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性別不明のギルドマスター

若干、通常より長めです。

(02/01,誤字・脱字を修正。後書きの説明も一文増えてます。02/02,後書きの説明を「登場人物紹介」に移動、それに伴い削除。)

 

 お姉さんは部屋に入ってきて早々に、私を抱え上げて座った。

 咄嗟の行動に何も身構える事が出来ず、すっぽりと意外にも逞しい腕に包まれる。

 その膝の上に乗る形になった私と、ウィルさんは驚愕に動作を停止し、お姉さんだけ嬉しそうに頬擦りをしだす。

 

「あ、あの……どうしたんですか?」

 

 漸く混乱した頭を鎮めて、やっと一言だけではあるが相手の一連の行為を尋ねた。

 慈愛の佇まいで私の頭を撫でるお姉さんは、他に人が居れば宛ら女神に見えた事だろう。

 私には、悪戯好きのロキが思い浮かんだ程度だが。

 

「そんなに怯えなくても良いじゃない。うら若き乙女が堅物と二人っきりだと居心地悪かったでしょう? だから、急いで戻ってきたのよ。あのお馬鹿達に事情なんて言ったって面倒事しか起こりそうにないし、それに対してエルセスは小言ばっかだし……疲れたわ。ねぇ、何でも良いから慰めて?」

 

 棘のある物言いと甘えを含んだ言葉に、お姉さんが分からなくなる。

 頬に手を添えられて目線を合わせると、何だか、お姉さんの自己申告通りに疲れた顔をしていたので、さっきしてくれたように頭を撫でた。

 私の行動に瞬きの間だけ瞠目したけれど、柔らかい表情に戻って目を閉じた事で了承だと受け取り繰り返す。

 毛先までさらさらの髪が触れる度に、少しだけこの状況を楽しむ余裕が出てきた。

 

 お風呂のお礼を込めて撫でていると、後ろから空咳が聞こえ、はっとして振り返る。

 と、ウィルさんは上の方――お姉さんを睨んでいた。

 

「シス様。先程から言動が過ぎます」

「良いじゃない。私にも休息が必要って言ったのはウィルでしょう」

 

 諌めなど何処吹く風のお姉さんに、ウィルさんの眉間の皺が一層深まる。

 それでも聞く気がないお姉さんに折れたのか、対面の左の席に座り溜息を吐きだした。

 

「で、話とは何です? シズクがアレと一緒に居た事ですか?」

「そうよ。まだ私も聞いてないから、これから聞く所」

 

 お姉さんの言葉が意外だったのか、ウィルさんはまたも停止した。

 予想の許容量を超えると止まってしまう人なんだな。

 そう納得した私に、顎で旋毛を抑え付けてお姉さんが拗ねた声を出す。

 

「何でウィルが先にこの子の名前を知ってるの? ハッ、まさか、堅物の癖に口説――」

「私が名乗ったんです! シズク・フルカワです!! よろしくお姉さん!!!」

 

 最後の言葉に気付いてしまったのか、見る見る不機嫌になるウィルさんを見ていられずお姉さんに幼稚園児のように元気よく名前を告げた。

 言い終えてから、羞恥で死ねるかと思ったが。

 

「ふふっ、私はダリア・ブレインドよ。よろしくシズク」

 

 一気に機嫌が直ったのか、お姉さんが満面の笑みで名乗る。

 略称だろう、『シス』の部分がないのは突っ込んで良いんだろうか?

