学んでいた。


 だが――――俺が第二派を撃つことはなかった。


 正確には初撃に放つはずだった発火する炎(ピットファイア)すら、魔法として形を成していなかった。

 マリナがマナを生成できなかったからだ。マリナが動揺する。


「……! な、なんで」

「皆自然に使っているから忘れがちだけど、マナの生成は『精霊自体』が行っているのではない。言霊を経由して僕たち『精霊王』が行っているんだ。有形精霊や無形精霊はあくまでもアンテナの一つに過ぎないよ」


 話しながら進む奴の歩み寄る速度は変わらない。


「そして精霊堕ちした人間は、すべからく第五精霊王である僕の眷属だ。つまり僕が許可を出さない限り、君はマナを生成できない。眷属なんて他の精霊王から渋々引き受けた役目だったけど、ああ、まさかこんな所で役に立つとはね」


 にじり寄ってくるゼーガミキトに対して、俺はマリナを後ろに隠すことしかできない。


「いくら強大な第六属性とはいえ、マナがなければ魔法は形にすることはできない。僕は別に無駄な殺生をするつもりでここに来た訳じゃないからね」

「……マリナをどうするつもりだ」

「触媒として体内にある全ての血液をマナにしてもらう。勿論、彼女は生きてはいられないだろうけど……僕たち精霊王が始まりの平地(エデン)に行くためだ。そしてきっとそこにはもっと素晴らしい知識がある筈だよ、そうすればアルファやベータももっと豊かになるだろう」

「そりゃつまりマリナを生贄にするってことか?」

「ま、端的に言えばそうなる」

「はっ! 何が無駄な殺生をするつもりはない、だ! 犠牲だす気満々じゃねえか」

「彼女は犠牲ではなく知識発達の為の必要な道具だ。まあ君と勧善懲悪の議論を交わすつもりはないが……ああ、そうだ。君をベータに返してあげよう。こちらに来た原理はもう少し調べないと分からないが、元々臨模として送り出したのは僕だからね。送るだけなら容易い」

「何を――――」


 勝手なこと言ってやがる、と言おうと俺の口が止まった。

 俺の胸の辺りを、何か奇妙な感覚が襲ったからだ。


 視線を下に逸らすと、ゼーガミキトの腕が俺の胸部に突き刺さっていた。

 痛みはない。だが代わりに心臓を掴まれたような気色悪さを感じ――――何かを取られたと感じた。


「君のマナの根源は僕が預かっておくよ。あっちへ戻れば魔法何て必要ないだろうからね」


 奴が腕を抜くと、俺の視界はぐらりと揺らいだ。立っていられないほどの不快感。


「僕たちは扉をあけて始まりの始まりの平地(エデン)に行くけど、別に心配しなくていい。どちらの世界が崩壊するなんてことはないからね。君はただ平和を甘受して暮らせばいい」


 ……そんなことは、別に……のぞんで、など……。薄れゆく意識を必死で保とうとするものの、もはや何も視えない。聴覚だけが僅かに残って、不快な声を捉えている。


「さらばだ、僕の臨模(りんも)

「ミキト様!」


 不快な声を打ち消す様な、凛と澄んだ声が俺を呼んだ。


「待て! 俺はまだっ……」


 その声に向かって手のを伸ばし目を無理やり開ける。と同時に、何時か見た時と同じ眩しい光が広がった。




 眩しさが収まった時、俺がいたのはベッドの上だった。

 寝転がって手を伸ばしていた、その先にあったのは……見慣れた天上。

 それは宿舎でも大会の宿泊施設でもない。



 東京都大田区にある、見慣れた自室の天井だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