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ねぇ、マルネス。優しさって.....何ですか?  作者: こころ ゆい
マルネス視点

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5

*****


「トーラ、これ。またはみ出てる。……やり直し」

「……ぶぅ。……わかったわ、すぐに修正する」

「ああ」


 それから、僕たちの関係は少し変わった。

 僕は前にも増して、彼女にハッキリ意見を伝えるようになった。

 彼女は……以前は何も言わず受け止めるだけだったのに、今は不満を露わにする。信頼する人間に、冗談混じりに愚痴や本音をこぼすように。でも、すぐに真っ直ぐ受け止めて、仕事に邁進する姿勢は変わらなかった。


「……トーラ」

「ん?なに、マルネス」


 早速、仕事に取り掛かる真面目な部下に問いかけた。

 

「……縫製もやってみるか」

「え……」


 まるまると大きく開いた目を見て、にっと口角が上がる。


「い、いいの……?」


 声が震えていた。

 

「……君なら、任せられる」


 心の底から湧き出た、素直な気持ちだった。

 トーラの目に涙の膜が張るのがわかった。

 わなわなと動いた唇が、元気な声で紡いだ言葉は想像通り。

 

「っ、はっ、はい!やります!やらせて下さい!……私、頑張りますね」

「ああ。……期待してる」


 目尻に溜まった涙がぽろんとひとつ、彼女の紅潮した頬を伝った。その煌めきに、自然と目を細める。


 僕は初めて、女性を美しいと思ったーー。


*****


「……トーラ。違う、そうじゃない。ここは、こうするんだ」

「うっ……ごめんなさい」

「この服はもうダメだ。今日は終わりにするか?」

「いえ!やらせて下さい!」

「……そうか。ではもう一度、やり直し」

「はい!」


 トーラは苦戦した。

 何度も布をダメにして、何度も僕はやり直しを指示した。その度に落ち込んで……でも、何度でも食らいついてきた。


「……できました」

「貸してみろ」

「はい……」


 トーラは緊張した面持ちで、僕の布をチェックする姿を見ていた。


「……よく頑張ったな」

「……ほ、本当ですか?」

「ああ。裁断も、縫製も、文句なし。……完璧だ」

「…………っ、マルネス」

「これから、君には裁断と合わせて縫製までお願いするとしよう。……行く行くは、デザインも任せたいと思っている」

「………………」

「……トーラ?」

「好き……」


 突然黙り込んだ彼女を案じて、名前を呼んだ。

 誰も居ない、窓の外には夜の景色が広がる……二人きりの室内。

 シンとした空気に、トーラの切なげな声がこだました。


「トーラ……」

「……好きなの、マルネス。あなたを……愛してる」


 思わず出た2度目の自分の名に、彼女はわずかに瞳を潤ませて、絞り出すみたいに言葉を重ねた。


 その言葉に、声に、表情に……彼女の、すべてに。


 僕の心は、初めてーー

 歓喜の高鳴りを覚えた。


「…………僕もだ」

「……今……なんて言ったの……?」


 僕の答えに、トーラが息を呑んだ気配がした。

 

「僕もだ、と言ったんだ」


 再度聞こえた言葉に、驚きを隠さないトーラが、愛らしくて、愛おしくて。腕を伸ばしたーー。


「好きだよ、トーラ。……君を愛してる」


 抱きしめた小さな身体に馴染ませるように。

 優しく……言葉を吹き込んだ。


「……めて」

「え?」


 ドン!!!


 その時、強い力で胸をひと突きされて、理解が追いつかなかった。そこには、今まで見たことのない色を映した、彼女の揺れる瞳があった。


「……トーラ」

「やめて……っ!私を呼ばないで……っ」


 耳を押さえて、キッと僕を睨むと、踵を返して走り出す。


「っ、な、何だよ!トーラ……っ、待て!待つんだ……っ!」


 わけもわからず、僕は追いかけた。

 そうしなければならないと思った。


 このままーー


 このまま彼女を見失ったら……もう二度と、彼女は僕の前に現れてはくれない。


 なぜか、そんな気がしたーー。


*****

 

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