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ねぇ、マルネス。優しさって.....何ですか?  作者: こころ ゆい
マルネス視点

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4

*****

 

「好きです……私と、お付き合いして下さい!」

「断る」

「っ、ど、どうしてですか……」

「僕は君がタイプではないし、好きではない。今後も好きになることはありえない」

「なっ……!そんな言い方、ひ、ひどい!もっと他にも伝え方があるのにっ!なんて冷たい人なのっ!?」


 ばちん!!


 わぁっと泣きながら走り去る令嬢の背を、冷めた目で見つめた。


 叩かれた頬はジンジン痛んで熱を持ったが、心は凪いでいた。

 女性を泣かせても、「冷たい」と罵られても、力一杯憎しみをぶつけられても。それでも揺れ動かない僕の心は、やはり氷のようなのだ。


 そう思った時、「大丈夫ですか……?」と控えめな声が耳に届いた。


「トーラ……」

「これ、使って下さい……早く冷やさないと、腫れてしまいます」


 言って、差し出されていたのは、水に濡らしたハンカチだった。


「……いや、大丈夫だ」

「でも……っ」

「本当に、大丈夫だから。……腫れた方がいいんだ」


 ーー戒めになるから。

 最後の言葉は言わなかった。

 

「え?」


 聞き直されて、返事に詰まる。


「なんでもない、忘れてくれ」

「…………」

「とにかく、これはいいから。……じゃ」

「待って下さい!!」


 立ち去ろうとしたが、背を向けた瞬間、細く、頼りない指にきゅっと手を握られて、引き止められた。


「やっぱり、ダメです。……きちんと冷やして下さい」

「…………」


 トーラは心配そうに瞳を揺らして、懇願していた。

 僕は振り払うことも、返事をすることもできず、ただ時間だけが過ぎていった。


「…………君は」

「え?」

「君は、どうして……」


 とめようと思った。でも、口からこぼれ出した言葉を、もう呑み込むことができなかった。


「どうして、僕を嫌わないんだ……?」

「嫌う?……マルネスを?」

「ああ。こんな冷たい人間、嫌になるだろう? 僕のことを知れば、君の友人のユーリや……さっきの令嬢みたいに、離れていくのが普通だ」

「…………そう、なのですか?」

「そりゃ、そうだよ。僕は女性が喜ぶ甘い言葉も囁かず、笑顔も向けない。仕事も、女性に対してでも容赦がないし……あんなふうに告白されても、うまく返すこともできない。冷たい、欠陥人間だ。なのに……」

「………………」

「なのに君は、どうして」


 ーー僕から離れていかないんだ……?


「それどころか、どれだけ僕が冷えた言葉を放とうと、仕事で厳しくしようと、君は決まって……」


 ーーありがとう、と笑う。


「どうして。……どうして君は、突き放しても近づいてくるんだ。どうして……どんどん、僕の中に入りこんでくるんだ」


 なぜか途中から喉の奥が引き攣れて、うまく声が出なくなった。

 それでもなんとか最後まで言い切って顔を上げると、美しい湖の水面みたいに澄んだ水色の瞳とかち合った。


「……冷たいって、なんなんでしょうか」

「…………?」

「ねぇ、マルネス。優しさって……何ですか?」

「え……、そ、それは……」


 質問に質問で返されると思わず戸惑っていると、ふっとトーラの顔が綻んだ。


「私には……あなたは冷たい人だと思えません」

「な、に……?」

「少なくとも、私には……私にとっては、あなたはとても優しい」

「この僕が……?」


 信じられなくて、口をあんぐり開けてしまったら、くすくすと弾んだ、耳心地のいい笑い声が響いた。


「好きよ、あなたのことが。とっても」


 挑発と慈愛を半々に含んだ、告白。

 いつもの告白とは、少し違った雰囲気は感じ取れたがーー


 僕ができる返事は……


「……断る」


 結局、それしかなかった。

 案の定、再び響いたくすくすという笑い声。


 嬉しそうな、トーラの微笑み。


「ええ。知ってる。……そんな所が、大好きなんですもの」

「……君、やっぱり変わってる」

「そう?」

「ああ」

「そう言うあなたも。相当な変わり者だと、自覚した方がいいわ」


 ふふん、と鼻高々に言われて、ついに僕は堪えきれなくなって笑ってしまった。


「……く、くくくく」

 

 人生で初めて、こんなに無邪気に笑ったかもしれない。……もしかしたら僕が覚えていないだけで、ずっと幼い頃にはあったのかもしれないけれど。


 トーラは、脇腹を抱えて静かに笑い転げる僕に、驚いた顔をして。次の瞬間には本当に優しい、愛おしそうな目を、向けていたーー。


*****

 

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