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お姫様、登場!

 とある日の寮の廊下。私は久しぶりにある男に出会った。


「よう。我が妹よ。元気にしているか?」


「……えぇ。『お兄様』おかげ様で、すこぶる元気よ」


「なんだ、『お姫様ごっこ』はやめちまったのかぁ? ハハッ、まあその方がお前らしいけどな」


 この我の強い男……口うるさい感じの男は私の兄、クロウ・アーミット。初めて会った時は図々しい男だと思ったのだけど、『妹』相手に図々しいのは当たり前のことであって。


 私の中では、クロウという一人の男と、兄という感覚が奇妙に入り乱れている。こんな風に書くと、まるで実の兄相手に『禁断の恋』をしているかのようだけど、断じて違うわ。そこだけは安心して頂戴。


 単に私がカレンであり、鈴花である為の弊害というか。そんなとこ。


「聞いたぞ。王子様に熱烈アタック仕掛けられているんだってな。ちょっとした噂になってるぞ。やるじゃねぇか!」


「……誰があんなクソ王子と」


「ん? なんか言ったか?」


「別に。そっちこそ、どうなのです? 『お姫様』とは」


「あぁ。思った以上にガードが固くてなぁ。そう簡単には行かねえよ。それに、『親衛隊』とか名乗る連中が常にべったり引っ付いていてなぁ……」


 親衛隊……いかにもな連中だこと。ロイヤルガードとは違うのでしょうね。日本で言うなら、『ファンクラブ』のようなものかしら?


 こっちも恐らくそういったのはあるんでしょうけど……私といる時は、一人なことが多いわね、あいつ。あいつなりの配慮なのかしら? はっ、だからって好きにはならないわよ。あんな奴……あんな……。


「おーい、どうした? 考え事か?」


「へっ? あ、ああ……いえ、別に。そうですか。それは大変そうですね。というか、お兄様? 貴方、お姫様のこと、好きなのですか?」


「……また、いきなりだなぁ。おい。んー、そうだなぁ。好きか嫌いかなら、そりゃ好きの部類に入るだろ。一国のお姫様だぜ? 嫌いな奴はいねーよ」


「……そういうことではなくて。恋愛感情があるのかどうかです」


「あー……まあ、どうかな。あるっちゃあるし、ないっちゃない」


「……なんですか、それは」


「そんなのよくわかんねーよ。単純に好きなら付き合えばいいんじゃねえのか?」


「……」


 そんな、簡単に。出来たら……苦労しませんわよ。


「なんだぁ、俺に恋愛の相談か? 無理無理。柄じゃねえよ。思ったら行動するだけのこった。それでいいんじゃねえの」


 貴方のような人間だったら、苦労はしなかったでしょうね。私はそんな簡単に割りきれないわよ。好きとか嫌いとか、そういうのを飛び越えたどうしょうもない気持ち……それが『恋』なのだと思っていたのだけど。違うのかしら? そんな気持ちにはまだなったことがないわね。


 そんなことを兄と話していると、何やら騒がしい声が聞こえて来た。


「あら、クロウ。何をしているの? 他の女の子とお話だなんて、いい身分ね」


「あぁ、こいつは俺の妹のカレンだ。姫様も知っているだろ?」


「……あぁ、貴方があの。お兄様が随分と入れ込んでいるとか。ふむ……とても、お兄様が入れ込むほどには見えませんが……どこがよろしいのかしら?」


「おいおい、実の兄が目の前にいるのに、それは酷くねーか? お姫様よー」


「知りませんわ。そんなこと。私は思ったことを口にするだけです」


「何か、文句がお有りなのかしら?」


 そう、お姫様……シャルロット・シュヴァルツが聞いてくる。周りからはシャロ様と呼ばれているらしい。


「別に……ありませんけど」


「だそうですわ。クロウ、行きますわよ。このような場所で貴重な時間を無駄にするわけには行きませんから」


「へいへい、お姫様」


「貴方に命じたルージュは取り寄せてくれたのかしら?」


「あぁ、あれは……」


 そういって、クロウとシャロは消えていった。残されたのは私だけ。


「……なんだかねぇ。まあ、案外、波長があっているのかしら? あの二人」


 口調は生前の私にちょっと似ていたわね……いや、まあ。上流階級の人間は大体ああいう言葉遣いになるか。知らないけど。


 まあ、いいや。部屋に帰ろう。そう思った時だった。またもや、声をかけられた。


 今度は誰よ……と、振り返ると。斉藤だった。ちょっと、ドキっとした。不意打ちだった。くそ、こんなので。ドキドキしちゃうなんて……私って、意外と乙女? なんちゃって……。こ、こほん。息を整えないと。


「お嬢様、少しよろしいでしょうか?」


「何よ、斉藤」


 しれっとした顔で私は言った。内心バクバクなのは、言うまでもない。斉藤相手に緊張するなんて……不覚。


「はい。実は……申しにくいことではあるのですが」


「嫌ぁな予感がする……」


 ドキドキしていた気持ちがさっと冷めた瞬間だった。


「えぇ、その……『生徒会』に興味はありませんか?」


「はい?」


 生徒会って……あの、生徒会よねぇ。役員の。なんで、私が。あれってたしか、貴族連中以外お断りの執行部じゃないっけ……。


「そうなのですが……王子が貴方を『推薦』しまして」


「はぁ!?」


 思わず、声をあげてしまった。あんのクソ王子……またも、余計なことを……! そうまでして、私に会いたいか! って、それは言い過ぎ……? いやいや、それ以外に私を誘う理由なんてないでしょ。


「それで、その。いかがでしょうか」


「断ったら、どーなんの」


「はぁ……今後の寮生活における外出権限や、買い物権限など……様々な障害が出るかと」


「……」


 どっちに転んでも絶望しかなかった。女の子から、『外出』と『買い物』とったら何が残んのよ……ふざけるなぁあああああああああ! お菓子とファッションだけが私の唯一の楽しみなのよ! ……や、それはそれでどうかと思うけど。


 あのクソ王子と天秤にかけてみる……うん、無理。我慢できない。即決だった。


 がくっと、私は項垂れる。今から始まる箱庭の中の箱庭生活……考えただけでも、おぞましい。


「お、お嬢様!?」


 こうして、私は『生徒会』の一員になってしまったのであった。


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