 

「あ、シスと呼んで頂戴。理由はまた後日、もっと仲良くなれたらね」

「はあ、分かりました」

 

 制限付きですか、さいですか。

 投げやりに返事をしてウィルさんに向き直る。

 本題に戻るけれど、彼等が聞きたい情報は多分ないだろう。

 

「えーっと、少し前までしか覚えてないんですが……」

 

 これまでの異世界云々以外の話を、ディスさんとの出会いから全部伝える事にした。

 勿論ゲームなどとは口にせず、かなり詮索されないように『記憶喪失』の設定を付けて。

 

 『気が付くと森に居た私は、人が居る路地に出た所でディスさんに出会って仲良くなり同行させて貰った。』

 

 という風に改変も加えてだが。

 

 相手が誰か知りませんでしたアピールです。

 実際に知らないし、知った所で何か得があるような立場じゃないのは確かだ。

 

 沈黙が痛くて、私は使ったコップを引き寄せ、少量残していた水を飲み干す。

 テーブルに置くと、シスさんはさっきよりも腕に力を込めて抱き寄せて来て、ウィルさんは硬い表情のまま目を伏せた。

 

 そ、そんなに深刻な話でも無かったはず。

 想像以上の反応に、再び頭を撫でられても落ち着かなかった。

 

 しかし、背中に当たる腹筋に意識を戻され、もしかしたら、がつい口を突いて出てしまう。

 

「あっ、えっと、ですね。その、失礼ですが……シスさんって、お姉さん、じゃなくて実は、その」

 

 お兄さん、だったり?

 何て、笑って誤魔化して言ってみたんだけど大丈夫か私。

 これで違うと言われれば、シスさんを傷付ける事になるし、何より後が怖い。

 

 暫しの沈黙の後、緊張は一気に変な方向へと転換して目の前に現れた。

 

「……あら、これも初めてだわ。シズクって、勘も良いのかしら!」

 

 いえ、激鈍だと親友に非難されておりますよ。

 と、言うのを堪えてお姉さん、じゃなくてお兄さんは感嘆しているので苦笑するだけに止めた。

 興味深そうに観察する姿が、ディスさんと重なって背中に冷や汗が流れる。

 

 シスさんが私の黒い目に注目したのか首を傾げ、凝視しつつも何か考えている。

 それに合わせて、髪の毛で覆われていた長い耳が見えたその時、ゲームのある場面が鮮明に蘇った。

 

 そう、()()()()()()

 

 この人、いやこのハーフエルフは、この国一帯の総合ギルドを束ねる『ギルドマスター』。

 ギルドとか、RPG乙女ゲーなのに「そんな要素は要らない。」と恋する乙女達にバッサリ切られた訳だけれど、それなりに楽しんでいた私からすれば、ランクアップに必修であるキークエスト依頼をしてくれる有難い存在だ。

 そんな彼を何故、今になって思い出したのかというと、モブでもRPGのルート上に依頼込みのサブシナリオを多数持っている事があり、立ち絵と名前の両方がある者は多かった為、記憶の片隅の片隅に埋もれていた。

 

 取り敢えずの出会いを短く纏めると、主人公が初めてギルドに登録しに行った際に起こるイベントで、責任者で出てくるのではなく旅人のような出で立ちで気軽に説明してくれる良きお兄さんとして登場するのが、現在は『ダリア』と名乗っている、このダルシェスさんだ。ダルシェスだから『シス』なんだろうと、今解った。

 途中からキークエストで正体がバレて、渋々主人公の前にオネェ口調と正装で出てきた時にはココアを吹いた。眼前の本人と同じで美女度が上がってバッチリ似合ってたけどね。

 

 一応、チマチマと親密度は上げていたけれど、ルート分岐は親友の言うように私には出ずに、話にだけ聴いていた。

 そのダルシェスさんルートは、メインの一人――女誑しで過去に難有り、と等しく『中々にヘヴィな内容』だったらしいが。

 と言うか、ちびドラゴンに傾倒していた私はサブ攻略とか全くしていないので未知の領域で、そのサブからまた派生するルートとか訳分からん。

 無駄に頑張ったな制作チーム! としか思えなかった。

 

 あれ、いや待てよ。ちびドラゴンは『竜人(イルア)』だけど生物扱いだったしルートがないのは分かるけど、サブでも人の形してればエンド有りって事は――ヒライニア最高神官ルート、とか、ない……よね?

