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セイラ・サバーの事件簿  作者: あび


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第七章 誓いの形

 ガルドナを出て四人で歩いた。

 四人、というのはまだ慣れなかった。セイラ、リオン、ヴィサラ、セイヴァン。それぞれが全く違う事情を抱えていて、全員が黒幕に何らかの形で関わっている。

 ただ目的だけは同じだった。黒幕を見つけること。それだけが今の共通点だった。


 最初の欠片はその日の夜に来た。

 小さな村の宿の棚から古い本を手に取った。表紙に触れた瞬間、宝石が震えた。

 開いた。最初の一行に触れた瞬間、映像が流れ込んできた。

 老人が小さな机に向かっている。ランプの光の中で何かを書いている。じいさんだった。


「力は怖い。自分の力が一番怖い」

「何かを守ろうとして、何かを壊してしまう。それが力というものだ」

「だから私は封じた。怖かったからではない」

「誰かに、私の力で傷ついてほしくなかったから」


 映像が消えた。私は本を閉じた。手が少し震えていた。

 怖かったからではない。誰かに傷ついてほしくなかったから。

 昨日の女の子の顔が浮かんだ。青い光がきれいだったと言った女の子の顔が。


 翌朝、歩きながらセイヴァンの隣に並んだ。

「封印の詳細を聞かせてもらえますか。じいさんから直接聞いたことがあれば」

「一度だけ」とセイヴァンは言った。「ケイ・サヴァ様が隠居された直後に。封印は呪いではないとおっしゃっていた。自分で選んだ誓いだと。強さの証明のために力を使うのをやめると決めた、と」

「強さの証明のために」と私は繰り返した。

「国同士の争いを収める時に、ケイ・サヴァ様は大きな力を使った。しかし力で収めたということは、より大きな力が現れれば再び崩れるということでもある」

「力で作った平和は力でしか維持できない」

「その通りです。ケイ・サヴァ様はそれが嫌だったとおっしゃっていた。力ではなく、人と人の理解で作られた平和でなければ意味がないと。だから力を封じた。知恵と言葉だけで生きると決めた」


「黒幕はなぜ封印を恐れていたんですか」

「それはヴィサラの方が詳しいかもしれない」


 昼の休憩の時にヴィサラの隣に座った。

「黒幕が封印を恐れていた理由を教えてもらえますか」

「封印された魔法というのは、ただ力を失うことじゃないらしい」とヴィサラは言った。「封印された力は消えるんじゃなくて、別の形に変わるらしい。使わないことで、その力が持ち主の中で別のものに育っていく」

「別のもの?何に育つの?」

「封印した者の力は、やがて周りの人間に伝わっていく、と。直接伝えるのではなく、その人の生き方を通して。言葉を通して。存在を通して」

「つまり封印した力は消えるんじゃなくて、人に渡っていく」

「そう聞いた。だから黒幕はケイ・サヴァを恐れた。封印した力がどれだけ広がっているか分からないから。誰に渡っているか分からないから」

 私は懐の宝石を握った。温かかった。

 じいさんの力が私に渡っている。宝石を通して。言葉を通して。生き方を通して。

 私の中にあるのは力ではなく、じいさんの誓いかもしれない。


 その夜、私は一人で外に出た。星が多い夜だった。じいさんが好きだった夜の空だった。

 じいさんがそこにいるだけで、私の中に何かが生まれていた。怒らない心。諦めない目。静かな優しさ。

 それがじいさんの本当の力だったのかもしれない。封印した後も、ずっと使い続けていた力が。


 翌朝、リオンが私に声をかけた。

「父から手紙が来た。俺の家系の宝石はもともとこの地方に古くからある宝石職人の家系が作ったものらしい。その宝石職人の家系は百年前に途絶えた。最後の職人が宝石をいくつか残して消えたと」

「残された宝石がいくつかの家に伝わった。俺の家系にも。ウォルド家にも。そして領主の家にも」

「領主が俺の父の宝石を狙うのは偶然じゃないかもしれない。その宝石に何かがある」

 私は懐の宝石を握った。じいさんからもらった宝石。同じ職人が作ったものかもしれない。

 全部が繋がっている気がした。まだ形にならない。しかしもう少しで見えてくる気がした。


 その日の夕方、四人で街道沿いの古い石壁の前を通った。

 石壁に何かが刻まれていた。私は立ち止まった。手をかざした。宝石が震えた。

 また流れ込んできた。今度は映像ではなく言葉だった。


「力は奪うものではない。生まれるものだ」

「人が誰かのために動く時、人が誰かを想う時、そこに力が生まれる」

「その力は誰にも奪えない。封じることもできない。なぜならそれは力の形をしていないから」

「お前が誰かのために動く時、その瞬間にもう力は生まれている」

「それだけを覚えていてくれ」


 言葉が消えた。

 私は石壁の前に立ったまま動けなかった。

 力は奪うものではない。生まれるものだ。

 じいさんが封印した理由が、ようやく全部分かった気がした。

 力を封じたのは弱くなるためではなかった。力に頼ることをやめて、別の何かで生きると決めたのだ。そしてその別の何かこそが、本当の力だった。


 焚き火を囲んで四人で話した。

「黒幕は宝石を集めているんじゃないか」とリオンが言った。「宝石に何かの力があって、それを集めることに意味がある。黒幕にとって」

「組織の中で聞いたことがある」とヴィサラが言った。「その宝石たちは一つに集めると何かが起きるらしい。ただ何が起きるかは誰も知らなかった。黒幕だけが知っていると言われていた」

「セイヴァンさん。黒幕が宝石を集めているという話を聞いたことはありますか」

「直接は聞いていない。ただ領主が宝石に執着していたのは知っている。その噂を聞いた時に、私は一人の人間の顔を思い浮かべた」

「誰ですか」

「まだ確信がない」とセイヴァンは言った。「確信が持てるまでは言えない」

 私は黙った。今まで出てきた人間の中にいるのかもしれない。

 焚き火が爆ぜた。夜風が吹いた。黒幕の影が、少しだけ濃くなった気がした。


── 第七章 終 ──


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