ep4 一狩り行こうぜ!
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
「……さて」
ベッドから起き上がる。
今日は珍しくやる気があった。
「たまには働くか」
天変地異である。
窓の外では鳥が飛んでいた。
だが俺は知らない。
この一言が世界の均衡を揺るがすことを。
◇
「よっと」
窓から外へ出る。
なぜ玄関を使わないのか。
人に会う可能性があるからだ。
重要である。
◇
数秒後。
俺は王都を囲む巨大結界の頂上に立っていた。
高さ数千メートル。
誰も来ない。
誰もいない。
景色最高。
空気うまい。
風も気持ちいい。
「ふっ」
満足げに頷く。
「ここなら誰にも見つからないな」
完璧だった。
隠蔽スキルを六重展開。
気配遮断。
存在感希薄化。
視線誘導阻害。
認識錯覚。
その他諸々。
盛りすぎである。
だが本当に重要なのはそこではない。
そもそも。
こんな場所に人がいると思わない。
一般人。
来れない。
騎士。
来れない。
冒険者。
来れない。
魔法使い。
来れるかもしれない。
でも来ない。
つまり。
最強の隠蔽。
”物理的距離”
「完璧だ」
満足。
そして。
待つ。
「そろそろ来るかな」
数分後。
空が割れた。
どごぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!
黒雲が渦を巻く。
雷鳴。
魔力嵐。
空間歪曲。
邪龍降臨。
古の時代より人類を脅かした存在。
一体で国家滅亡。
一体で文明崩壊。
伝説級災害指定個体。
主人公。
「来たな」
軽い。
ものすごく軽い。
邪龍が咆哮を上げる。
グォォォォォォォォォォォォォ!!
大気が震える。
山脈が揺れる。
海が荒れる。
「今夜の……」
立ち上がる。
「ばんめしぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
邪龍。
死亡。
一秒。
いや。
〇・二秒。
討伐ですらない。
収穫である。
「いやっほぉぉぉぉぉぉ!!!」
ガッツポーズ。
「こいつめっちゃうまいんだよな!」
邪龍。
素材ではない。
メシ。
「特に聖魔法で浄化した後とか最高なんだよ!」
邪龍の尊厳がどんどん消えていく。
「ぷりっぷりなんだよな!」
うきうき。
「たぎってきたぁぁぁぁぁ!!!」
何がだ。
「ふぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!」
叫ぶ。
なお。
誰も聞いていない。
王都。
「あれ?」
「今なんか光らなかった?」
「気のせいじゃないか?」
終了。
一般人には見えない。
遠すぎるから。
◇
一方。
山脈。
修行僧。
硬直。
「……」
「……」
「……なんなんだあいつは」
震えていた。
邪龍が現れた。
死を覚悟した。
遺書の内容まで考えた。
それなのに。
ばんめし。
邪龍。
ばんめし。
修行僧の脳が処理を拒否していた。
「神なのか……?」
違う。
元ヒキニートである。
「俺は働いたぜぇぇぇぇぇ!!!!!」
本人ご機嫌。
邪龍片手。
「一狩りゲットぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
完全に狩りゲームである。
◇
そして帰宅。
夕食完成。
コーラ。
邪龍ステーキ。
最高。
「やっぱ働いた後の飯は違うな」
働いた。
本人はそう思っている。
◇
翌日。
王城。
「邪龍が消えた!?」
「何故だ!?」
「誰が討伐した!?」
王が叫ぶ。
勇者は遠い目をした。
「たぶん彼ですね」
「どこにいたのだ?」
「結界の上です」
「そんなところに何しに行ったんだ?」
勇者は少し考えた。
そして答えた。
「たぶん……」
「たぶん?」
「散歩です」
王は頭を抱えた。
◇
その頃。
本人。
ベッド。
コーラ。
昼寝。
「今日は休日だ」
邪龍討伐の翌日である。
世界最強だった。
そして。
圧倒的に平和な休日を送っていた。