 あったら悔しくて悶え死ねる。

 何故、そこは網羅しておかない自分!

 

 自問自答で脳内が大混乱していると、顔にも表れていたらしくシスさんは楽しそうに眺めていた。

 近過ぎる顔も、逆に焦点が合わず油断していると、不意に訪れる頬への違和感。

 

「んふふっ、益々手放せなくなっちゃったじゃない」

 

 頬にキスされた、のと今の言葉で固まる。

 そんな馬鹿な。好感度が何時上がったのか分からない。

 

「シス様。いい加減にして下さい、シズクに失礼です」

「あら、羨ましかった? でもダメよ、暫くは――私付きになって貰う予定だから」

 

 咎めてくれようとしたウィルさんは、シスさんの勝ち誇ったドヤ顔と『決定』に絶句した。

 何故これ程強引な者が多いのか。出会ったのは三人と一匹だけだけど。

 メイン攻略対象と会う事はないように、と願っているけれど、シスさんでこれなのだ。

 俺様なメインキャラへと思い至り、これは相当厄介な気がすると、ごくりと生唾を飲み込む。

 

 そんな心中を察してくれる人物は居なくて、深夜に差し掛かろうという所でこの場はお開きとなった。

 

 ウィルさんは疲れ切った顔で部屋を出て行き、シスさんだけが居座って水を飲んでいる。

 そして、魔法でも使ったのか淡い光に包まれて綺麗になったコップを裏返した。

 何時帰るのだろうと伺っていると、徐に立ち上がり浴室の反対側の扉に向かって行く。

 

「え、シスさん、ちょっと待って下さい! そっちは廊下じゃないですよ?」

 

 慌てて駆け寄り引き止めると、にやりと、それはにやりと微笑んで爆弾を投下した。

 

「シズク。この扉は私の寝室に繋がっているから、眠れなかったら来なさいね?」

 

 何時でも大歓迎よ。

 そんな幻聴が聞こえた気がして、急いで首を横に振る。

 

「けっ、けけけ結構ですっ!!!」

「あら、残念」

 

 残念そうな表情は欠片も見せずに、「おやすみなさい。」と私の額にキスして扉が閉まった。

 

 数分固まった後、手を額に当てよろよろと寝台に突っ伏す。

 元の世界のベッドより上質で、柔らかなシーツに包まれた弾力のあるベッドに身体が二三度跳ねて落ち着いた。

 これまた高価そうな枕を引き寄せ、微妙な表情をしているだろう顔を埋める。

 

「……何なのこの世界の人、スキンシップ大好きか」

 

 潔癖気味なウィルさんを除くけど。

 枕でくぐもった声は吸い込まれて消え、いそいそとベッドカバーを被って眠りを待つ。

 非日常が続いたからか、あんな事があったにも関わらず睡魔に誘われ、瞼は正直に降りる。

 

 照明用の魔石はその気配を感じてか、徐々に明りを緩めていった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 物音を一つも立てず揺れる影は、一直線に彼女の元へ歩く。

 

 窓を通して月光が足元に降り注ぐ中、辺りは光なく静寂に包まれていた。

 すやすやと寝息を立てる彼女の寝台の隣に立ち、気配を消した者は無表情に息を殺す。

 

 その者は、寝返りを打って無防備な表情を晒す彼女の首元に触れ、安堵を目に浮かべ細めた。

 ゆっくりと紫紺の魔石を撫で、慈しむように漆黒の髪に触れる。

 慎重に屈み込み、指に絡めた一房を口元に寄せた。

 黒曜石の瞳が隠された瞼を見詰め、次いで口付けを落とし身を起こす。

 

 暫く彼女を眺めた後、影は名残惜しそうに暗闇に帰って行った。

 

頬なら"親愛"、額なら"友情"、髪なら"思慕"、瞼なら"憧憬"。

キスする場所で深層心理が分かるって面白いですよね。

いや、多分まだ深い意味はないと思いますけど。……たぶん。


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